(ブルームバーグ): 「株主は後回し」。一見、株主の利益追求を重視する最近の株主資本主義の流れに逆らうような主張だ。しかしそれを言ったのが、誰もが認めるプロ経営者だったらどうだろう。

大手菓子メーカーのカルビー会長兼最高経営責任者(CEO)から今年6月、新興企業のRIZAP(ライザップ)グループ最高執行責任者(COO)に転じた松本晃氏(71)は「一番は顧客と取引先、2番は従業員と家族、3番は地域社会。株主は最後です」と明言する。ブルームバーグ・ニュースのインタビューに答えた。

松本氏はカルビーのCEO在任中は経費縮減で捻出した資金を販売促進費に回すなどしてシェアを拡大、約9年間で最終利益を約7倍、営業利益を6倍に引き上げた。それ以前にも米ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人の代表などを務めて売上高を大幅に伸ばすなど業種を超えたマネジメント経験を持つ経営のプロだ。物言う株主(アクティビスト)が台頭する中にあって、異色の発言で知られる経営者でもある。

松本氏は「株主ファーストと言って最終利益のことばかり考えているからいろいろな不祥事が起こる。株主ラストと言っていると、実は株主にとっても一番いい結果になる」と言い切る。「私は生きている限りこの考えを変えない」とも。このため、株主から批判されることはしょっちゅうだ。6月のライザップの定時株主総会でもこの信条について質されたという。

実際、日本電産の永守重信会長をはじめ、日本では同様の考えを持つ経営者もいる。京セラの稲盛和夫名誉会長は過去のインタビューで「株主より従業員が一番だ」と述べた。どちらも一代で大企業を築いた創業者だ。松本氏の考え方は米国に源流を持つ。ジョンソン・エンド・ジョンソンの「クレド(我が信条)」を継承したものという。

株主も大事

松本氏は株主は最後という序列は変えないが、一方で「株主を大事にしないと言ったことは一度もない」と話す。だから、時間の許す限り株主に会い続ける。「ちゃんと議論して先方が正しければそれはやる。私が正しければ自分の主張を通します」。カルビーでは個別面談、IRミーティングを合わせて年間約100回の株主対話を持ったこともあったという。

松本氏は、物言う株主など時に短期的な取引をする株主に対しても好意的だ。「私はアクティビストを決して悪者とは思わない。短期で利益を求める手法もあっていい。自分たちのお金を投資しているのだから、言いたいことは当然言うべきだ」と言う。警戒する日本企業が多いなか、異例の対応だ。松本氏は短期保有も長期保有も、個人株主も機関投資家も皆平等に接してきたという。

いちよしアセットマネジメントの秋野充成執行役員は、松本氏を「評価に値する実績があると思っている。できることしか言わないしやらないので、言葉に安心感がある」と評価する。株主は後回し、という発言については「構わない。投資家としては、増配や自社株買いといった結果が出ればそれが株主ファーストになるからだ。手段は何でもいい」とした。

目指すは1兆円企業

同社の成長戦略について、松本氏は「連結売上高1兆円がとりあえずの目標。日本の場合は1兆円企業が一つの区切りだから」とし、最終利益の目線はその15-20%に置くとした。同社の18年3月期の連結売上高は1362億円、純利益は92億円。今期の売上高は約2倍の2500億円、最終利益は約6割増の159億円を見込む。急成長しているとはいえ野心的な目標にも見えるが、主力事業に加え「買収先やこれから買収する企業をしっかり育てて達成したい」と意向を示した。

同社傘下にはサンケイリビング新聞社や衣料小売りのジーンズメイトなど主だったものだけで29社がある。13日の決算説明会で、松本氏は「多くの買収先の中で、大きくて可能性のある会社を良くすることと、足を引っ張っている会社の出血を止めるのが当面の私の仕事」と述べた。

カルビーCEO退任を発表した後、松本氏には約20社からオファーが殺到した。選んだのは、短期間で劇的にやせるテレビCMが話題のライザップ。松本氏に理由を問うと「恐らく主力のジムやゴルフだけではこの会社を選んでいなかった。何だか知らないけどいっぱい会社があるらしい。おもちゃ箱的、宝探しみたいな感じです。中に変なものが入っていませんように」と言って笑った。

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