1秒で数十億回の計算能力が必要

現在、自動運転車をテストしているモビリティサービス提供企業や自動車メーカーは何十社も存在する。
しかし、そうした車がまだ主流ではないのには理由がある。そうした車は、これまでで最も進んだ人工知能を使っており、最先端のコンピュータービジョンと、1秒間に数十億回の計算能力を必要とする。金のかかる話なのだ。
それでも、そのコンピューターに「見ること」を教えるためには、もっとなじみのある方法が必要だ。一般の人を1時間数ドルで雇い、簡単なタスクを実行してもらうのだ。
コンピュータービジョンのMightyAIは、AIのプログラムが世界をもっとよく見て、もっとよく理解できるよう訓練している。たとえば、風に飛ばされた紙袋と道路を渡ろうとしているネコを、より正確に判別できるようにさせるのだ。
同社では人間に依頼して、スマホやパソコンで画像認識の単純なタスクを実行してもらっている。タスク1件につき数セントあるいは数ドルで、街の風景の画像を受け取り、歩行者や車、道路標識、あるいはシステムが要求する対象物を何でも説明してもらうのだ。
それらの情報は、自動運転車のメーカーなどコンピュータービジョンの技術を開発している企業向けのデータセットを強化するために使われる。
共同設立者のダリン・ナクダCEOは、同社の顧客企業については口をつぐんでいる。自動車業界は、自動運転技術に関して秘密主義だというのだ。
「クライアントは、まずは自動車メーカーだ」と彼は言う。「そのほかのクライアントとしては、1次サプライヤーもいる。また、知覚やカメラ、そのほかのセンサーに関わるハードウェアを製造しているスタートアップの一部もクライアントだ」
同社が社名を明かすことができる顧客が、ミシガン大学の車両試験施設であるMcityだ。フォード、GM、ホンダ、トヨタが名を連ねるMcityのメンバーは、MightyAIのデータセットにアクセスすることができる。

人間のインプットでデータセット強化

シアトルに本拠地を置くMightyAIは、同社のプラットフォーム「Spare5」への参加希望者を最初にスクリーニングする。実際のタスクと同じようなテストを受け、写真の中の特定の物体について説明しなければならない。
単純な作業ばかりとは限らない。たとえば車の一部が見えにくい場合は、車の境界がどこにあるのかを判断しなければならない。
スクリーニングテストに合格すると、新たにたくさんの写真を渡され、同じようなタスクを行う。写真を説明するキーワードを作成したり、特定の物体を分類したりもする。
タスクの複雑さによって、ひとつのタスクにつき1セントから数ドルが支払われる。それぞれのタスクは、たいてい数秒で実行できるが、簡単にできるフルタイムの仕事が見つかったと思ってはいけない。必要に応じて、提供されるタスクの数は日によって違うし、限られている。
MightyAIは、一般的に人間は反復性のタスクを与えられるとすぐ飽きてしまうとわかっている。1日に数時間、この作業を続けるというのは現実的ではない。2~3分時間があいたときに、ちょっとした気分転換にやるような仕事だ(「Spare5(5分を割く)」という名前はそこから来ている)。
ナクダCEOは、このプラットフォームに50万人以上が登録していると語る。MightyAIがターゲットにしてるのは、InstagramやFacebook、Twitterなどを使うユーザーだ。
人間によるインプットでシステムを頻繁に訓練すれば、同社のデータセットは強化され、コンピュータービジョンのソフトウェアをつくる企業にとって価値あるものになっていく。
「ほとんどのAI企業が取り組んではいるものの、最も面白味に欠けていて、最も重要なのがデータだ」と、ナクダCEOは説明する。「正確に分類されたデータを持つ必要がある。どれほど優れたアルゴリズムでも、訓練されただけの力しか発揮しないのだ」
MightyAIは2014年、言語処理技術の開発を目的として設立された。しかし、アマゾンやグーグルなどの大手がすでにこの分野を独占していると判断して、軌道修正。最重要分野を自動運転車の画像処理に定めた。
「自動車業界では、安全性とデータの特性から、非常に複雑で品質の高い製品が求められることがわかった」とナクダCEOは語る。「それは、われわれにとって大きなチャンスだと考えた」
同社の従業員は85人。これまでに2700万ドルの資金を調達している。投資しているのはインテル、GV(旧グーグル・ベンチャーズ)、投資家ブラッド・フェルド率いるFoundry Groupなどだ。
MightyAIは自動運転車を主要目標にしているが、同社の物体認知技術は、オンラインショッピングのプラットフォームや配送ロボットの開発にも役立つと説明している。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Kevin J. Ryan/Staff writer, Inc.、翻訳:浅野美抄子/ガリレオ、写真:mikkelwilliam/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.