世界市場、2025年までに100億ドル規模へ

CRISPRを利用した遺伝子編集技術が、ウォール街で旋風を巻き起こしている。この技術のパイオニアは、おそらく5~10年後、患者の治療法として認可される日が来ると述べている。
カリフォルニア大学バークレー校ダウドナ・ラボを率いる生物学者ジェニファー・ダウドナによれば、欠陥遺伝子の破壊または修復を目的とした実験的治療の安全性や有効性については、いまだに複数の重要な問題が残されているという。それでも、ダウドナは楽観的だ。
ダウドナは、ニューヨーク州ロングアイランドにあるコールド・スプリング・ハーバー研究所で開催された遺伝子編集サミットの会場でインタビューを受け、このように語った。
「ヒト細胞のDNAを編集することは可能か。答えはイエスだ。正確に編集できるかという問いに関する答えもイエスだ。実際、世界中の研究所で行われている。問題は、それをどのように臨床的に応用するかだ」
ダウドナは、簡単なことではないと認めながらも「われわれの多くがこのチャンスに興奮しているので、それを可能にする方法を見つけ出す意欲は、研究者にも企業にも十分にある」と述べた。
この分野をリードする公開会社は、CRISPRセラピューティクス、エディタス・メディシン、インテリア・セラピューティクスの3社で、いずれも過去1年間に株価が急上昇している。臨床試験をまったく行っていないにもかかわらずだ。
シティグループのアナリストたちは、CRISPR技術の世界市場は2025年までに100億ドル規模に達すると予測している。
ゴールドマン・サックスのアナリスト、サルビーン・リヒターは、CRISPRセラピューティクスの株価が最も高くなると予想している。
CRISPRセラピューティクスは、米国で初めてCRISPR技術の臨床試験を行う企業になる見込みだ。ヨーロッパでは2022年、米国では2023年にも、遺伝性疾患群「ベータ・サラセミア」の治療が認可されると見られている。

中国ではすでに患者数十人の遺伝子が編集

CRISPRセラピューティクスは、米国での認可を待ちながら、2018年中にヨーロッパとカナダで研究を開始する準備を進めている。一方で、がん発症につながる突然変異を含む潜在的リスクについて警告する研究論文が次々と発表されている。
エディタス、インテリアなどのスタートアップを共同で立ち上げたダウドナは、こうした研究論文の内容には驚いていないと述べる。遺伝子編集は「本質的にエラーを起こしやすく」、必ずしも望み通りに事が運ばないためだ。
ただし、ダウドナは同時に、そうした研究結果を臨床的に意味のあるデータとして解釈するのは難しいと指摘している。「われわれが注意すべき重要な警告であることは確かだが、私に言わせれば、致命的な問題はどこにも見当たらない」
CRISPR技術の競争では、中国が1歩抜け出しているようだ。『ウォールストリート・ジャーナル』は7月、中国ではすでに数十人の患者の遺伝子が編集されていると報じている。
ペンシルベニア大学の医療部門ペン・メディスンの広報担当者によれば、米国ではペンシルベニア大学が初期研究の治療群3つのうちのひとつとして肉腫の患者を募集しているという。
ダウドナはCRISPR技術の認知度向上と倫理的議論のために尽力しており、香港で今秋、2度目の遺伝子編集国際会議を開催しようと動いているところだ。
ダウドナが研究の拠点を置くカリフォルニア大学とブロード研究所(マサチューセッツ工科大学とハーバード大学が共同運営)は、ワシントンD.C.の連邦巡回区控訴裁判所による裁定を待っているところだ。
この裁定が下れば、誰に特許権があり、誰がCRISPR技術から利益を得られるかがはっきりする。特許争いに多大な費用と時間がつぎ込まれていることは「いら立たしい」とダウドナは話している。
最終的に、実験を開始できる日が来れば嬉しいと、ダウドナは述べている。「望む人がいれば、われわれはいつでも臨床試験を行うつもりだ」
原文はこちら(英語)。
(執筆:Tatiana Darie記者、翻訳:米井香織/ガリレオ、写真:ClaudioVentrella/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.