ビットフューリー(Bitfury)はジョージアにプラントをつくり、高度な技術の成果である液体でコンピューターを冷却している。採掘事業は今も利益を上げており、ビットコインに関しては楽観視していると、ヴァヴィロフCEOは語る。

ジョージアの首都トビリシ

超高速マシンを冷やすためであれば、暗号通貨の採掘者は何でもする。たとえば、マシンをロシアのシベリアに移し、石油が入った巨大な容器に沈めている。あるスタートアップは、ユーラシア・ステップの真ん中にあるソビエト連邦時代の地下壕に採掘システムを埋めている。
しかし、暗号通貨業界の基準に照らし合わせても、ビットフューリー(Bitfury)がジョージアの首都トビリシにつくった40メガワットのプラントは異色の存在だ。このプラントでは、1秒間に何百万もの演算を行うコンピューターが、非導電性の液体の中で冷やされている。
ビットフューリーは2018年2月、このプラントを、中国のシャドーバンカー(「影の銀行」:信託会社、証券会社、保険会社、その他の民間の貸し手のこと)に支援された、あるフィンテック企業に売却したと明かした。
香港で上場している企業であり、契約はリチャード・ブランソンが所有するカリブ海のリゾートで交わされたと見られている。ビットフューリーはその後、プラントを安値で買い戻した。
暗号通貨は2018年に入ってから暴落しているが、採掘可能な最後の2100万ビットコインを巡る争いはまだ終わっていない。
スピード勝負の大きな賭けであり、すでに数人の億万長者が生まれ、採掘者の株式公開(IPO)が相次いでいる。そして、電力消費の激しいスーパーコンピューターとその冷却装置を設置するための用地獲得競争が起きている。

160の冷却タンクが並ぶプラント

ビットフューリーは、ビットメイン・テクノロジーズ(Bitmain Technologies)に次ぐ世界2位の採掘者だ。ビットメインは香港でのIPOを予定している。
ビットフューリーはハードウェアに力を入れており、最もアグレッシブな液浸冷却性能を持っている。同社はこの技術をジョージアのプラントと、現在拡張中の別のデータセンターに導入している。
7月、ジョージアのプラントを訪れる機会があった。プラント内には、160の冷却タンクが並べられ、高度な技術的成果である液体が採掘システムの周りを循環している。
何の変哲もない建物であり、大型ネコ科動物のロゴがなければ、ビットフューリーのプラントだとはわからない。周囲には小規模な採掘施設がいくつもあり、遠くにはコーカサス山脈が見える。
ビットフューリーのヴァレリー・ヴァヴィロフCEOは電子メールで取材に応じ、「われわれは早い時期から、インターネット検索やビットコインのブロックチェーンの保護まで、あらゆるものに高性能なデータセンターが使われるようになることに気づいていた」と述べた。
さらに、液浸冷却技術は電力と空間の節約になると説明し、「われわれの採掘事業は今も利益を上げており、長期的にビットコインを楽観視している」と述べた。

採掘施設の拠点として世界2位

ヨーロッパとアジアの交差点にあり、ソ連の共和国のひとつだったジョージア(旧称グルジア)は、今や採掘施設の拠点として世界2位の規模を誇る。これは、世界2位の採掘者であるビットフューリーのおかげだ。
採掘者たちは、安い土地と電気代、優遇税制に引かれ、この地にやって来る。ジョージアは世界銀行のランキングで、事業を展開しやすい国のトップ10に入っている。
世界で最も大きな採掘施設の拠点は中国だ。ケンブリッジ大学のオルタナティブ・ファイナンス・センターによれば、中国の採掘施設は、四川省をはじめとする辺境に集中しており、採掘者たちは現地の発電所と契約を交わしているという。
ビットフューリーは、ジョージアを暗号通貨の世界地図に載せる手助けを行い、ジョージアを足掛かりに他のブロックチェーンサービスの契約を勝ち取っている。
その一例が、ウクライナでの選挙支援だ。ビットフューリーは、同社データセンターが稼働する免税地域に土地をもつ地主でもあり、ブロックチェーンを利用した土地権利プロジェクトも運営している。
ビットフューリーのジョージ・キクヴァズ副会長は、ジョージア出身だ。ビットフューリーの初期の出資者であるジョージアン・コ=インベストメント・ファンド(Georgia Co-Investment Fund)の顧問も兼任している。

税金は「ゼロ」に等しい

ヴァヴィロフCEOは2013年、ジョージアを訪問した際、レミ・ウルマシヴィリからもてなしを受けた。ウルマシヴィリは現在、ジョージアにおけるビットフューリーの代表者を務めている。
ウルマシヴィリは、トビリシの街を見下ろすカフェで取材に応じ、「私は彼(ヴァヴィロフCEO)に、税金はゼロに等しいと伝えた」と振り返った。「その2週間後、重要な電子メールが届いた。データセンターを開設したいという内容だった」
ジョージアは2018年9月、採掘の拠点としてさらに広く知られるようになる。ビットメインがジョージアで会議を開催するためだ。広報担当者のニシャント・シャーマは、ロシアから近く、ビザなしで入国できるため、ロシアの顧客にとっては魅力的だと話す。
ビットフューリーは非公開会社であり、同社技術によるコスト節約の詳細を明らかにしていない。
ただし、ビットフューリーが買収した液浸冷却技術システム企業アライド・コントロール(Allied Control)の創業者カーウィン・ラウは、同社のシステムを導入すれば、採掘施設の空間を3分の1節約できると述べている。
ビットフューリーはこの技術について、都市部のクラウドコンピューティング各社や、マイケル・ルイスの著書『フラッシュ・ボーイズ』(邦訳:文藝春秋)で取り上げられたような超高速のトレーダーたちからの需要があると確信している。
こうしたトレーダーは、証券取引所の近くにハードウェアを置き、誰よりも速く取引しようと、ミリ秒単位でしのぎを削っている。

噂を聞いた関係者が次々視察に

暗号通貨を採掘するための数学問題を解こうとしのぎを削る採掘者たちは、家を暖房できるほどの熱を発生させるため、「クリプトヒーター」という市場まで生まれている。
ファンドストラット・グローバル・アドバイザーズ(Fundstrat Global Advisors)によれば、コンピューターの冷却コストが原因で採掘コストは上昇しており、平均すると、1ビットコインの取引価格は1ビットコインを採掘する際の損益分岐点を下回る状態だという。
ビットフューリーの冷却システムは、3M(スリーエム)の「Novec」という液体を使用している。3Mの元幹部マイケル・ケリーがかつて「魔法の素材」と呼んだ液体であり、レースカーの消火から砂漠での水の採取まで、あらゆることに有効利用されている。
トビリシの施設の廊下には、この液体が入った黒い樽がずらりと並んでいる。アライド・コントロールのラウによれば、プラントの噂を聞きつけた銀行関係者やデータ技術者が巡礼のように視察にやって来るという。
一方、ビットフューリーは政治的な陰謀に巻き込まれている。元ジョージア首相の億万長者ビジナ・イヴァニシヴィリが設立したファンドから出資を受けたためだ。
ビットフューリーがプラントを売却したときは、イヴァニシヴィリの敵対者たちが「納税者が優遇税制のあおりを受けている一方で、イヴァニシヴィリは売却利益を享受している」と批判した。そして、プラントのエネルギーコストが細かく調査された。

プラント売却と元首相のファンド

さらに議会は、このファンドとある政治家のつながりについて、徹底調査を要求している。この政治家の息子は、アメリカで起きた大規模な金融ハッキング事件(ビットコインの違法取引を含む事件)で起訴されている。
イヴァニシヴィリが設立したファンドのCEOを務めるジョージ・バチアシヴィリは、この件についてはまったく把握していないと述べている。検察当局にコメントを求めたが、回答は得られなかった。
このファンドのバチアシヴィリCEOによれば、ビットフューリーがプラントの売却を決定した際、政治的な事情は考慮されていなかったという。売却の目的は、高値を維持していた暗号通貨から利益を得ることだった。
「後から振り返れば、これは正しい決断だった」とバチアシヴィリCEOは話す。「ただし当時は、ビットコインの相場がどちらに動くかわからなかった」
プラント売却の交渉が始まったのは2015年。ブランソンが英国領バージン諸島に所有するビーチリゾートで、イベントが開催されたときだ。
香港の金融サービス企業チョンシン・ホールディングス(Chong Sing Holdings)のユー・キアット・ファンCEOは、このときにビットフューリーのヴァヴィロフCEOおよびキクヴァズ副会長に会ったと述べている。

香港の金融サービス企業の存在

チョンシンは当時、買収攻勢を仕掛けている最中だった。これと同じ時期に、2700万人の登録ユーザーを抱えるオンライン融資プラットフォーム、ウィシェア(WeShare)も買収したのだ。
しかし、中国のピアツーピア(P2P)オンライン融資市場は、現在崩壊状態にある。スキャンダルが相次ぎ、規制当局が警告を発したためだ。
そして、チョンシンの株価は3カ月で半値になった。ウィシェアの取引額は、2017年に過去最高の630億元(約1兆円)を記録したが、2018年前半には60億元(約970億円)まで落ち込んでいる。
チョンシンのファンCEOは、すぐに対策を講じた。具体的には、リスク回避のため、オンライン融資事業と暗号通貨資産、ジョージアのプラントの比率を減らしたという。
ファンCEOは、あるインタビューで次のように述べている。「資本市場は中国のフィンテック企業にとって厳しい状況だ。そのため、リスクを低減させる必要があった」
原文はこちら(英語)。
(執筆:Blake Schmidt記者、翻訳:米井香織/ガリレオ、写真:©2018 Bloomberg L.P)
©2018 Bloomberg L.P
This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.