[モスクワ/ワシントン 22日 ロイター] - ロシアのペスコフ大統領報道官は22日、米国がトランプ大統領が表明した通りに中距離核戦力(INF)廃棄条約を破棄した場合、ロシアは米国との軍事力の均衡を回復させるために対抗手段をを取らざるを得なくなると警告した。

一方、ロシアのパトルシェフ安全保障会議書記はモスクワを訪問中のボルトン米大統領補佐官(国家安全保障問題担当)に対し、条約履行を巡る米国の懸念解消に向けて取り組む用意があると述べ、多少歩み寄る姿勢をみせた。

トランプ大統領は20日、ロシアが条約に違反しているため、米国はINF廃棄条約を破棄すると表明。同条約は1987年に当時のレーガン米大統領とソ連のゴルバチョフ書記長が調印。両国に中・短距離の核ミサイルの全廃などを義務付ける内容となっており、現在87歳のゴルバチョフ氏はこれまでに、同条約の破棄は悲惨な結果を招くと警告している。

ペスコフ報道官は定例記者会見で、トランプ大統領が示した方針をロシア政府は大きく懸念しているとし、「こうした動きで世界は一段と危険になる」と指摘。条約が破棄されれば自国の安全保障のために特定の軍事措置を取るとプーチン大統領がこれまでも繰り返し警告してきたとし、「米国がINF廃棄条約を破棄することは、米国が(ミサイル)システムの開発にあからさまに着手することを示している。こうしたシステムが実際に開発されているなら、ロシアには均衡の回復に向けた措置をとる必要が出てくる」と述べた。

トランプ大統領は22日、記者団に「ロシアは同条約を順守してこなかった」とあらためて主張し、「人々が理性を取り戻すまで」米国は核兵器を増強させると言明した。その上で「人々が理性を取り戻せば全員が賢明な判断をして活動を停止することになる」と述べた。

この発言はプーチン大統領に対する警告なのかと問われると「中国もロシアも、駆け引きをしている誰もが含まれる」と応じた。また、中国もINF廃棄条約に加盟すべきと指摘とした。

一方、ボルトン大統領補佐官はモスクワでパトルシェフ氏とラブロフ外相と会談。会談後に公表された発言内容によると、ボルトン氏は、米国がINF廃棄条約の破棄をちらつかせてロシアを脅迫しているとのロシア側の主張を否定。

国営ロシア通信(RIA)によると、ボルトン氏は、同条約を破棄した場合にロシアを標的にしたミサイルを欧州に配置するかどうかについてはまだ決定を下していないと述べた。また、冷戦時とは異なり、中国や北朝鮮など複数の国が中距離核ミサイルを開発している現状には二カ国間の条約がそぐわなくなっているとの認識を示した。

ボルトン氏は現地ラジオに対して「次のステップは欧州とアジアの友好国との協議だ」と述べ、ロシアとの協議も継続すると付け加えた。

ボルトン氏は23日にはプーチン大統領と面会する。

トランプ大統領がINF廃棄条約の破棄を表明したことを受け、欧州連合(EU)は声明で「米国とロシアは条約の維持に向け建設的な協議を継続する必要がある」との見解を表明。「世界は新たな軍拡競争を必要としていない」とした。

ペスコフ報道官によると、米国が実際にINF廃棄条約から離脱するには6カ月前に正式に通達する必要があるが、米政府はまだ公式な離脱通告は行っていない。

同報道官は、米国がまだ正式に通達していないことから、ロシアが近日中に軍事力の均衡に向けた措置に着手することはないとしている。

*内容を追加しました。