【CES 2019】「アレクサ」vs「ヘイ、グーグル」繰り広げられる縄張り争い

2019/1/15

他社の家庭製品や自動車に入り込む

さる1月8〜11日までラスベガスで開催されたCES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)。世界最大の家電展示会と呼ばれるだけあって、会場は約25万平方メートルの広さだ。
今年はこの広い会場を歩いていくと「アレクサ」と「ヘイ、グーグル」が交互に目前に現れるような気がしたはずである。
AIアシスタントが搭載されたスマートスピーカーであるアマゾン・エコーやグーグル・ホームは日本でも人気だが、その独自のハードウェアを超えて他社の家庭製品や自動車などに「アレクサ」と「ヘイ・グーグル」が入り込んでいるのだ。
そして両社がこれから熾烈(しれつ)な縄張り争いを繰り広げるのだということがひしひしと感じられたのである。
たとえば、アレクサが搭載された製品にはこのようなものがある。自動車、自転車、プリンター、コンピューター、スマート照明、楽器、スマートグラス、キッチンの蛇口、スマートトイレ、シャワー、オーブン、鏡、ヘッドフォン、スピーカー、セキュリティカメラなどなどだ。
グーグルも同じように様々な製品に「ヘイ、グーグル」と呼びかけられるようにしているが、製品の種類はアマゾンのほうが断然多い。
アレクサが搭載された製品にはアレクサの青い丸マークがついた「Amazon Alexa Enabled」というシールが貼られ、アマゾンがまたいつものように頑張って提携企業に説得して回ったのだろうということがわかるのだ。一部の製品は「アレクサ」と「ヘイ、グーグル」の両方が通用するようにもなっている。

音声聞き取りによる「データ取得」

少し前までは、AIアシスタントと言えばスマートフォンの中にいるものだった。
ここでは、アンドロイド・ユーザーをたくさん持つグーグルのグーグル・アシスタントや、アイフォーンのファンが多いアップルのシリが有利に見えていた。一方でスマホを持たないアマゾンはどうにも不利になるはずだった。
ところが、その間にアマゾンはエコー人気を確実にし、その土台を説得力にして今や他社の家電にまでアレクサを送り込むのに成功している。これからのデジタル競争の舞台はスマートフォンから家庭や環境そのものに変わっていくというのが、このAIアシスタントあるいは音声入力への注目で明らかだった。
ところで、AIアシスタントの縄張り争いはどんなことを意味するのだろう。
単純なところでは、売り上げの競争だ。アマゾンやグーグルはライセンス料のようなものを課金して音声システムを提供しているはずだ。それが広まれば広まるほど、売り上げは拡大する。
だが、もっと重要な縄張り争いは別のところにある。データである。
家電や自動車など日常生活をつかさどる様々な製品にAIアシスタントが搭載されることによって、ユーザーがいつどんな時に何をしているのかということがこと細かに把握できるようになる。話しかけるので、何をしたいのかもわかる。
以前、あるスピーカーのメーカーが製品をIoT化した際に、ユーザーがシャワーを浴びながら音楽を聞こうとしていることがわかったとして、防水スピーカーの開発につながったという話を聞いたことがある。
音声まで理解できるようになると、そんなことを超えた深いレベルでユーザーの生活の多くの側面がわかるようになるはずだ。

AIアシスタントの「主観」に左右されるリスク

これはユーザー側にとっては非常に気味の悪いことで、要注意ポイントでもある。音声で家電が操作できるのは確かに便利だが、同時に自分の生活の微細をデータ取得にさらしていることも自覚しておいたほうがいい。
また「アレクサ」や「ヘイ、グーグル」と話しかけない限りマイクロフォンは起動していないとされるが、本当に何も聞いていないのかの確証はどこにもない。
さらに、AIアシスタントが別の力を持つことも考えられる。
たとえば「マヨネーズを買っておいて」と冷蔵庫のAIアシスタントに話しかけたとしよう。どのブランドのマヨネーズを頼むのか、どのショッピングサイトから購入するのか、こまごまと設定しない限り、AIアシスタントが牛耳ることになるだろう。
同様に「音楽をかけて」「最新のニュースを聞かせて」「タクシーを呼んで」といった依頼にも、AIアシスタントの主観が入ったりするだろう。「アシスタント」とは呼ばれているものの、気をつけないとすっかり取り込まれてしまう相手なのである。
CESでは、実際の生活環境を再現したアマゾンやグーグルの展示会場で「もう、こんなにいろいろなものに話しかけられるようになっているのか」と驚いた。同時に「こんなにいろいろなものに、毎日話しかけたいものかなあ」とも感じた。
新しい技術は、使ってみないとどれだけ親和性があるのかがわからない。生活の中のAIアシスタントとの付き合いは、これから本格化する。
*本連載は毎週火曜日に掲載予定です。
(文・写真:瀧口範子)