軍事演習「ブロッキング」に着想

従業員が個々に行うリモートワークは、もはや珍しいものではなくなった。しかし、会社の命令で300人の従業員がいっせいに、何日も続けてオフィスに来なくなったら、いったいどうなるだろうか。
それを確かめるため、ジャストワークスは全オフィスで「ワーク・フロム・エニーウェア(WFA)週間」を実施した。同社は、諸企業のバックオフィス業務(給与・福利厚生・人事・コンプライアンスなど)を簡略化するサービスを提供する企業だ。
ジャストワークスの創業者でもあるアイザック・オーツ最高経営責任者(CEO)によれば、WFA週間のコンセプトは「ブロッキング」と呼ばれる軍事演習から来ているという。部隊全体が一時的に活動を停止する演習だ。
「全員に対して、労働環境を変える選択権を与えた」とオーツCEOは説明する。「もちろん、休暇としてではない。新規市場に対する視点を新たにしたり、いつもとは違う種類の生産性を刺激したり、自身の仕事の目標に向けたディープワークの完遂を促したりするための機会としてだ」
従業員が従うべきルールはふたつ。ニューヨークにいるときと同じ勤務時間を守ること。そして、ジャストワークスで共有されている中核的な責任をすべて果たすことだ。

再び顔をそろえた最初の月曜日

オーツCEOによれば、すでに従業員間で良好な関係が築かれていたため、1週間のリモートワークが生産性に大きな打撃を与えることはなかったという。チームリーダーシップミーティングもリモートで行われるのは今回が初めてだったが、ビデオを使ってスムーズに行われた。
スタッフの多くがこの機会をうまく活用し、既存顧客を訪ねて見識を得た。彼らは全米を飛び回り、なかには飛行機で国外に足をのばす者もいた。
ただし、動き回ることなく、電話による打ち合わせや市内でのミーティングを行いつつ、自分の持ち場の仕事に集中して取り組んだほうが便利だし、理にかなっていると考える従業員もいた。彼らの大半は、新規市場や顧客ケーススタディなどに関するすぐに実践可能なアイデアを得て、オフィスに戻った。
全員が再び顔をそろえた最初の月曜日、オフィスには活力がみなぎっていた。驚くほどの活力だった。そのことが私の印象に強く残った。

誰もが出社したがっていたし、仲間に会いたがっていた。みんなでいっせいにいつもの日常から離れたため、休暇や長い週末からオフィスに戻るときとは、まるで違う感覚だった。また、いつものような「遅れを取り戻さないと」という焦りに駆られているスタッフもいなかった。

この最初の週、私は全員に頼んでアンケートに答えてもらい、WFA週間に関するそれぞれの体験を教えてもらった。

97パーセントが、同僚と連絡を取り合いながら目標を達成できたと回答した。98パーセントが、いい気分転換になったと回答した。そして97パーセントが、来年もWFAを実施すべきだと回答した。
従業員同士の関係が向上したという今回の結果は、ランカスター大学マネジメントスクールで組織の心理・健康を研究するケーリー・クーパー教授の主張と一致する。同教授によれば、完全な在宅勤務を望んでいる人はほとんどおらず、いずれは誰もがある程度の接点を社会に対して求めるようになるという。
精神のリフレッシュに加えて、WFAはテストとしても重要だったとオーツCEOは付け加える。たとえオフィスを物理的に閉鎖せざるを得ない事態が起こったとしても、滞りなく事業を運営できることが証明されたからだ。
その結果、このWFAのアプローチは、いまやジャストワークスの緊急時の事業継続計画にも組み込まれている。

チームリーダーに権限を与える

オーツCEOによれば、リモートワークを実施する際、企業が直面するもっとも一般的な問題は、このフキシブルな勤務も「本物の仕事」であるとスタッフにはっきり認識させることだという。
この問題を解決するためのもっとも間違いのない方法は、雇用の際に仕事をやり遂げる気概のある人材を確実に選ぶことだ。
同氏はまた、プロセスの安定性と成功を実現するために、出張の手配や出費などについて事前に明確な計画をたてておくこともすすめている。このポリシーの破綻を防ぐには、正しい充電器が用意されているかどうかといったような細かいことについても検討しておく必要がある。
最後に、すべてに当てはまる万能の解決策などないということも承知しておかなければならない。たとえば、ソフトウェア開発などの仕事なら柔軟性を促進しやすいが、営業や業務などの仕事はよりきちんとした体制やその時々の対応を必要とする。
「大多数の企業は、包括的なトップダウン式の方針ではなく、チームリーダーに権限を与えることに重点を置くことで、こうした相違を乗り越えられるはずだ」とオーツCEOは助言する。
「実際の仕事を率いているのはマネージャーや部門責任者だ。私の意見では、彼らに責任を与え、チームにもっとも適した方針をつくれるようにすべきだ」

予想外の障害への会社の対応能力

ジャストワークスの実験は、何百人もの従業員をオフィスから意図的に閉め出す試みは、まったくのナンセンスというわけではないことを示している。
こうした試みは、こうした機会でなければ得られないような情報を集めたり、活力や従業員同士の関係性を向上させたり、さらには予想外の障害にも対応できる企業の能力を高めるうえで役立つものだ。
こうしたポジティブな文脈からオーツCEOは、現在の従業員(とくに「オフィス外」勤務を可能にするテクノロジーに慣れ親しんでいるミレニアル世代)がワークライフバランスを切望しているという事実に、各社は敏感になるべきだと話す。
オーツCEOは「一般的にいえば、職場の柔軟性は企業ごとに違う様相を示すだろう。あるいは、チームごとに違って見えることもあるかもしれない」と述べる。
「WFA週間は、当社にとっては効果があった。だが、あなたのビジネスに優れた効果をもたらしてくれる(かもしれない)ソリューションは、ほかにも数えきれないほど存在するはずだ」
原文はこちら(英語)。
(執筆:Wanda Thibodeaux/Copywriter, TakingDictation.com、翻訳:阪本博希/ガリレオ、写真:NicoElNino/iStock)
©2018 Mansueto Ventures LLC; Distributed by Tribune Content Agency, LLC
This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.