[東京 21日 ロイター] - 大規模な自然災害の続発で、大手損保各社にとって重要度が増している再保険市場を巡り、スタンスの違いが鮮明化してきた。投資マネーの流入で再保険ビジネスの事業環境が厳しくなったとして、東京海上ホールディングス<8766.T>が再保険専門会社を売却する一方、MS&ADホールディングス<8725.T>は再保険子会社を保有したまま事態の好転を待つ戦略だ。方向性の違いが、将来の収益格差につながる可能性が出てきた。

7月の西日本豪雨、9月の台風21号、24号と、今年は自然災害が猛威を振るった。風水災・地震合計の保険金支払いは今年度、業界全体で約1.3兆円に上る見通し。2011年の東日本大震災の時の支払い保険金に匹敵する規模だ。

大規模な自然災害に伴う保険金の支払いと収益への影響をどうコントロールするか、カギの1つが再保険でカバーする割合だ。再保険は損保会社のリスクヘッジの手法で、想定を超える大規模な自然災害の発生に備え、損保会社が再保険会社に保険料を支払う。

<再保険市場の構造変化>

しかし、再保険市場に起きた「構造的な変化」で、関係者の読みは難しくなった。世界的な金融緩和で主要国の国債利回りが低下し、オルタナティブ投資の対象として再保険市場に投資する保険リンク債が急速に普及した。

保険リンク債は、契約期間中に大規模災害が起きなければ、元本とともに相対的に高い利回りが支払われる一方、ハリケーンや大規模な台風の発生など一定条件を満たすと、元本が発行者への保険金支払いに充てられ、元本がき損するリスクがある金融商品。マクロ経済や金融政策の動向に左右されない点が特徴で、個人投資家やヘッジファンド、年金基金などが投資している。

保険リンク債の1種であるCAT債は17年、新規発行額が初めて年間100億ドルを超えた。18年の発行残高は7月時点で350億ドルを突破し、11年の倍以上の水準。S&Pによると、グローバル再保険会社の資本調達に占めるオルタナティブ投資由来の資本の比率は12年ごろから上昇を続け、今年の第1・四半期時点で16%に上った。

投資マネーの流入増で、いざというとき再保険の保険金を出す主体が増えたため、再保険会社が徴収する保険料は上昇しにくくなった。17年に北米を襲ったハリケーンで、業界関係者は18年の再保険の保険料が上がると予想したが、「結局、それほど上がらなかった」(関係者)という。

発生保険金を再保険でカバーする割合を高めたい場合、保険料に増額圧力が掛からないことは損保会社には好都合だ。しかし、再保険会社の保険料収入は増えにくくなる。

<分かれるスタンス>

大手損保は海外の保険会社を相次いで買収してきた。収益拡大のみならず、大規模な自然災害のリスクを地理的にも、事業的にも分散する戦略だ。だが、ここに来て買収した再保険事業への対応の違いが鮮明化してきた。

再保険を巡る相反する利害の狭間で、現状を維持するのはMS&ADだ。

2016年、英国の保険大手アムリンを6000億円超で買収。アムリンは再保険事業が柱で、再保険市場への投資マネーの流入は逆風だが、MS&ADは売却しない方針。MS&ADホールディングスの広報・IR部長、塩野諭氏は「日本では、来年度に向けた交渉で再保険の保険料が下がりやすい状況を活用する一方、アムリンでは身をかがめながら次の環境変化に備えていく」と話す。

SOMPOホールディングス<8630.T>は、自然災害のリスクを引き受ける海外の再保険事業が損保事業の売上の数%程度。再保険事業の比率を一段と引き下げる予定はない。

ただ、来期の保険金支払いに備え、再保険でカバーする割合をどうするかは未定だ。中間期は元受発生保険金3028億円のうち、約半分の1556億円を再保険でカバーした。

「経営陣は悩みながら議論している」と、損保ジャパン日本興亜・経営企画部の近藤利宣課長は話す。今年相次いだ大規模な自然災害が果たして「ニュー・ノーマル」なのか議論しているという。

<東京海上は再保険事業を縮小>

2社とは対照的に、再保険専門会社を売却し、再保険事業を縮小するのは東京海上だ。今年10月、トキオミレニアム・リーなど2社の全株式を売却すると発表した。

東京海上の長沼聡史・海外事業企画部部長は「かつての再保険市場には戻らないだろう」と指摘。年金ファンドなどの資金が定着しており、事業環境の大幅な改善は見通せないと話す。

リスク対比の収益性に見合わないものはやらないという規律を示した――。S&Pグローバル・レーティング・ジャパンの久保英次・主席アナリストはこう話し、東京海上の経営判断を評価する。

再保険事業の温存か売却かの違いは今後、収益力の違いとして表れる可能性がある。

(和田崇彦 編集:布施太郎)