世界のトップ経営者を知る男が選んだ次のステージ

2018/10/24
2018年5月、日本マイクロソフトに入社し、執行役員に就任した岡玄樹氏は、これまでニケシュ・アローラ氏、孫正義氏、ジャック・マー氏ら、世界のそうそうたる経営者とともにグローバルビジネスの最先端に身を置いてきた。そんな彼が次のステージとして日本マイクロソフトを選んだのはなぜか。どんな企業にとっても難しいといわれるカルチャー・トランスフォーメーション(企業文化の変革)を推し進め、クラウド事業の急成長によって躍進を続ける同社。「まだまだ変わっていかなければいけない」と攻め続ける中、岡氏が推進するマーケティング&オペレーション部門の変革とは。新たなチャレンジにかける思いを聞いた。

成長の秘密はカルチャー・トランスフォーメーションにあり

 2段階の成長曲線を描くマイクロソフトの動向には、数年前から非常に興味を持っていました。長い時間をかけてなだらかな右肩上がりを続けたのちに飛躍的な成長へと一気に跳ねるという事例は、ビジネス界広しといえどもほとんどありません。
 新たなテクノロジーを導入し、市場にイノベーションを起こしたGoogleやFacebookなど、よく見られるケースと比べてもマイクロソフトは完全にアウトライヤー(外れ値)なのです。
 Windowsシリーズに代表される圧倒的な商品力を持つグローバルのビッグカンパニーが、なぜこれほどドラスティックな成長へと舵を切れたのか。
 外部視点で調べていくと、その根本を支えたのはカルチャー・トランスフォーメーション、つまり企業文化の大変革だとわかってきました。
 長い時間をかけて浸透してきた組織のカルチャーを変えることが、いかに難しいか。コンサルタントとして多くの企業を見てきたので痛烈に理解しています。今、マイクロソフトの社内で何が起こっているのかを知りたい、そう強く思いました。

「変わらなければならない」強い思いに触れて

 米マイクロソフトCEOサティア・ナデラとともに世界的な変革を推し進める、ジャン・フィリップ・クルトワ(マイクロソフト グローバルセールス マーケティング&オペレーション エグゼクティブ バイスプレジデント 兼 プレジデント)と入社前に会う機会があり、その一端を理解しました。
 まず驚いたのが、約5万人のメンバーを率いるポジションにいる彼が、vulnerability、つまり自分の弱さをオープンに語ってくれたところです。
 「凝り固まったスタイルを手放し、私も組織とともに変わろうとしている。でもまだ足りないから頑張っているところなんだ」。トップがやろうとしていることを本当に信じ、皆がそれを実現しようとしている。
 「こういう人たちが集まっている会社で自分も働きたい」。新たなチャレンジに迷いはまったくありませんでした。

グローバルなビジネスを最先端で経験

 私のキャリアのスタートは、新卒で入ったリーマン・ブラザーズ証券会社です。その後、コロンビア大学でMBAを修了し、マッキンゼー・アンド・カンパニーのニューヨーク支社に入社。
 マッキンゼー時代には、「突出した能力を持つメンバーの強みを、どう引き出せばチーム全体のパフォーマンスが上がるのか」というマネジメントにフォーカス。チームづくりのおもしろさを学びました。
 その後、東京に拠点を移し、数々の東証一部上場企業を担当。かけがえのない経験・人脈に恵まれましたが、コンサルタントとして提案するだけでリスクを取らないことに慣れてしまうのは嫌だと感じていました。
 そして10年勤めたマッキンゼーを離れて移ったのが、ソフトバンク・グループです。ニケシュ・アローラ氏から、「自分のチームには日本人がいないから、日本の組織に精通したメンバーがほしい。シリコンバレーで一緒に働こう」と声をかけていただいたんです。そこでは想定したシナリオ通りに事業を動かしていく、ニケシュの高い先見性と戦略性を目の当たりにしました。
 その後、アントフィナンシャルジャパン(アリペイ)の日本代表を務め、ジャック・マー氏の思想にも直接触れながら日本の何年も先を行く中国ビジネスのダイナミズムに触れた経験も大きな刺激になりました。

クラウド化の波をいかに広げるか

 「優秀な人の集まる場で働き、最先端のビジネスを知りたい」という思いは今も変わりません。
 マイクロソフトに入社すると、CEOのサティアが繰り返しメッセージを発信し、日本支社の社員レベルまで「変わらなければいけない」という危機感を浸透させている徹底ぶりに感動しました。カルチャー・トランスフォーメーションでもっとも難しい「マインドセットを変える」フェーズがすでに終わっているのが、今のマイクロソフトです。
 私が担当するマーケティング&オペレーション部門のミッションは、日本マイクロソフトの急成長を支えるクラウド事業の価値を、国内マーケットに広く訴求していくこと。
 日本の優秀な経営者たちの多くは、「クラウド化によるデジタル・トランスフォーメーションを実現しなければ」という強い危機感を持っています。しかし、その土壌が整っていません。日本の市場はアメリカの2~3年遅れといわれており、今まさに変化を迎えようとしている段階だからです。
 クラウド化には、セキュリティ面・コスト面でさまざまなメリットがあり、ビジネスを好転させられる可能性が無限に広がっています。マーケットの盛り上がりが読めている現在、お客様が実現したいことを、クラウドというプラットフォームを使っていかに実現していくか。それらを考えていける、非常におもしろいフェーズが今なのです。

認知度100%の強みをどう生かしていくか

 従来のマイクロソフトのマーケティングは、「強い製品をどうプロモートしていくか」という発想で動いていました。しかし、クラウド時代に入りゆく今、新たなビジネスツールを使って、何を実現していくかに主軸を置いていく必要があります。
 営業とマーケティングが一丸となり、マイクロソフトが持つすべてのリソースをお客様に提案していく。クラウド化によって組織をどう変えることができるのかをマーケティングがしっかりと理解していなければならず、そのマインドセットは今後ますます重要になるでしょう。
 この提案を進める上で、世界中のあらゆる企業にアクセスできるマイクロソフトの土壌は非常に魅力的だと思います。強い製品力ゆえ、認知度はほぼ100%。そのため、アクセスにパワーを割くことなく、「その会社でクラウドをどう活用し、何を実現するか」に頭を使うことができる。
 そんな恵まれた環境にあるからこそ、我々はより大きなチャレンジをする必要があると思っています。

急激な成長期の環境で得られるものとは

 米国本社から見ても、日本は大事な市場です。Windowsの認知率、浸透率の高さから、2~3年後にクラウド市場が成熟した段階で、マイクロソフトが市場を牽引できる可能性が高い。だからこそ、日本のマーケティング部門がどう戦略を考えていくか、発信力を期待されている。
 外資系メーカーによく見られる“日本支社はそのエリアの営業部隊”という組織体制とは異なり、日本市場の特異性もかんがみて、クラウドのもっとも効果的な実用方法とは何かに時間と知恵を使っていく必要があるのです。
 クラウドによる働き方改革を推進する会社であるからこそ、社内では柔軟で機動力のある働き方を実践しています。パフォーマンスに対してシビアに評価される厳しさはありますが、マイクロソフトという人的リソース、インフラが整った巨大な基盤を存分に活用できる。会社が自分を必要とし、自分も会社を必要とするという健全な関係を築ける環境です。
 大きな組織ですので、さまざまなバックグラウンドを持つメンバーを10人、100人規模でマネジメントする経験も積めます。テクノロジーを理解し、営業やマーケティングの視点を得た上で、将来は経営の一翼を担うような存在になりたい。そんな長期的なビジョンを描く方にとっても、非常に魅力的な場所だと思います。
 強い製品力とともに成長を続けてきた“安定期”のマイクロソフトを脱し、今我々は急激な成長期の真っただ中にあります。ハイパーグロースの環境に身を投じることは、自分のスキルアップに必ずつながるでしょう。
 だからこそ、リスクを取りにいくマインドセットは不可欠。マイクロソフトのクラウド事業で実現したいことがある、強い“WILL”を持った方と一緒にこの大きなチャレンジを成し遂げたいです。
(取材・文:田中瑠子 編集:樫本倫子 写真:稲垣純也 デザイン:砂田優花)