【新型メルセデス】人とクルマと社会がコネクトする未来へようこそ

2018/11/19
10月18日、メルセデス・ベンツは最新の対話型インフォテインメント・システム「MBUX(メルセデス・ベンツ・ユーザー エクスペリエンス)」を初搭載した「新型Aクラス」を発表した。

新型Aクラスは、メルセデス・ベンツが理想的なクルマ社会の実現を目指した中長期戦略「CASE」をまさに体現した“未来のクルマ”だ。CASEとは、Connected(コネクテッド)、Autonomous(自動運転)、Shared & Services(シェアリング)、Electric(電動化)を意味する。

まったく新しいユーザー体験と、メルセデスの最高峰Sクラスと同等の世界最高水準の安全性と快適性を兼ね備えた新型Aクラスは、具体的にはどのような機能を持つのか。

MBUXの詳細を中心に発表会で明らかになった内容と、NewsPicksが協賛したトークセッション「モビリティがリードする都市の進化」の様子を伝える。

自然な会話で、快適なドライブ

「Hi,Mercedes(ハイ、メルセデス)」
――どうぞお話しください。
「ちょっと暑いんだけど」
――23度に設定します。
 これは、メルセデス・ベンツの新型Aクラスに搭載された、新開発の自然対話型音声認識機能を搭載した「MBUX」との会話だ。
 「お腹が空いた」といった曖昧な表現から、「鈴木さんに電話をかけて」「メールを読んで」「照明をつけて」といった指示まで、ユーザーの自然な会話に応えてくれる。
 また、「助手席がちょっと寒い」と言えば、助手席側のみの温度調整も可能だ。
 MBUXはユーザーの行動や好みも学習するため、よく聞くラジオ番組やよく行くお店、毎日のルーチン(勤務先から帰宅するとき家に電話をかける、など)をディスプレイ上におすすめとして提案する機能も持つ。
 走行中のナビ設定も音声で指示できるため、従来のようにクルマを道路脇に止めて設定する手間もなく、安全で快適なドライブが実現。
 交通事故の原因は、ナビやオーディオ、スマートフォンの操作が圧倒的に多いと言われているため、MBUXはそうした脇見運転のリスクも軽減してくれるのだ。
 さらに、新型Aクラスに搭載された「MBUX」は日本仕様になっており、日本特有の和製カタカナ英語や漢字の訓読み音読み、イントネーションの違いなども理解している。
 日本人が普段会話で使う言葉にほぼ対応している上に、流行語などの新しい表現も学習してクラウド上でアップグレードされ、ユーザーはストレスなく自然に使いこなせるという。

すべての体験を創造するための自社開発

 MBUXはメルセデス・ベンツが自社開発した自然対話型音声認識機能を含むインフォテインメント・システムだが、なぜGoogleやAmazon、Appleの音声アシスタントを使わなかったのか。その理由をMBUXユーザーインタラクションコンセプト担当マネジャーのトビアス・キーファー氏はこう語る。
「単に、タッチスクリーンや音声認識を作って搭載すればいいのではなく、シートに座った瞬間からラグジュアリーでスペシャル、ユニークな体験を作る必要があるからです。走行中のクルマ特有のノイズに対応する知見も、音声認識機能を自社開発する際に生かされました」(キーファー氏)
 今後の展開として検討しているのは、すでに世界の一部市場で始まっているスマートスピーカーとの連携。すでに、クルマを降りた後のガイドをMBUXからスマホアプリに自動的に引き継ぐサービスは実装済みのため、スマートスピーカーと連携すれば家からすべての移動がつながることになる。(※スマートスピーカーとの連携は日本未導入/時期未定)
「家を出て、クルマで移動したら終わりではなく、クルマを降りてから目的地までの移動があります。シームレスで直感的、包括的な体験を提供したいと考えています。」(キーファー氏)
 新型Aクラスの素晴らしさはMBUXだけではない。メルセデス最高峰のSクラスと同等の世界最高水準の安全性能を持つ運転支援機能も搭載されているのだ。
 たとえば、高速道路での渋滞時は車間距離だけでなく、周囲の車両や車線、ガードレールなどを常に監視して安全な運転をサポート。車線が不明瞭でも、先行車を追従する。
 また、ドライバーがウインカーを操作すると、行き先の車線に車両がないことを確認して、自動での車線変更を実現。走行中にドライバーが気を失うなどした場合は、緩やかに減速・停止する機能も搭載されているという。
 騒音と振動も極めて小さく、世界に先駆けて新しい時代を切り開こうとしている新型Aクラスが、新しい価値を搭載した「未来のクルマ」であることは間違いない。
 だが一方で、クルマだけが進化しても、法整備や交通インフラを含め、都市も進化しないと描く未来は先送りになってしまう。
 そこで、発表会では「未来のクルマ」だけでなく、CASE戦略を打ち出してモビリティを革新させるメルセデスらしく、クルマとともに進化する都市をテーマにしたモビリティの未来についてのトークも展開。
 NewsPicksプロピッカーの占部伸一郎氏をモデレーターに、モータージャーナリストの清水和夫氏と森ビルの都市開発本部・矢部俊男氏、イスラエル専門商社でコネクティッドカーを担当していたイスラエル女子部の三木アリッサ氏によるトークセッションを開催した。

渋滞を緩和させるために、AIでの信号制御をすべき

占部 モビリティがリードする都市の進化というテーマなのですが、国内外でクルマを走らせている清水さんから見て、日本の道路は走りやすいですか?
清水 世界中を走行して思うのは、日本は昔の規格で作られたままの道路が多いから走りにくいということです。
 未来の都市を創造するテクノロジーはあるのだから、クルマだけを進化させるのではなく、都市そのものを新しくデザインする必要があると思います。
 たとえば、フランスのナント市では15年前から交差点の信号をなくしていますし、カナダのトロントではグーグルの親会社アルファベットが大胆な都市開発によって、新しい都市のコミュニティを作ろうとしています。ナント市は信号をなくして以降、交通事故は減っているんです。
矢部 都市、特に東京を進化させる上で解決すべき課題は「渋滞問題」でしょう。走行中のクルマの速度などのデータを情報センターに集めて、信号を制御できるようになれば、目的地までの道路は最適化されるはずです。
占部 中国の浙江省杭州市で、アリババがAIで交通信号を制御する仕組みを作ったところ、嘘のように渋滞がなくなったというニュースがありましたね。走行中のクルマの情報がネットワーク化されることで、日本でも渋滞は緩和されるかもしれません。
矢部 人工知能が街を走行中のクルマを把握して、最適な信号運用をする。さらに、その道路の特徴を学習させて、渋滞する時間を予測して信号を制御できたら、1車線分増えるくらいのインフラ投資価値があるのではないでしょうか。

交通や安全に対する意識改革も必要

清水 ただ、技術的には可能でも日本中の交差点に普及させるには、時間とコストがかかります。その前にやるべきことは、一人ひとりがクルマの使い方や交通安全に対する意識を変えること。
 たとえば、震災のときは停電した交差点に警察官が立って手旗信号で誘導していましたよね。そのときは渋滞が起こらなかったのに、停電が解消されて普段の信号機に戻った瞬間に渋滞が発生したんです。
占部 前者は人力の交通整備だから、みんなが気をつけて走行したということですね。
三木 イスラエルでは、「ここに警察がいた」などの情報を市民が投稿するアプリがあるのですが、その情報を見てみんなが気をつける、それだけでも安全に走行するクルマは増えていますよ。
矢部 インフォメーションの重要性ですね。信号が機能しないときでも、情報センターなどからクルマにインフォメーションが届けば、震災当日の夜に東京中のクルマが一斉に道路に出てきて身動きが取れなくなったのと同じことは起こらないはずです。
 そもそも、クルマの台数と道路の幅や駐車場がかけ離れているんですけどね。
清水 特に東京は駐車場を探してさまようことが多いし、駐車するにしても高い。このあたりのリデザインは必要ですね。

イスラエルでは、すでにクルマはデバイス化

占部 三木さんはイスラエルで、クルマを取り巻く環境の変化をどう感じていますか?
三木 イスラエルは、いわゆるタイヤがあってハンドルがあって、人が運転するクルマの概念から、「クルマはデバイスである」という考え方にシフトしてきています。
占部 ビジネスの世界でもだいぶ前から「クルマは情報端末になる」と言われていましたからね。
清水 デバイスという意味では、自動運転車を走らせるには車内にさまざまなセンサーをつけて、ドライバーを見張る必要があります。そのデータをホームドクターにつなげるなど、インフラや生活とコネクトすることに大きな意味がありますね。
三木 そうですね。移動する空間や時間をどう使うか、到着後の人間のパフォーマンスをどう上げていくか。自動車会社のR&Dでは、移動中のエンタメやドライバーの健康管理などを考えた研究開発が進んでいます。

自動運転化が実現後は、シェアリングの社会へ

占部 他にも、モビリティがリードする都市の進化として挙げられるのはありますか?
清水 クルマがコネクトして電動化すると、所有からカーシェアやライドシェアの社会になると思います。
 すでにヨーロッパでは、乗り捨てのカーシェアが実現していて、メルセデスのカーシェアリングサービス「car2go(カー・トゥ・ゴー)」は欧州ナンバーワンです。ただ、日本では道路にクルマを停められないから乗り捨ては難しいのですが。
矢部 駐車スペースが無いなど、そもそもの道路の作りに関係しますからね。ただ、メルセデス・ベンツは自動運転化の社会をつくるためにはライドシェアが必要だという考え方で、積極的に進めているんですよね。数人でシェアすると単純に走行する台数が減るから、渋滞にも有効だと思います。
占部 まさに、モビリティと都市の関係ですね。都市をデザインし直して、新しい価値を持つクルマが受け入れられる土壌を作らないといけない。
清水 ドイツの若い世代はクルマは所有するものではなくシェアするものだという考えが広まっています。これはメルセデス・ベンツが自ら作ってきた時代を壊し、新たな時代を作ろうとしている象徴。
 その意味でも、「MBUX」を搭載した新型Aクラスは、社会や生活に影響を与える新しいモビリティです。人とクルマがコミュニケーションを取り、さまざまなモノとコネクトしていく。ガソリン自動車を作った伝統的な自動車メーカーが生み出した、未来のクルマに期待したいです。
(構成:田村朋美、写真:岡村大輔、イラスト:星野美緒、編集:呉琢磨)