ボストンのスタートアップが開発

米国内にある非公開の巨大な倉庫で、電子レンジくらいの大きさの四輪の自律走行車が、ロボットアームに近づいて突然停車した。
アームは回転して、四輪車に載っているプラスチックの箱の中に先端を入れ、シューという音とともに「ハンバーガーヘルパー」(NP注:パスタと調理用のソースがセットになった商品)の箱を一つ取り出し、それを出荷用の段ボール箱に入れた。すると、また別の自律走行車がその箱を運んで行った。
このシステムは厳重に秘密にされてきた。しかし2018年、感謝祭(11月22日)の数日後、ちょうどショッピングシーズンが始まった頃、これらのロボットを製造するボストンのスタートアップ企業、バークシャー・グレイが本誌記者に公開してくれた。そこでは、何十もの小さな機械が巨大な倉庫内を走り回っていた。
2013年に設立されたバークシャー・グレイは、このシステムをアマゾンではない大手小売業のためにつくった。同社は、アマゾンの無慈悲なまでの効率に打ち勝つ方法としてこのシステムを売り込み、何千万ドルもの料金を請求する。
バークシャー・グレイのCEO、トム・ワグナーによると、アマゾンに慣れた顧客はこう言うという。「私は欲しいものを間違いなく手に入れたいし、すぐに手に入れたい。ああ、それから、配送料はもちろんタダだよね」

小売業の倉庫という厳しい労働環境

ウォルマートやターゲット、ベストバイなどの小売り企業は、オンラインでより多くの顧客を獲得せざるを得ない状況になっている。感謝祭翌日のブラックフライデーには、オンラインショッピングの販売額が前年より24%増加した(アドーブ・アナリティクス調べ)。
一方で、実店舗への来店客数は約2%減少した(ショッパートラック調べ)。アマゾンによると、2018年のサイバーマンデー(感謝祭翌週の月曜日)は、1日当たりの売上額が同社史上最大となったという。
ワグナーは以前、ロボット掃除機メーカーのアイロボットでCTO(最高技術責任者)を務めていたが、ある小売業の配送センターを2012年に訪問したあとで、バークシャー・グレイのアイデアを思いついた。
アマゾンは、7億7500万ドルでロボットメーカーのキヴァ・システムズを買収した。同社のロボットは倉庫内で棚ごと商品を運んでおり、このロボットたちが過酷さで知られる配送業務で大きな競争優位となっている。
ワグナーは配送業務について、こう話す。「非常に労働集約的だ。あまり人気のある仕事ではない」
この言葉は控えめすぎるだろう。小売業の倉庫での労働は体力的に非常に厳しく、賃金がとても低いため、自動化が進む時代でも十分な数の労働者はなかなか雇えない。
また、低賃金で搾取的かつ安全性に問題のある労働環境は、つねに批判を受けている。ブラックフライデーには、アマゾンのドイツとスペインとイタリアの労働者が、その労働環境に抗議して、仕事中に職場を放棄した。

モノを「つかむ」のは実は難しい

ワグナーによると、バークシャー・グレイのシステムはアマゾンのロボットより先進的だという。バークシャーのロボットは商品を選び出し、梱包し、出荷するが、たいていの商品で人間が介入することなくこの作業を行える。
「フレックスボッツ」と呼ばれる同社のロボットは、小さな自動運転車のように働く。
棚の下に停車し、商品がたくさん入ったプラスチックの箱を自分のプラットフォームの上に載せると、その箱をロボットアームのところまで運び、今度はロボットアームが商品を箱から取り出して出荷用の箱に入れ、また別のロボットアームとコンベアベルトがその箱を分類する。
アマゾンと他の小売業者では、商品を選び出す作業は人間が行っている。なぜなら、人間の手は単三電池でも電球でも同じように簡単につかめるが、その作業を行う手をロボットで真似るのは非常に難しいからだ。
技術的なブレークスルーとなったのは吸盤だったと、マット・メイソンは言う。メイソンはバークシャー・グレイのチーフサイエンティストで、カーネギーメロン大学のコンピューターサイエンスの教授でもあり、グリップ(つかむこと)を専門とする。
メイソンとバークシャー・グレイの100人の従業員は、本社のあるマサチューセッツ州レキシントンと、ピッツバーグの研究開発ラボでこのシステムの開発を行った。
同システムは、AIソフトウェアに接続されたカメラで各商品をスキャンして認識し、出荷されるべきものかどうかを検証して、どこをつかむかを決める。
すると、ソフトウェアが先端に吸盤のついたロボットアームに指示して、エアコンプレッサーを使って真空を生じさせ、フレックスボッツの箱から商品を持ち上げて、出荷用の箱に入れる。

繰り広げられるロボット開発競争

バークシャー・グレイによると、同社は複数の大手小売り企業や流通企業と契約を結び、それらの企業は商品を棚などから集めるための人件費を最大で80%削減したという。
壊れやすいものや5ポンド(約2.3キログラム)を超える商品を扱うのは、まだ人間でなければできないが、ワグナーによるとバークシャー・グレイは5ポンドを超える商品を扱えるシステムも設計できるだろうという。
しかし、ワグナーがこのロボット開発競争に簡単に勝てるというわけではなさそうだ。
2018年5月には、スーパーマーケットチェーンのクローガ-が、英国のオンライン食品スーパーのオキャド(Ocado)の過半数未満の株式を2億4800万ドルで取得した。オキャドは完全に自動化された倉庫を開発中だ。
また同年10月にテクノロジー・ニュースサイト「インフォメーション」が報じたところによると、アマゾンは独自の真空式グリッパーを開発しているという。
しかし、ワグナーは必ずしもアマゾンを上回る必要はない。ほとんどの小売業者がアマゾンに大幅に遅れをとっていることから、アマゾンに追いつくことだけでも勝利だといえるからだ。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Max Chafkin記者、翻訳:東方雅美、写真:©2018 Bloomberg L.P)
©2018 Bloomberg L.P
This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.