前触れは突然の社名変更だった

2月、ミーガン・マン(32)とその一行がカンボジアに滞在中、ウィー・ロームのネーサン・イェーツ最高経営責任者(CEO)は、社名をワイ・コーに変更すると発表した。
同時に共同創業者のショーン・ハーベイが社を去った(ハーベイにこの記事のためのコメントを求めたが拒否された。またイェーツにも、ハーベイとたもとを分かった件についてのコメントを求めたが返事はなかった)。
イェーツはブログプラットフォームのMediumに、おしゃれに加工した自分の写真とともにだらだらと長い投稿をして、その中で社名変更について説明。新しい社名をドレークや2チェーンズといったラッパーになぞらえた。また、社名変更は知的財産がらみの対立がきっかけであることも触れている。
「大丈夫かな、という気分にちょっとなり始めた」とマンは言う。続くオーストラリアとアルゼンチンの滞在中も、心の片隅に不安は引っかかっていた。そして4月末、ブラジル南部のフロリアノポリスに一行が到着した直後に不安は的中する。
イェーツは緊急メールの中で、突然の社名変更は名前をめぐって同社を訴えていた他社との和解条件だったと語っている。この他社がどこかについてイェーツは触れていないが、裁判記録によればこれはローム・インターナショナル社で、ウィーワークに似た事業を世界各地で展開している。
ウィー・ロームはまた、別のライバル社に対して「多額の」和解金を四半期ごとに支払っているとイェーツは書いていた。この相手は裁判記録によればリモート・イヤー社で、2017年にビジネス上の秘密を盗んだとしてウィー・ロームを訴えていた。
社名変更を行った時点ですでに、ウィー・ロームは訴訟費用のために資金が枯渇していた。おまけにこの社名変更により世間の認知度は下がり、グーグルなどの検索エンジンでのランキングも下がった。
「6月(のツアー)に申し込んでいる人数は1月時点に比べて半分以下で、秋にはほんの数人になるだろうと予測している」という文面にマンは驚いた。
またイェーツは、会員数の減少に基づくキャッシュフロー予測を見直した結果、運転資金が1~2カ月分しかないことをほんの1週間前に認識したこと、それからの数日、急いで出資者を探したもののどこからも応じてもらえなかったことを語った。
「会社をまとめ、生き残らせることに失敗したためにお客様や友人たち、家族の生活に悪い影響を与えている。この現実の重みを残る生涯にわたって背負っていく所存だ」

「まだ5カ月しか経っていないのに」

ベッドに座ってメールを読んでいて「目の前のすべてが崩れていった」とマンは言う。「仲間たちや仲良くなったウィー・ロームの従業員たちのことを思うと悲しくて感傷的になった。それから突然、頭に浮かんだのは、仕事のために自宅に戻らなければならないだろうということだった」
マンのように、きちんとした企業の企画するツアーを利用するという条件で長期のリモートワークを勤務先から認められていた利用者は多かった。「1年間、留守にするつもりで生活も住居も整理してきた。犬の面倒を見てくれる人も見つけたのに、まだ5カ月しか経っていない。このままでは帰れない」
驚いたことに、上司はその後もリモートワークを続けることに同意してくれた。そこでマンは数人の旅仲間とともに、自力で規模を縮小した旅を続けた。エアビーアンドビーで住む場所を予約し、短期契約でオフィスを借りた。
だがもっと困った目に遭った人々もいた。デポジットを支払ったのに倒産に関する電子メールが来ず、人づてにそのことを知ったと語る利用者もいた。旅が始まったところで倒産を知らされた人々もいた。
フロリアノポリスなどで働いていたスタッフの中には、突然失業したばかりか米国に戻るための飛行機代もない人もいた。彼らは現地でそのまま2~3週間過ごし、利用者が対応策を探す手伝いを無給で行った。
イェーツはメールで、利用者への返金のため会社の知財の一部を売ろうとしていると語っていた。だが数カ月経つうちに、利用者たちはびた一文受け取れる期待もないということを理解し始めた。
弁護士に相談した人もいたが、わかったのはたいした法的手段は取れないということだった。残された資産の分け前を受け取る権利については、利用者より債権者のほうが強かったからだ。
6月の電子メールでイェーツは、債権者の一部が「私自身と共同創業者の後を引き受ける」と述べるとともに、資金繰りが苦しいことが判明した際に会社の経営権は一部の債権者の手に渡ったとも述べていた。
混乱の中で、ブエノスアイレスやリマ、フロリアノポリス、メデジンといった都市に取り残された利用者たち(そして旅立つ前だった人たち)は、横のつながりを持ち始めた。
イェーツは5月、そうした利用者たちのグループに向け、他の旅行会社に紹介する際の割引について説明するメールを送った。ところが彼は、リストに名前がある人々への同報メールを怠った。7月、メールを受け取った人々は返金の進捗状況について互いに情報交換するようになった。

倒産5日前に払い込みをしたケースも

リアナン・クック(30)は、グーグルのスプレッドシートに自分の損害額を記入してみないかとみんなに呼びかけた。33人がそれに応じ、クックによれば総計10万7000ドルになったという。クック自身の損害額は約4000ドルだった。中には1万1500ドルを失ったと語る女性もいる。
「私にとっても、私の出身地の相場でも、4000ドルは安い額ではない」とクックは言う。「私たちは結局のところ手にすることのなかったモノやサービスに金を払い、連中は私たちの金を受け取った」
支払いにペイパルを使った数人の利用者については返金が実現した。ペイパルが返金に応じたからだ。ブルームバーグ・ビジネスウィークの取材に応じた利用者および元スタッフは、会社から何らかの返済を直接、受けた人がいるという話は聞いたことがないと異口同音に答えた。
エミリー・バヒ(32)はミズーリ州カンザスシティ出身のフリーランス・デザイナーだ。8月からの3カ月間、ウィー・ロームのサービスを利用するつもりで、倒産の5日前に900ドルをデポジットとして支払った。ぎりぎりのタイミングだっただけに「承服しがたい」と彼女は言う。
「あの時点で何が起きているかを(関係者が)知らなかったとは理解できないし信じることもできない。正直なところ、あの支払いを彼らは受け取るべきではなかったと思う」
エリン・スウィーニーはデポジットと航空券代として支払った4550ドルの返済を求めてイリノイ州クック郡の簡易裁判所に訴えを起こした。
スウィーニーからコメントは得られなかったが、裁判記録によればウィー・ローム側は公判に出廷せず、判決ではスウィーニー側の要求が満額認められたという。もっとも、回収できるかどうかは別の話だ。
ハーベイは8月にニューヨークで自己破産を申請し、裁判所の記録によれば合わせて28万ドル以上の債務が免除されることになった。
リンクトインのプロフィールによれば、彼はブローカー・ブッダという新興企業の「最高研究責任者」ということになっている。保険の書類手続きを自動化する会社で、ロマンティックさにおいてはウィー・ロームと比べるべくもない。
イェーツがケープタウンやカリフォルニア州の国立公園を旅した写真を「#旅心」や「#ハッピー」といったハッシュタグ付きで投稿したことは、嫌でもウィー・ロームの利用者たちの目に触れた。イェーツのリンクトインのプロフィールには、ニューヨークにあるオーダーメイドのサーフボードの会社のCEOを務めていると書かれている。
11月に利用者向けのメールでイェーツは、現在はアフリカ在住で「自分の債務の繰り延べや米国に帰れる日まで返済の大半を遅らせることで自己破産を回避したいと考えている」と述べている。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Ellen Huet記者、翻訳:村井裕美、写真:mikkelwilliam/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.