一部の人のなかでは、「もうオワコンだ」と指摘されるテレビ。しかしそれは、「これまでは、テレビの持つ可能性を正しくはかることが出来なかったからだ」と主張するのが、CCCマーケティングである。TV視聴データと購買データを掛け合わせるという、まったく新しいマーケティング手法を用い、TVを元気にしようと考えている同社の取り組みを追った。

テレビは本当にオワコンになったのか?

――これまでのTVを取り巻く環境は、どのようなものであったと捉えていらっしゃいますか。
マーケティング的な視点からいえば、これまでのTVは、いわゆる“空中戦”と呼ばれる手法で展開していました。何億円もの予算を投下して、ターゲットを限定することなく、幅広い層に向けたCMを放映して、“何となく影響があったような気もするが、実態はよくわからない”という状況であったかと思います。
そこにインターネットが登場して、ピンポイントでターゲットにアタックすることが可能となり、しかもその効果が数値化できるようになりました。新聞、雑誌、ラジオ、TVといった従来の4マス媒体では不可能だったことが可能となり、それが影響してかマーケティング界隈で“TV不要論”がささやかれるまでになっていました。
しかし“実際にはTVに触れている人って結構多いよね”というのが、私の肌感覚としてありました。TVというメディアの力と、世の中で言われるビジネス的評価の乖離が、どんどん大きくなっているのではないかと考えるようになっていきました。
結局、マーケティングは、最終的には数字です。もちろん、マーケティングに限らず、ビジネスの世界はすべて数字で成立しているのに、CMやマス広告の世界にだけ一切存在していないことに違和感を覚えていました。
しかも、広告費の大半をTVに投下している企業はまだまだ多いという現実があります。 であるなら、効果を可視化できないというTVの弱点を解決すれば、TVのマーケティングツールとしてのポテンシャルは、飛躍的に向上するのではないかと考えるのも当然のことでした。
橋本 直久 CCCマーケティング株式会社 TVデータ事業ユニット ユニットリーダー
2001年PR会社プラップジャパン入社、その後NTTグループの広告会社に移籍。広告領域、および事業開発支援に従事する。2014年からCCCグループに参画し、現在に至る。
――どのようにしてTVの効果を可視化するのでしょうか。
私たちCCCグループが運営するTポイントは、現在、約6,700万人の会員を有すると同時に、179社と連携することで、日本全国約90万店舗で利用できるネットワークを持っています。すなわち、会員がいつどの店で何を購入したかという行動記録、マーケティングでいうところの、いわば“答え”だけを持っているという状況でした。
ここにコミュニケーションの最初の部分を可視化できる仕組みを持ち込むことで、“答え合わせ”のプロセスが明確になるのではないかと仮説を立てました。そのコミュニケーションの入口として、メディアの中でも最も大きな威力を持つTVを据えました。そして、T カード番号を直接TV機器に登録し、個別に許諾を取得することで、TV機器とカードがつながる仕組みをつくり、CMを見た会員が、その翌日どこで何を買ったのかが、わかるようになりました。
現在、ご自宅のインターネットテレビを介してTポイントを登録している会員が全国に20万人ほどいらっしゃいます。この巨大なデータベースという資産を生かして、インターネットテレビというバーチャルと、実際に店舗で商品を購入するというリアルが突合できる唯一無二のモデルを構築しました。
一口に“20万人”といっても、ピンとは来ないかもしれませんが、全都道府県のあらゆる年齢層を網羅した20万人であり、しかも男女1歳区切りでデータ収集できる点に、従来の900世帯を対象に、男女15歳区切りで実施する視聴率調査とは大きな差異があります。
また、全国地上波、独立系地上波、さらにはBS、CS放送まで、あらゆる放送局をカバーし、さらにLive視聴も録画視聴も含め、1秒単位でデータを収集することが可能な点も大きなアピールポイントとなると自負しています。
もちろんTVを視聴する特定の個人の行動記録を収集する仕組みではなく、あくまで匿名の統計データとして処理をするだけなので、個人情報に到達することはありません。
リスティングのような一般的なインターネット広告も、購買行動と紐づいているように思えますが、それはネット通販という限定された世界の中でしか把握できません。また、世の中には無数のポイントシステムが存在していますが、Tポイントのように幅広い業界を横断して利用できるカードはありません。
言うまでもなく、人間の購買行動は複雑です。AさんがBという商品を購入したというデータはあくまで点にしか過ぎず、Aさんがエネオスでガソリンを入れてファミマでおにぎりを購入したなど複数のデータを掛け合わすことではじめて、購買者の奥行きある立体像を描くことができます。
それは業種業態を横断した購買データを保有するからこそ可能であり、さらにいえば、約6,700万人という会員ボリュームを持つシステムは、業界内でも稀有なものと自負しています。

広告主、TV局、そして視聴者に提供する価値

――このTVと購買データを掛け合わせた、唯一無二のマーケティングツールは一体、どういう価値を生むのでしょうか。
私たちが提供する価値は大きく三つあると思っています。一つ目は広告主に、二つ目はTV局に、そして三つ目はTVを視聴する生活者それぞれに提供しています。
広告主である企業に対しては、20万人の会員がCMを何回見て、その商品を買ったのか、買わなかったかが、一目でわかるデータを提供します。CMの効果を測定することで、同じ広告予算でも、より効果が期待できる番組を提供するなど、TVの力を活用した効果的なマーケティング活動を支援することができます。
皆さんが想像する以上に、細かいことまでわかります。例えば、用途が同じような調味料であっても、片方のメーカーのものはTBSのある時間帯の番組を見ている視聴者から支持が高く、もう一方の商品を購入するテレビ朝日の深夜帯の番組を好んで見ているということまでわかります。そのメーカーの担当者は、どの番組のスポンサーになるべきか、答えはおのずと見えてくるわけです。
TV局に対しては、放映している番組に対する評価を、視聴率よりもっと詳細な物差しで推し量り、提供することができます。視聴率だけで判断すると、どうしても人口ボリュームが多い高齢層を意識した番組が中心となり、若者のTV離れが進んでしまいます。
私たちが保有するデータを分析すれば、“60代には刺さらないが、20代に抜群に刺さる番組があること”の根拠がデータとして明確になり、“深夜0時以降は高齢者におもねることなく、ビジネスパーソンや若者向けの番組を作り続ければいい”というジャッジメントにつながります。
そもそも、本来のTV局のミッションは、放送波を使って、あらゆる人々が本当に面白く、価値あるものと認める番組を制作することであり、そして広告主である企業にとって最適な番組枠を紹介して、活用していただくことであったはず。私たちのデータを活用することで、そういった本来の役割が全うできるのではと思っています。
どの曜日のどの時間帯に、どのような属性の人が視聴しているのか?がはっきりすれば、広告主である企業は出稿する価値を見出しやすくなります。そしてTV局は、すべての世代に対して、それぞれに求められる番組が作れるようになります。
結果として生活者は、日常的にTVを見る時間帯に自分の好きな番組が存在して、しかもそれが打ち切られることなく、生き残ってくれるようになります。顕著な例として、深夜番組が、ちょっと人気が出てゴールデンに移った途端、ワンクールでなくなってしまう現象があったかと思います。深夜番組とゴールデンでは、見ている属性が異なるから、数字はついてこないと、関係者は、本当はわかっていたのに、視聴率だけで判断してそんな乱暴なことが起こってしまう。私たちのデータを使って、「この時間帯にあるからこそ視聴率が担保できているのだし、確実に視聴者に刺さっていることがデータとして把握できて、だから話題になっているのだ」と説明すれば、曖昧な感覚が明確になって説得力が増します。
現在、私たちは実際にTV局に対して、番組の編成に関する課題抽出やアドバイスといった形でビジネスを展開していますし、広告主である企業とTV局をつなぐ仕事にも従事しています。TV局に対して新しい番組作りに協力してくれる企業についてアドバイスしたり、逆に広告主に対しては、商品ごとに提供番組の見直しを図るようご提案をしながら、TVの世界をサポートしています。

可能性を秘めた鉱山を最大限活用する

――最後に、TV事業が目指す未来について教えてください。
視聴率をベースとしたTV広告のビジネスは30~40年前に出来上がっていて、そこからずっと何ら変わることがありませんでした。私自身、TVが好きだからこそ、数字も持たない従来型の広告の在り方に違和感を覚えていましたし、広告主である企業の皆さんが稼いだお金を、効果の曖昧なCMに投入するのではなく、適切に使って適切な効果を生むべきではないのか?と思っていました。
TVCMを、あってもなくてもよいものではなく、ビジネスに活用できる最強のマーケティングツールに昇華したい。そのためには、少々乱暴な王者であるがゆえに、インターネットに後れを取ってしまったTVのメディアとしての弱点を、しっかり“見える化”して戦っていける状態にする必要があります。私たちには、大きく業界を変えていきたい、いわれもなく“不要論”にさらされていたTVに再度力を持ってもらいたいという想いがあります。
したがって、当社が持つアセットを活用しながらTVを元気にしていきたいと考えられる人と一緒に仕事がしたいと思っています。私たちが構築してきたこのシステム、豊富なデータはいわば、未知数ともいえるポテンシャルを秘めた大きな鉱山のようなものだと捉えています。
今は、そこから少しずつ流れてくる砂金を活用しているにすぎません。だからこそ、実際に鉱物を採りに行って、どのように加工して、どこに売っていくのか、新しいビジネスを一緒に考えてくれる仲間を欲しています。
(インタビュー・文:伊藤秋廣[エーアイプロダクション]、写真:岡部敏明)