ライティング・サイエンス・グループは、社員のサーカディアンリズム(約24時間を周期とする内因性のリズム)を考慮するよう勧めている。

「生物学的」と呼ばれる照明の誕生

蛍光灯は、あなたのオフィスを美しく見せるためにはあまり役立っていない。会社の生産性を下げている可能性もある。フレッド・マキシクはそう考えている。
物理学の教育を受けたマキシクは1980年代後半、オーディオ機器のカラフルなディスプレイをデザインして、照明分野でのキャリアをスタートさせた。それがLED照明の世界へと彼を導き、最終的には彼が「生物学的」と称する照明の誕生につながった。
マキシクの立ち上げたライティング・サイエンス・グループはロードアイランド州を拠点とするスタートアップ企業で、「サーカディアンリズム」とも呼ばれる24時間の体内時計を維持しやすくする電球をつくっている。
同社は、科学的事実としてますます受け入れられつつある考え方を基本としている。照明の色は眠りの質や覚醒状態に影響するため、仕事の成果に関わってくる可能性があるという考え方だ。
このごろは「寝る直前までスマートフォンやタブレットの画面を見つめていると、睡眠が妨げられる可能性がある」と主張するたくさんの記事が出回っているので、読んだことがある人もいるだろう。こうしたデバイスから出る光は多くの場合、青色、厳密に言うとシアン(青緑)色だ。
2000年前後に行われたいくつかの研究では、青色の光にさらされると睡眠を助けるホルモンであるメラトニンの体内レベルが下がることがわかっている。アップルが2016年に、夜間にディスプレイの色味を赤色系に変更する「Night Shift」モードを同社製品に採用したのは、この理由からだ。
「電灯の発明で、人々の生活状況と生産性は劇的に変わった」とマキシクは語る。「その後125年間、われわれはこの素晴らしい技術がマイナスの生物学的影響をもたらしたことに気づかなかった」
そこでマキシクは、人間の生理学に逆らうのではなく、それに沿った照明を開発する会社をつくろうと決意した。
彼は2000年にライティング・サイエンスを設立し、すぐに2つのタイプの電球をつくりだした。1つはシアン色の電球で、自然光を模しており、日中の覚醒状態を助けるもの。もう1つはシアンを抑えた赤色系の電球で、夜にメラトニンが分泌されるのを助けるものだ。

シアン系のライトと赤色系のライト

ラスベガスのホテル「マンダレイ・ベイ」は、2003年にライティング・サイエンス初の法人顧客となった。それ以来ライティング・サイエンスは、メリルリンチやネスレ、ライティング・サイエンスに投資もしているペガサス・キャピタルなどの企業に製品を供給している。
同社は、シアン系のライト(GoodDay)と赤色系のライト(GoodNight)のほかに、一方からもう一方へ切り替え可能なスマート電球もつくっている(タイマーやアプリでコントロールできるものだ)。
これは老人ホームや病院、修道院、ホテルなどで役に立つと評価されている。国際的なリゾートチェーン「シックスセンシズ」では、約15カ所の施設でこの電球を利用している。
経営コンサルティング会社Markon Solutionsは2018年はじめ、バージニア州にある自社オフィスで、ライティング・サイエンスの照明とデスクランプを導入した。同社バイスプレジデントのレイモンド・カーニーによると、従業員は初めはその明るさに少し面食らったらしい。
しかしすぐに、オフィスのあちこちに設置されているポータブルなデスクランプの取り合いになったという。結局Markon Solutionsは、追加注文をすることになった。
「少しでも、これは自分の役に立つなと感じると、みんながそれを欲しがる。伝染するのだ」。ライティング・サイエンスの信奉者になったカーニーは、そう説明する。「人は、自分のためにできることはすべてやっていると確信したいのだ」
はたして、測定可能な結果は出ているのだろうか。
「『それを証明できるか』というのは、何度となく聞かれる質問だ」とカーニーは言う。「必ずしも証明はできない。製品の背景にはたくさんの科学があることは知っているが、私はこう説明する。わが社の会議室のうち、この照明を使っているのは2部屋だけで、従業員はいつもこの照明があるほうを利用したがる、と」

生産性アップの実証には困難も

それでも、ライティング・サイエンスやほかのいわゆるヒューマンセントリック(人間主体的)な照明会社にとっては、不利になっている点がある。彼らの製品が従業員の生産性を改善することを示す、確かなデータが乏しいのだ。
ほとんどの証拠は、体験談的なものだ。たとえば、この照明が設置されている学校の先生たちが、生徒が以前より集中しているように見えると証言しているなどだ。
しかし、2016年に医学雑誌『Sleep』に発表された研究では、青色の光を30分浴びると被検者の反応時間が改善されることが明らかになった。全社的に考えれば、従業員の効率がほんのわずか上がっただけでも、大きな利益を生むだろう。
一方、サーカディアンライトに対する科学界の理解は深まり続けている。
ハーバード大学とオックスフォード大学の研究者によって行われた研究では、目の見えない被検者が青色の光にさらされたときに、メラトニンの分泌が減少したことがわかった。
この発見は、視細胞である杆体(かんたい)と錐体(すいたい)以外の目に備わっている光を感じる受容体が、サーカディアンリズムを調整する役割を果たしているということを証明するのに役立った。
それは人体が周りを取り巻く光とどれほど同調しているかを示すものだ。光が体内時計に及ぼす影響は、人が視覚的に知覚できるものだけではないのだ。
この研究の主執筆者であるスティーブン・ロックリーは25年にわたり、サーカディアンリズムを研究している。「光は、可能な限り素早く体内時計をリセットする手助けとなる。光は、体内時計を調節する同調因子だ。私たちはたいてい、それを当たり前と考えているのだが」

青色の光には思わぬマイナス効果

しかし、青色の光は意図しないマイナスの影響を及ぼすことがある。
トレド大学の科学者たちが2018年7月に発表した論文では、デバイスの画面から出るような青色の光を至近距離で、あるいは長時間浴びていると、眼細胞に取り返しのつかないダメージを与える可能性があると結論づけている(この研究では、445ナノメートルの波長の光を取り上げた。ライティング・サイエンスの製品は、465~485ナノメートルの範囲だ)。
サーカディアンリズムに対する社会の関心が大きくなるにつれ、ライティング・サイエンスには新たな競争相手が出てきた。
テキサス州オースティンを拠点とするKetraは、3年前に一般向けに販売を開始して以来、VICEやバズフィードといった企業の本社向けにサーカディアンLED電球を供給している。
また、ゼネラル・エレクトリックや2018年はじめに照明部門の社名を「Signify」に変更したフィリップスのような大手も、ますます多くのスマートなサーカディアン電球を提供している。
全体的には、この業界は急速に拡大すると期待されている。調査会社BISリサーチによると、ヒューマンセントリックな照明の市場規模は2017年には4億4600万ドル(約496億円)だったが、2024年までには39億1000万ドル(約4352億円)に達すると見られている。
ライティング・サイエンスの売上は、2017年に5000万ドル(約56億円)以上だった。これまでに同社は、1億ドル(約111億円)以上の資金を調達している。
マキシクは、一般の人々が自分で学び続けることを望んでいる。
「光は、非常に強い刺激物だ。眠りにつこうとするその前に、自分に強い刺激を与えれば、それは自然なプロセスを阻害する。サーカディアンライトを使えば、生物学的な害を及ぼすことなく、照明に関わるすべての利益を得ることができる」
原文はこちら(英語)。
(執筆:Kevin J. Ryan/Staff writer, Inc.、翻訳:浅野美抄子/ガリレオ、写真:SaoriDesign/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.