フェイスブックにおけるケンブリッジ・アナリティカのスキャンダルのような問題が起こらないように、管理体制を強化するとリンクトインは述べている。研究者は、集約して匿名化されたデータにのみアクセスできる。

提案が承認された研究者に限定

昔々、フェイスブックが同社データへのアクセスを学術研究者に許可したことがあった──。このお話の結末はおわかりだろう。ケンブリッジ・アナリティカとのスキャンダルだ。
そして今、マイクロソフト傘下にあるビジネス・ソーシャルネットワーキング・サイト、リンクトインが、同社が抱える膨大な量のデータを学術研究者に公開すると発表した。
ただし、リンクトインのチーフ・データ・オフィサー、イゴール・ペリシッチが8月20日付けのブログ投稿で述べたところによると、同社は利用者のプライバシー保護のために十分な管理体制を整備するという。
データの公開は、研究提案が承認された人に限定される予定だ。ペリシッチの投稿によると、研究者は集約して匿名化されたデータにのみアクセスでき、安全な「サンドボックス」上でしかデータを使用することができない。つまり、研究者は自分のマシンにデータをダウンロードすることはできない。
リンクトインによると、研究者は「研究プロジェクトの範囲を超えてデータを入手したり、保持したり」することはできないという。
さらに同社は、データにアクセスする提案について法務部門とセキュリティ部門が検証すると述べた。「経済的成果のための公平な競争の場の実現を目指した経済的機会」に関連するプロジェクトのみが承認される。
ペリシッチは8月中旬の取材で、リンクトインは主に労働市場と経済に関する知識水準の向上に関心があると述べた。「これは、当社のサービスに直接的な影響をもたらすものではない」
しかし、これまでリンクトインと研究機関の共同研究が、同社サイトの改善につながった例が何度かあるという。
たとえば、タフツ大学で研究するローラ・ジーはリンクトインのデータを使って、男性にとってより魅力的だと思われる求人に関して、女性が応募しやすくするには求人広告が「現在の応募者数」を表示したほうがよいことを明らかにした。同社は現在この知見を、顧客の求人投稿の改善に役立てている。

アナリティクス、経済学、人工知能

さらにペリシッチは社内のデータサイエンティストに対して、興味深いプロジェクトに関して外部の研究者と協力する機会を提供することによって彼らを会社に留め、彼らのモチベーションを上げることができると話す。
同社は研究者たちに対して「アナリティクス、経済学、人工知能」の3つの広域分野におけるプロジェクトのアイディアを提出するよう求めている。ペリシッチによると、チーム選考は順番に行われ、1度に12以上のチームがデータにアクセスすることはできない予定だ。
「リンクトイン・エコノミック・グラフ・プログラム」と呼ばれるこの構想は、リンクトインが2015年に実施した外部の経済学者との共同研究が拡大したかたちだ。この取り組みによって、革新的な発見がいくつももたらされたと同社は述べている。
例を挙げると、世界経済フォーラムの研究者はリンクトインのデータを使ってジェンダーギャップについて調査した。
シカゴ大学で財政学のアシスタント・プロフェッサーを務めるジェシカ・ジェファーズは、リンクトインのデータを利用して、非競争契約(従業員が退職する際に、競合他社に転職することを禁じる契約)の影響について研究し、こうした契約が新しい企業や起業家精神に害を及ぼすと結論づけた。
現在リンクトインのプログラムに参加している他の学者は、チームの成功に貢献する要因を検討したり、オン・ザ・ジョブ・トレーニングに関する理論を検証したりしている。
ペリシッチはブログで「これらのチームはすでに、米国労働統計局などの機関が用いる最高の手法に匹敵するレベルの細かさと規模で、現実世界の経済事象を捉えている」と述べている。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Jeremy Kahn記者、翻訳:新多可奈子/ガリレオ、写真:©2018 Bloomberg L.P)
©2018 Bloomberg L.P
This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.