【白熱講義】時価総額100億円→1000億円V字回復を叶えた経営思考とは

2018/10/18
フラットな組織づくりを掲げ、20代の若手も経営幹部の“右腕”として活躍。「経営視点」を間近で体験している。そこで一休CEOであるプロ経営者の榊淳氏が、NewsPicks読者限定で「経営視点の裏側」を語るワークショップを開催。「あなたが経営者だったらどうする?」を徹底的に考え抜いた。

白熱のワークショップ、スタート

「社長の右腕」として経営を体感する──そう題して行われたのが、主に20代のNewsPicks読者を対象に行われた「一休の業績改善ケーススタディ」だ。
ワークショップを行う一休CEOの榊淳は、2012年当時、コンサルタントとして業績が低迷する一休の立て直しをミッションとして与えられた。その後、同社に入社し、2016年にCEO就任。時価総額100億円の企業を1000億円にV字回復させている。
今回のワークショップでは、2012年、榊が創業社長(当時)である森から与えられたミッションをどう実現してきたのかを考える。
上のミッションを遂行するのにあたって、榊が森から言われたこととは──。
「『すべて任せるから頼む』と言われました。経営者であれば、必ずこのような局面を経験するもの。それをぜひ、自分だったらどうするかという視点で、みなさんにも考えていただきたい。そのための具体的な論点は次の2つです」

ほかの選択肢を捨て、一点突破を目指す

まずは論点1「業績改善のレバー」について、実際に榊自身がどのような経営視点で検討したのかが説明された。
改善のレバーとして榊があげたのは、1.コスト、2.手数料率、3.施設数、4.施設当たりの取扱高、5.新規顧客取扱高、6.リピーター取扱高の6つだ。
「私はずっと戦略をやってきたんですが、戦略とは“捨てることを選ぶ”ということです。こういう問題にぶつかったときは、どれかひとつにリソースを集中して投入し、そこを1点で突破するのが経営者としてよく用いられる手法。
私も業績改善のレバーをひとつに絞りました」
では、当時の榊は、この6つのレバーの中からどれを選んだのか。
真っ先に除外されたのが「コスト」だ。
「我々がやっているインターネット事業は、成長産業です。それなのにコスト削減で業務改善をするなんて、ダサいし、小さい。そんなのをベースに考えるのはありえないと、真っ先に候補から消し去りました」
「手数料」はどうだろう。1%上げるだけで、会社の利益率はかなり大きくなる。
「経営者としてはもっとも選択したい方法なのですが、手数料というのはその市場の王者しか変えられないもの。当時の一休のように伸び悩んでいる企業が『手数料を上げる』と言ったところで施設側に切られてしまうだけ。現実的ではありませんでしたね」
「施設数」が増えれば、当然、売上も増える。しかし、一休は高級特化が最大の特長で、数を増やすことのリスクがあった。
「売る商品の点数を増やして、本当に利益が出るのか、ブランド毀損はないのか。それが本当に問われてしまう。私としては、施設数をやみくもに増やすのは正解ではないと考えました」

果たして榊は何を選んだか。オブザーバーの若手社員が感じたこと

榊は、いかなる手法で一休の業績を回復させたのか──。
細かい数字を紹介しつつ、そのリアルな道筋を聞く場には、参加者に交じって、一休の社員の姿もあった。オブザーバーとして各テーブルに座り、榊のプレゼンを聞いていた彼らは、どのような印象を受けたのだろうか。
榊とほぼ時期を同じくして2012年に一休に入社。以来、レストラン事業一筋というのが、レストラン事業本部営業企画部営業推進チームの尾﨑亮太だ。
「実は、私自身は当時、会社が“踊り場にいる”という感覚はあまりなかったんです。私が担当するレストラン事業は、新規事業として成長路線だったというのがひとつ。もうひとつは、榊が参画して会社全体の業績が急速に回復し始めたからです」
一休のV字回復期をそう振り返る尾﨑。
公私共に榊と話す機会が多い尾﨑は、榊が“あのとき、何をしたのか”は、折に触れて耳にしてきた。しかし、今回のような場に参加したことで、当時の問題点、榊の経営者としての視点、具体的な施策という流れが整理され、体系的に理解することができたと言う。
「施策を取捨選択して絞り込み、そこをピンポイントで刺す。そこに(経営者としての)プロフェッショナルを感じます」(尾﨑)
また、オフィスでは榊の隣に席を置き、“リアル右腕”として宿泊事業部マーケティング部で活躍する20代の花房みのりも、イベント会場にいた一人。入社して1年。一休の窮地とその後の復活劇は体験していない。
「何がどんなふうに起きたのか。それをどう解決していったのか。大きな問題を分解し、クリティカルなヒットを打っていくという榊の経営思考が学べた貴重な機会でした」と花房は語る。
「うちの会社のサービスは、すごく尖っていて、多くの人に刺さるというものではありません。だからこそ、コアなファンにいかについてきてもらうかが重要。榊が一休の復活のために打った施策は、非常に納得できる回答だったと思います」(花房)

経営者が取るべき施策を考える

榊がどの業績改善のレバーを選び取ったのかを、当時の細かな状況を踏まえながら聞いた後は、いよいよワークショップの実践に突入。参加者はグループに分かれ、「リピーターを増やすための施策」について各々のアイデアを出し合った。
ここで榊が「施策を考えるにあたっては、①なぜその施策なのか、②一休の強み、弱みは何か、③ どういうユーザーに向けての施策なのかも一緒に考えてほしい」とアドバイスを送る。
早速、参加者たちは活発に議論をスタート。20分のワークショップをさらに10分延長するほど、白熱した意見交換が行われた。
参加者から発表された「リピーター獲得の施策」には以下のようなものがあった。
参加者の充実した意見に、榊は「みなさん、すばらしい!」と驚きの声を上げ、「2012年にこの場を設けたかったくらいです」とレベルの高さに感心してみせた。

学びに貪欲であることが、経営者視点をつくる

一休のケーススタディから榊の経営思考を学ぶ今回のイベント。参加者たちと榊、そして一休社員たちのディスカッションはますます熱を帯びていく──。
榊は「優秀な若い世代がすでに立派な経営視点を持っているということが一番印象的だった」と、振り返る。
古い価値観を脱ぎ捨てて、新しい価値を生み出す。そんな働き方を求めて榊自身も生き方が大きく変わった。今、榊自身が見つめる同じ光景を、若い世代も見つめていることに心強さを感じたとも言う。
今回、榊自身の経験をなぞる一休のターンアラウンドのケーススタディで、伝えたかったことは何か。
「シンプルに、若い人たちに早く経営者になってもらいたい。そのチャンスは誰にでもあるということです」
その上で、
「経営にはセンスとリーダーシップが必要。リーダーシップはある程度の年齢と経験が必要ですが、経営的な考え方を身につけるという点では年齢は関係ない。
経営センスを持つ人間は、全体を眺める高い視座、ミクロな視点で具体的な施策を考えられる低い視座の両方をバランスよく行ったり来たりできるものです。加えて、ひとつのものごとに対して、自分の視点だけでなく、さまざまな立場から見ることができる。
そういう感性を持つ若い人たちと直接、意見交換できたことは、とても有意義な時間でした」と語る。
実は人に教えることよりも、自分が学ぶことのほうが楽しい、という榊。
「学びに貪欲な人間のほうが勝る。そういう意欲的な参加者に、私自身が大いに刺激を受けた時間でした。また次の機会にも経営者視点を持つ若い参加者のみなさんと、充実した時間を過ごしたいですね」(榊)

戦略を実現する一休の組織づくりとは

榊に続き第二部では、一休の「戦略を実現する組織づくり」について、人事を統括するCHROの植村弘子が登場した。
「榊がケーススタディで話した業績改善プログラムには、20代の社員も一緒になって取り組んできました。なぜ、一休では、若手でも経営者視点で活躍できるのかについて、お話しします。
一休は透明性の高い経営、成果主義の公平でフラットな組織、そして失敗を恐れない組織というのを重視しています。
そのために、社員が経営会議に入ることで、経営側の考えを理解してもらう。年齢や経歴にとらわれず、センスがあって価値を出せる人が一番偉いというのを徹底。
チャンスは誰にでも公平にあり、一方でなるべくルールに縛られない自由な組織を目指しています。失敗を恐れない、失敗を許容できる会社であること。それが前に進むためには重要なことだと考えています」
事業成長に伴い、採用ニーズが高まる一休にとって、求める人材とはどのような人物なのだろうか。
ユーザーファーストで考えられる人、ビジネスの結果の創出を最優先できる人、そしてオーナーシップを持つプロフェッショナルでいられる人を採用では重視していますね。
参加者にも好評だったピザには「USER FIRST」の文字が
一休はチームドリブンを目指す企業。チームの成果に対して個人としてどう貢献できるか。それを考えられるメンバーに加わっていただき、より強い組織をつくっていきたいと思っています」
ケータリングはすべて植村氏がセレクト。まるでホームパーティのようなおもてなし。ピザのほか名店の肉シュウマイ、オードブル、ミニバーガー、みたらし団子などバラエティに富んでいた
(執筆:工藤千秋 編集:奈良岡崇子 撮影:大畑陽子 デザイン:九喜洋介)