揺らぐアメリカ金融界と台頭するフィンテックスタートアップ

2018/12/5
アメリカ・ラスベガスで、10月21日から4日間にわたり開催されたフィンテックカンファレンス「Money20/20 2018」。アメリカの金融界の現状と、近未来の金融や決済サービスにフォーカスした「未来のマネー」をリポートする。
儲かるシステムに安住してきたアメリカ金融界
アメリカの金融業にはあまり闇の世界がない。
乱暴者で違法ドラッグを売るギャングはいるが、漫画「闇金ウシジマくん」のような、違法な高利貸しや臓器提供を強制する取り立て屋の話はそうそう聞かない。その理由は、合法的に相当ひどいことができてしまうからではないか、と常々思っている。酒が合法な国で違法に酒を売っても大したビジネスにならないのと一緒だ。
例えば、アメリカの銀行口座には通常「オーバードラフト料」という罰金がある。
アメリカのATMカードは、ビザかマスターの機能が合体しているデビットカードがほとんどで、店舗でクレジットカードのように利用できる。しかし、クレジットカードと違って即座に口座から引き落とされる。その際に口座残高が足りなくなることを「オーバードラフト」という。
そしてオーバードラフトしてしまうと、1回30ドル前後の罰金を取られるのである。ほんの数ドル足りなくても30ドルの罰金。気づかずに何度も買い物すると、30ドル×回数分取られる。
私自身も渡米したばかりの頃、うっかり1日で90ドル取られたことがあった。どう考えてもリアルタイムで残高照会して、足りなかったら決済不可にすればいいだけな気もするが、そんな親切なことはしてくれない。なぜならこのオーバードラフト料は、全米で年間340億ドル(※1)、実に4兆円近い“一大ビジネス”だからである。
これを「搾取」と言わずして、なんと言いましょう。
ほかにもアメリカ金融業のちまちまとしたアコギさは数限りなくある。そうやって、広く薄く、多数の顧客へと、ことあるごとに課金するシステムで、自動的に儲かる産業の座を長年キープしてきたのだ。しかも、規制に守られていることもあって、全米には銀行がまだ5600行もある。
異業種参入とベンチャー投資の巨額化
規制のぬるま湯の中、シリコンバレー的ベンチャー界がどれだけ「フィンテック!」と叫ぼうが、しょせんはゴマメの歯ぎしり、対岸の火事。そう、長いこと悠然と過ごしてきたのだが、ここ数年、急に足元に火がついた。
まず、グーグルやアップルによるモバイル・ペイメントの開始で、クレジットカードの将来が危ぶまれるようになった。そうこうしているうちに、今度はアマゾンがオンラインショッピングの半分近くのシェアを取り、自らクレジットカードも発行するようになっている。
さらにベンチャー投資も巨額化している。 企業価値10億ドルを超すベンチャーはめったにないという意味で「ユニコーン」と呼ばれるようになったのが2013年。いまや世界で300社近く(※2)存在し、ユニコーンというより、シマウマ程度の珍しさになってしまった(※3)。
フィンテックベンチャーの裏側で
一方、フィンテックベンチャーの裏側で、規制に縛られた銀行業務を受託して行う既存銀行も出てきた。 
例えばニュージャージーのクロスリバー銀行は、もともとは地元の超正統派ユダヤ教徒コミュニティのために作られた銀行(※4)だ。それが、シリコンバレーのベンチャーキャピタルから2800万ドルを調達(※5)して、いまやフィンテックベンチャーの裏で、ローン貸し出しなどの規制業務を提供する「金融卸」が主たる事業となっている。
近年のフィンテックベンチャーの王道の勝ちパターンは、①バックエンド業務をITで自動化して低コストを実現し、競合優位性を確保したビジネスを開始、②顧客側のフロントエンドにはシンプルで使いやすいアプリケーションを提供してユーザーを拡大、③大量の顧客から得たデータでターゲティング精度を向上させ、さらに事業拡大する、というものだ。
そしてビジネスが③の拡大期に入ると、1000億円単位で資金提供する投資家がロシア、日本、中近東など世界からやってくる。この規模で事業開発をされたら大手金融からみても脅威だ。
お金の未来を見る「Money20/20」
ほんの5年前には「ユニコーンはすごい」と遠目でめでていられた。しかし、いまやアメリカの金融業は、シマウマも含めた200万頭の草食動物が年に2回大移動するタンザニアのセレンゲティ国立公園で踏み潰される存在になってしまった(※6)、という感じだ。
「お金の未来」をテーマにアメリカで開催された「Money20/20 2018」
こうした状況下で始まったのが、アメリカ・ラスベガスで行われた「Money20/20」である。20/20は「twenty twenty」と読み、アメリカの視力測定で「ベストの視力」という意味だ(※7)。
ここで見るのは「マネーの未来」であり、近未来の金融や決済サービスにフォーカス。今ではシンガポール、中国・杭州、アムステルダムでも開催されるまでに急成長した。
未来にフォーカスしていることもあって、当然、多数のベンチャーが参加する展示会でもある。後編では、ラスベガスで10月21日から4日間にわたって開催された「Money20/20 2018」に集まったベンチャー数百社の中から激選した10社をピックアップして紹介する。
未来のマネーは誰の手に。有力スタートアップ10社
渡辺千賀(わたなべ・ちか)
経営コンサルタント。シリコンバレーで日米事業開発のコンサルティングに長年従事。テクノロジー領域での最先端のイノベーションにフォーカスし、投資と共同事業開発を組み合わせた日米企業アライアンスに強みを持つ。 大学卒業後、三菱商事の営業部門に女性初の総合職として入社、IT 関係のハード・ソフト米国ベンチャーへの投資や投資先の日本での事業開発に携わるなどしたのち、マッキンゼー社でマネジメントコンサルティングに従事、大手電機メーカーのインターネット戦略などを手がけた。現MITメディアラボ所長の伊藤穰一氏のもと、アーリーステージベンチャーの投資・育成に従事した経験もある。2000年に渡米しBlueshift Global Partnersを創業。スタンフォード大学 MBA、東京大学工学部都市工学科卒 
(編集:久川桃子 デザイン:斉藤我空)
(※1)Americans Paid $34 Billion In Overdraft Fees Last Year. Here's How To Stop The Charges
(※2)The Global Unicorn Club
(※3)数字はイメージです。シマウマは世界に75万頭生息している。
(※4)French-born Gilles Gade finds home at the Cross River Bank in Teaneck
(※5)Cross River Bank gets unconventional validation with a $28M VC round
(※6)Africa's Great Migration of Wildebeest and Zebra in Kenya & Tanzania
(※7)なお、アメリカの視力表示は分数なのだが、これを割り算すると日本の視力になる。20/20は1.0となるが、アメリカの視力検査はここまでしか調べないのが一般的。