【発見】免疫を活性化させる「11/19-B1乳酸菌」

2018/10/9
大学での研究成果の事業化を目指すバイオベンチャー・ゲノム創薬研究所。創業者は、東京大学名誉教授(現・帝京大学教授)の関水和久氏だ。

ここでの研究がユニークなのは、実験動物としてカイコを利用していること。昆虫であるカイコは自然免疫で感染から身を守っており、それと共通した仕組みが人にも存在している。その点に着目して健康食品の開発に取り組んでいるのだ。

そして、発見されたのが他の乳酸菌に比べて高い免疫活性化作用を持つ「11/19-B1乳酸菌」。今回、乳酸菌にまつわるカイコの研究や健康について、堀江貴文氏との対談を行った。
共通する、カイコと人間の自然免疫
堀江 以前、関水先生の研究室を訪れたのは4年前でしたよね。カイコを使って、医薬品や健康食品の研究をされていた。
関水 そうです。カイコは人間が5000年かけて家畜化した昆虫。約10年前にカイコと人の自然免疫機構が共通しているのが明らかになったので、それなら医薬品や健康食品の開発にカイコを利用できるんじゃないかと考えたんです。
 最初は医薬品を研究しようと思ったのですが、創薬の開発には時間もお金もかかります。
 糖尿病などの生活習慣病やガンは免疫力の低下が原因となるので、カイコを使って免疫を活性化する食品が作れたら、人の健康の役に立てる。だから、開発に時間がかからない健康食品の研究を始めました。
堀江 初めて研究室に行ったとき、たくさんのカイコがぶらさがっているのを見て、こんなシュールな研究をしているのは世界中でもここだけだなと思いました(笑)。
関水 おかげさまで、追随がないんです(笑)。
堀江 カイコは東アジアで長い飼育の歴史がありますからね。特に日本では大量飼育ができるよう研究が進んでいるので、他国が追随できないのも分かります。
関水 養蚕業が盛んなタイやインドで「カイコを使って医薬品や健康食品の研究をしよう」とはならないし、日本の研究者は、より良い絹を作ることに集中しているから、ゲノム創薬研究所がカイコで健康食品を開発するオンリーワンになっています。
堀江 食品以外では、遺伝子組み換えカイコの光るシルクや、クモの遺伝子をカイコに導入してシルクの強度を増す研究はありますけどね。いずれにしてもカイコの食品や工業製品への応用は日本が一番強いと思います。
関水 カイコは1万個の卵が1万匹の幼虫になるし、とても安価。だから、もっと実験動物として活用したらいいのにと思うのですが、不思議なくらい学会での受けは悪いです(笑)。
堀江 僕は、カイコの研究は本当におもしろいと思っていますよ。
免疫の活性が高い乳酸菌を発見
関水 カイコの優れた点は、免疫が活性化すると筋肉が縮むこと。人間は、免疫が活性化しても「いま活性化している」とは分かりませんよね。
 よくクワガタを取るときに木を揺らすとパラパラと落ちてくるじゃないですか。クワガタは必死に木に捕まろうとしているけれど、防衛反応で麻痺が起こり、その結果、地面に落ちているんです。同じように、カイコも防衛反応として筋肉が縮んでいる。
 この特性を使って、免疫を活性化できる食品を大量に調べたところ、野菜や発酵食品を与えると免疫が活性化されて筋肉が縮みました。なかでも、よく縮んでいたのは乳酸菌を与えたカイコ。
 そこで、より免疫活性が高い乳酸菌がないかと研究したところ、偶然キウイフルーツの果皮から、少ない量でも免疫活性が非常に高くなる乳酸菌を発見したんです。
 この乳酸菌は2012年11月19日の実験で、B列の1番目に吊るしたカイコから見つかったので、「11/19-B1乳酸菌」と命名しました。ちなみに、この乳酸菌を与えたカイコでは、黄色ブドウ球菌による感染死が抑えられたんです。
堀江 それだけ免疫力が高くなるということなんですね。ちなみに、カイコに乳酸菌を食べさせているんですか?
関水 ええ、カイコのエサに乳酸菌を混ぜると食べてくれますよ。
 11/19-B1乳酸菌の強みは、免疫活性が高いというはっきりとしたエビデンスがあること。学術誌で審査を受けた英文論文として発表しています。
 発見からの4年間でいろんな商品開発にも取り組んでおり、東京大学構内では「研Q室のヨーグルト」として販売しています。これは大変好評で、特に看護師が患者さんに勧めてくれているようで、東大病院内の売店でトップの売り上げになりました。
 加えて、今年はあるメーカーさんからも、11/19-B1乳酸菌を使った製品の発売が決まりました。
 世の中に健康食品はたくさんありますが、どの商品が本当に健康にいいのか分からないですよね。だから、エビデンス付きの乳酸菌は消費者にどう受け入れられるのか、楽しみにしているところです。
美味しいものを食べて、ストレスなく生きる
関水 僕は健康食品を研究していますが、堀江さんは健康についてどんな考えを持っていますか?
堀江 健康の三要素は、「肉体」「精神」「社会」で、そのトータルバランスが取れた状態が健康だと考えています。たいてい、みんな肉体のことばかりを考えますよね。それは、これまでの予防医学が偏っていた証拠。
 実は精神や社会の問題が健康に大きく左右するんです。社会とは、社会とのつながりのことで、適度なストレスがある状態がベスト。毎日の満員電車や職場環境に過度のストレスを感じる人は、自分がどんな環境に身を置くべきか考えたほうがいいですね。
 食事にしても、「この食品に入っている添加物はなんだろう」「グルテンフリーの食事をしないといけない」と毎食細かく気にしていたら、僕はそれがストレスになる。
 そんなことよりも、美味しいものを好きに食べて、ストレスのない食生活をするほうがよっぽどいいんじゃないかな。もちろん、予防できるものは予防するのが大前提ですけど。
 とはいえ、何の根拠もない食品よりも、エビデンスがある食品の方がいいのは間違いない。特に、これまでほとんどの健康食品にエビデンスはなかったので、「なんとなく体に良さそうだ」とイメージしやすいものが売れていました。
 でも、インチキな健康食品も増えているので、これからはイメージだけじゃ売れない。乳酸菌飲料が売れているのは、そういった背景もあると思います。
 人によっては「エビデンスのある乳酸菌を摂取している」という行動が、精神に効く可能性も高いんじゃないかな。
関水 乳酸菌には血糖値を下げたり、感染症を予防したり、いろんな効能がありますからね。
堀江 乳酸菌って、本当に人の役に立ちますよね。生活習慣病やガンの予防にもなる。それからお酒も。日本酒造りの最初のプロセスで、乳酸菌を使って酵母以外の微生物や雑菌を排除するじゃないですか。
 最終的にアルコール濃度に耐えきれなくなった乳酸菌は死んでしまうから、はかない命なんですけど。そうした役割も担う乳酸菌はすごいです。
エビデンス付き乳酸菌で美味しい食品をつくる
関水 11/19-B1は免疫を活性化させる乳酸菌ですが、乳酸菌には本当にたくさん種類があるんです。
 例えば、地球上には「緑膿菌」という細菌が広く分布していて、健康な人には問題ないけど、免疫力が低い状態の人に感染すると薬が効かなくなってしまうんですね。院内感染の原因の一つが、この緑膿菌。でも、これに効力を持つ乳酸菌が見つかり始めているんです。
 カイコを使った研究によって、これまで作れなかった「健康に良い食品」がエビデンス付きで作れるようになると、私は確信しています。
堀江 いい乳酸菌をたくさん集めて商品化してください。ヨーグルトもいいんだけど、個人的には「ぬか床」があれば欲しいかも。
関水 今、甘酒を開発しているのですが、飲みますか?
堀江 いや、甘酒は飲まないです(笑)。漬物は大好きなのでぜひ作って欲しいですね。
関水 漬物は研究開発しているところです。いい乳酸菌で美味しい健康食品をつくる。ぜひ今後に期待していてください。
(取材・文:田村朋美、写真:須田卓馬、イラスト:砂田優花)