ジェームズ・ジョウ(周剣、Zhou Jian)が創業した一般消費者向けロボットのスタートアップは、評価額がこの分野で世界最高となった。

評価額50億ドル、2019年IPO狙う

中国のロボット工学分野の億万長者ジェームズ・ジョウ(周剣、Zhou Jian)は2018年、ひとつの勝利を手にした。自身が率いるスタートアップがテンセント・ホールディングス(騰訊)からの出資を受けて、50億ドルという企業評価を得たのだ。
だがすでに、さらなる資金調達に乗り出している。その狙いは、歌って踊ってヨガも教えられる自社のロボットをもっと人間らしくすることだ。
40歳のジョウが率いるUBテック・ロボティクス(UBTECH、中国名:優必選)の提携相手には、数々の有名企業が名を連ねている。
UBテックの子ども向けロボット構築キットは、アップルの店舗で販売されている。同社の人形サイズのロボットでは、アマゾンのバーチャル音声アシスタント「アレクサ」を使用できる。
ウォルト・ディズニー・カンパニーと共同で『スター・ウォーズ』に登場する「ストームトルーパー」のロボットも製造している。また、UBテックの教育ロボットには、テンセントの音声アシスタントを使用している。
だが、ジョウのロボットは言語処理能力を改良する必要がある。その点が、幅広く販売していくうえでの大きな障壁となっているからだ。
ジョウは積極的な人材採用に乗り出すと同時に、人間の指示に従う機能の改良に向けて、2019年に深圳証券取引所での新規株式公開(IPO)を目指している。

「ロボットをすべての家庭に届けたい」

高齢化と人件費上昇が進む中国は、工場で使用される産業用ロボットに関して世界最大の投資が行われている。さらに、個人のニーズに直接応えるロボットに対する関心が高まっている。技術の進歩に伴い、その需要は急拡大すると予想されているのだ。
コンサルタント会社のフロスト&サリバンによれば、テンセントが主導した資金調達により、UBテックは評価額という点で世界最大の一般消費者向けロボットメーカーになった。ブルームバーグ・ビリオネア指数によれば、ジョウの資産はおよそ16億ドルにのぼるという。
ジョウは2018年11月、深圳にあるUBテックのオフィスでのインタビューに応じて「一歩ずつ着実に、ロボットをすべての家庭に届けたい」と語った。
だが、ジョウのような起業家がその並外れた野心を素晴らしき新世界に浸透させるには、数々の難問が立ちはだかっている。
彼らの技術はまだ微調整の最中だ。製品のセキュリティに関する疑問に答える必要もある。消費者のプライバシーをめぐる厄介な問題にも、うまく切り抜けなければならない。現在、中国で使われるロボットの多くはカメラを備えており、中国のほぼ全域で行われている監視がエスカレートする可能性がある。
UBテックによれば、同社のロボットの一部はリモート監視機能を搭載しているものの、すべての製品は消費者のセキュリティを念頭に置いてつくられているという。
長年にわたりシリコンバレーの同胞たちがそうだったように、ジョウもプライバシーの話題についてはあたりさわりのない姿勢をとっている。つまり、基準を決める責任は起業家ではなく政府当局にあると主張するのだ。
「世界的な市場は、国の政策に左右される」とジョウは述べる。

新たな技術が抱える脆弱性の問題

とはいえ、新技術が抱える潜在的な弱点には、無視することが難しいものもある。
2017年、米国のサイバーセキュリティ会社IOアクティブの研究チームがUBテックのロボットをハッキングし、その脆弱性をあらわにした。IOアクティブの動画クリップには、人形のようなロボットが狂ったように笑いながら、スクリュードライバーを何度もトマトに突き刺す様子が映し出されていた。
UBテックは声明のなかで、ハッキングのニュースを受けて調査を実施したが、「害をもたらすセキュリティ上の弱点」は見つからなかったと述べた。同社によれば、自社ロボットの技術的な弱点を調査し、修正するためのセキュリティチームを組織したという。
世界的に見ると、個人に応えるサービスロボットの市場はまだ小さいが、技術の向上に伴い、売上は急増すると見込まれている。
フロスト&サリバンの推定によれば、2017年には全世界で91億ドルがサービスロボットに費やされた。中国だけで、その売上のおよそ3分の1を占めたという。サービスロボットの売上は、25%を超える年平均成長率で増加するとフロスト&サリバンは予想している。
国際ロボット連盟のグドルン・リッツェンバーガー事務局長は、韓国、日本、中国といったアジア諸国では家庭にロボットを迎え入れる抵抗が低いようだと指摘する。同事務局長はアジアの展示会で、家族全員で訪れる人たちを目にしたと語る。
「学校や、ときには幼稚園もロボット展示会に来る」とリッツェンバーガー事務局長はメールで述べている。「そうした環境で、非常に幼い頃からロボットに対する関心が養われているのだ」
ジョウがロボットに夢中になったのは『トランスフォーマー』シリーズのテレビ番組を見たことがきっかけだった(そのテレビは、上海の自宅で研究者の父親が組み立てたものだった)。
数年後、ドイツの会社で組み立てラインマネージャーとして働いたあと、ジョウはロボット工学の世界に移り、ポルシェ1台とアパート3つを売った資金で新会社を立ち上げた。また、金を節約するために、時間を割いてロボットアームを制御するサーボについて学び、自作する方法も習得した。
「それ以後は、自分ならもっと安くて安定したトランスフォーマーをつくることができると思うようになった」とジョウは話している。

各国から音声認識の専門家を雇用

ジョウの主力市場は依然として中国だが、最近ではUBテックの一部のロボットが国外で売られるようになっている。
UBテックには多くの競争相手がいる。小型ヒューマノイド「NAO」を擁する日本のソフトバンクグループのほか、ソニーのタッチセンサー式ロボット犬「aibo」、LGエレクトロニクスのホームロボット「CLOi」などがしのぎを削っているのだ。
家族と交流できるロボットを製造するボストンのジーボ(Jibo)をはじめとする企業も控えている。
だが、UBテックはとりわけ有利な位置にいる。というのも、世界最大の人口を抱える市場を拠点にしているからだ。ジョウによれば、UBテックはすでに利益を出しており、2018年の売上は20億元(2億8800万ドル)に達する可能性があるという。
売上の4分の1は、企業向けサービスロボット「Cruzr」から生まれたものだ。Cruzrは、廊下を歩いて客を案内したり、天気を報告したり、冷たく硬いハグをしたりできる。
もうひとつの稼ぎ頭が、ユーザーが自分で組み立てる「JIMU Robot」ラインだ。このロボットは、子どもたちがコーディングやプログラミング、ロボット工学を学ぶのに役立つ。
そのほか、同社のベストセラー「Alpha」もある。アニメのような目と、タッチセンサー式の頭部を備えたAlphaは、中国では4999元(約8万1700円)で販売されている。子どもに本を読み聞かせたり、ニュースを読んだりできるロボットだ。さらには、Alphaを使ってロボットのコーディングを学ぶこともできる。
ジョウは目下、UBテックで音声認識を担当するスタッフを35人前後から200人にまで増やすことを目指し、各国の大学から専門家を雇用している。
「お金に興味はない」とジョウは言う。「私に関心があるのはリソースだ。私にとっては、技術などのリソースを伴わない単なるお金は、なんの意味もない」
原文はこちら(英語)。
(執筆:Blake Schmidt記者、翻訳:梅田智世/ガリレオ、写真:©2018 Bloomberg L.P)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.