【落合陽一×平野啓一郎】日本人は自由をアップデートできるか

2018/9/14
落合陽一とゲストが毎週設定したテーマをアップデートすべく、番組視聴者や観覧者とともに議論を進める番組「WEEKLY OCHIAI」。9月12日の放送では「自由をアップデートせよ!」をテーマに小説家の平野啓一郎をゲストに迎え「自由の根源的な意味」、「これからの自由の形」について語り合った。

テクノロジーが自由を方向づけている

自由という幅広いテーマの中で、まず取り上げられたのが「日本人は自由なのか?」という議題。
落合は「ヨーロッパ人は比較的、“これもあり”と思う心を持っていて、そういう意味では自由だと思える精神的枠組みが広い。それに比べると日本人は、その自由への精神的枠組みが狭い」と指摘する。
日本では憲法で自由が保障されている。平野は「憲法のようなものに保障された空間にいるから、選択する自由を感じられる部分もある。しかし、実は見えない形でなんらかの方向づけがされていることに気づいていない。テクノロジーもそこに大きく関わっていて、自動的におすすめをリコメンドされて、それに触発されて選ぶというのもそのひとつの例だ。
自分では自由に選択しているつもりでも、知らないうちにそういう環境の影響を受けているのが現代。もちろん、環境をデザインして自動化することが一概に悪いとはいえないけれど、情報や政治的な判断については慎重に考えていくべき」と語る。

終身雇用システムの矛盾が働く自由を奪う

日本の労働環境は自由度が低いというのがこれまでの一般的なイメージだ。働く自由について、落合は「労働的自由と判断の自由」のふたつが重要だと言う。
「オレは可処分時間の自由は短いけれど、意思決定は自由。働くことから自由になりたいという人がいる半面、実は働きたいと思っている人も意外と多い。そこが自由の難しいところ」(落合)
落合陽一 (おちあい・よういち) 筑波大学 准教授・学長補佐 デジタルネイチャーグループ主宰 デジタルネイチャー推進戦略研究基盤 / ピクシーダストテクノロジーズ代表取締役
1987年東京都生まれ。筑波大学情報学群情報メディア創成学類でメディア芸術を学び、東京大学で学際情報学府にて博士号を取得(学際情報学府初の早期修了者)。2015年より筑波大学助教。映像を超えたマルチメディアの可能性に興味を持ち、映像と物質の垣根を再構築する表現を計算機物理場(計算機ホログラム)によって実現するなど、デジタルネイチャーと呼ばれるビジョンに基づき研究に従事。情報処理推進機構より天才プログラマー/スーパークリエータ認定に認定。World Technology Award 2015年、世界的なメディアアート賞であるアルス・エレクトロニカ賞受賞など、国内外で受賞歴多数。
そのジレンマを象徴するのが、終身雇用を土台とするさまざまな社会制度だ。すでに終身雇用は過去のものとなっているのにもかかわらず、35年ローンを組んで持ち家を手に入れるのが人生のゴールに設定されている。
「そうすると、会社をやめられなくて働く自由がなくなる。副業にしても、経済的には豊かでやりたいことがほかにあるという副業と、いくつも仕事を掛け持ちしないと生活できなくて追い詰められた副業がある。このふたつには歴然とした格差があり、自由度も全く違う」(平野)

好きな「分人」でいられる自由

ここで、平野が主張している「分人・分人主義」と自由について、考えてみる。
分人とは、対人関係ごとに生じる様々な自分のこと。一人の人間は複数の分人のネットワークであり、「本当の自分」という中心はない、という考え方だ。複数の分人が自分の内的な対話の中で、混じり合い、共有し、それぞれの分人がより豊かになっていくという。
「対人関係ごとに自分の中に分人がいるんですが、自分の好きな分人を好きな比率で生きられるのが自由ということ。嫌いな分人を生きる時間が長かったり、嫌いな分人でいることを強制されるのは不自由です」(平野)
平野啓一郎(ひらの・けいいちろう)/小説家 
1975年、愛知県生まれ。京都大学法学部卒。『日蝕』により芥川賞を受賞。著書に小説『葬送』『決壊』(芸術選奨文部科学大臣新人賞)『ドーン』(ドゥマゴ文学賞)『マチネの終わりに』(渡辺淳一文学賞)、エッセイ・対談集に『私とは何か 「個人」から「分人」へ』『「生命力」の行方~変わりゆく世界と分人主義』等がある。最新著は『自由のこれから』。
テクノロジーの進化は、ここでも影響を及ぼす。対人関係だけでなく、AIやロボットが分人化して、接する人によってその人が最も心地よいと思うコミュニケーションにパターンを変えてくる可能性もあるだろう。
「自由とは、好きな分人で長くいられることで、それが幸福にもつながっていく。その一端を共感度の高いAIが担っていくかもしれません。もちろん、一番好きな分人だけがあればいいのではなくて、ほかの分人も必要。その構成要素を自由に選べることが大事」と平野。
自分で時間の使い方を選べる可処分時間が1日30分程度しかないという落合は、自由に時間をコントロールできなくとも、幸福度は高いという。
「オレが幸せを感じている時間というのは、脳からアドレナリンが出ているとき。その時間に集中できるほど気持ちいいし、めっちゃ面白い。瞬間、瞬間で自由を感じている」(落合)

好きな分人の比率を上げ、自分を切り替える

最後に二人に「自由をアップデートする」ためのファーストアクションについてコメントをもらった。
自分が好きな自分でいられる分人の比率がなるべく大きくなるように、人間関係を整理すること。そうすると環境が、より好きな分人を生きやすくしてくれると思います。
オレ自身、切り替えはめちゃくちゃ早い。なんでも1週間くらいで忘れたほうがいい。大学受験前は合格がすべてのゴールみたいに言っていて、入学後は受験なんて最低、みたいなことをいうくらい切り替えが早い方がいい。いつまでも昔を引きずっているのはダメ。
テクノロジーが自由をどう変えていくのか。幸福な自分でいられるために、自由でいられる分人の比率をどう構成していくのか。
あなたは、「自由のアップデート」をどう考えるだろうか。
(取材:工藤千秋 撮影:北山宏一 デザイン:片山亜弥 編集:久川桃子)
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