【上野千鶴子】「女女格差」が広がる日本へ渡す、3つの処方箋

2019/1/6
近年、女性の結婚観は目まぐるしく変化した。
女性の就ける仕事が限られていた時代、結婚は経済的安定のために「必須」のライフイベントだった。
しかし、1985年に男女雇用機会均等法が施行され仕事の幅が広がった中、結婚は「選択肢のひとつ」に変わった。今、生涯未婚率は上昇傾向にある。
そうした価値観の変化にもかかわらず、依然として日本は、自立しようとする女性に厳しい。
400万円を超える年収を稼いでいる女性は、女性労働者の21.7%しかいない。また、父子家庭の平均年間収入が573万円であるのに対し、母子家庭はたったの348万円にとどまっている。非正規雇用の割合も、男性は約2割だが、女性は約6割だ。
男女雇用機会均等法は表面的な差別はなくしたかもしれないが、統計データは、性別によって仕事や賃金が変わる実態を浮き彫りにしている。こうした中、「子どもを産もう」と決断できる女性は限られ、少子化に歯止めがかかる気配はない。
なぜ、日本は変われないのだろうか。
上野千鶴子氏は、社会全体の「構造」に問題があると指摘する。
「平成をアップデートせよ!」上野千鶴子氏の後編では、こうした日本社会を、まさにアップデートするための「処方箋」が提案される。

均等法は「男女平等」なのか

──1985年、男女雇用機会均等法によって、女性の働き方が変わりました。
この法律は、募集・採用や、昇進・昇給、教育・訓練、福利・厚生、定年、解雇などの点で、性別を理由に差別的な扱いをしてはならない、という趣旨のものです。
上野千鶴子(うえの・ちづこ)/社会学者、東京大学名誉教授、認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)理事長
1948年富山県生まれ。京都大学大学院社会学博士課程を修了後、平安女学院短期大学助教授、シカゴ大学人類学部客員研究員、京都精華大学助教授、メキシコ大学院大学客員教授等を経る。1993年に東京大学文学部助教授(社会学)、1995年から2011年3月まで、東京大学大学院人文社会系研究科教授。2011年度から2016年度まで、立命館大学特別招聘教授。2011年4月から認定NPO法人WAN理事長。 専門は女性学、ジェンダー研究。近年は、高齢者の介護とケアの分野に研究領域を拡大。
それまでは、正社員募集の欄に「男性のみ」と記載する企業も多かったものですが、この法律の施行を機に、許されなくなりました。
また、この法律ができる前は、労働基準法に「女子保護規定」という項目がありました。これは、「母体保護」の観点に基づき、女性労働者の残業の制限や、深夜業の禁止、危険有害業務の制限、そして生理休暇取得の権利などを定めたものです。
だから、マスコミが女性記者を採用することはあっても、夜勤のない「文化部」や「生活部」などの「婦人科ゲットー」と呼ばれる部署にしか配属されませんでした。女性は「会社のお客様」扱いだったのです。
それが、男女雇用機会均等法により、女性も男性と同様に、夜勤のある部署や支局勤務などでも、働けるようになりました。
男女雇用均等法の施行により、新人の女性社員も昇柱訓練などに参加するようになった(写真:読売新聞/アフロ)
一見、女性にチャンスが解放された、良い法律に思えます。事実、一部のマスコミ労働者や管理職の女性からは、歓迎されました。
しかし、覚えておいてほしいのは、この法律の成立にあたり、ほとんどの民間の女性団体は反対に回ったということです。
──なぜでしょうか。