【山口周】マーケティングだけでは勝てない時代に必要な「美意識」とは

2018/8/6
ZOZOの前澤友作氏がバスキアのアートを123億円で落札したことは大きなニュースになったが、アートに情熱を注ぐ経営者は前澤氏に限らない。実は近年、世界の「ニューエリート」と呼ばれる人々は、意識的にアートに触れ、美意識を鍛えているのだ。たとえば、スマイルズの遠山正道氏、ストライプインターナショナルの石川康晴氏などNewsPicksゆかりの経営者もアートへの造詣が深い。
彼らがアートに情熱を傾けるのは、ただの「お勉強」でもなければ酔狂でもない。ビジネスで成功するための鍵がそこにあるからなのだ。『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』の著者・山口周氏に話を聞いた。

日本企業の製品はなぜどれも同じに見えるのか

「ビジネスにおいて、差別化は重要な要素です。日頃からアートに触れ、自分のなかで審美眼を養っておくことは、“横並び”のなかから『いち、抜けた!』と飛び出すための勇気を持つことにつながります」
こう語るのは、『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』の著者・山口周氏だ。
山口氏の言う“横並び”は、私たちの身の回り、さまざまなところに見いだすことができる。
特に電化製品ではそれが顕著だ。たとえば電子レンジは、同じような色や質感、似たような液晶やボタン配置のものばかりで、遠目には見分けがつかない。
携帯電話もそうだ。初代iPhoneが発売された2007年当時、日本メーカーの商品は、できるだけ画面を大きくしようとした結果生まれた二つ折りのガラケーがほとんど。どの製品も親指の位置にスクロール用のボタン、その周りにいろいろな機能を呼び出すためのボタンが配置されていた。
「そこには作り手の感性や多様性がまったく反映されていません。ただし、開発者たちはサボっているわけではなく、むしろとても真面目に取り組んでいるし、その瞬間その瞬間で見ると、とても合理的なことをやっている。だから問題なんです」
“横並び”が起こる要因のひとつは、企業にマーケティング手法が浸透したことだ。
「経営学やマーケティングの発達により、企業は『市場が望んでいるものを精密にスキャンすれば、トレンドを後追いするかたちでヒット商品が作れる』という成功体験を得ました。ただ、実際にはそれで勝負できた時代は2000年ごろに終わっています」
競合の商品をずらりと並べ、消費者にアンケートを取り、分析を行い、デザイナーへのフィードバックを行う。その工程はすべて、従来のマーケティング手法としては正しい。
しかし現実には、皆が同じ手法を使ってアンケートを取り、同じような意見を吸い上げた結果、見分けのつかない製品が多く生まれた。そしてはじまったのが、細かなスペック競争や価格競争による消耗戦だ。
そんな状況下でスティーブ・ジョブズが生み出したiPhoneは、代を経るごとに多くのユーザーを獲得し、登場から10年たった今も、携帯電話市場で圧倒的な人気を誇る。
iPhone Xは、すべてがスクリーンのまったく新しいデザインだ(画像提供:Apple)
「マーケティングにおける“正解”を誰でも得られるようになった時点で、もはや“正解”には価値はない。
スティーブ・ジョブズが市場の声に耳を傾けていたら、iPhoneほど革新的な製品は生まれなかったでしょう。彼が従ったのは『自分はこういうものが欲しい』という欲求。一方で、多くの日本企業は『私はこれがかっこいいと思う』という提案ができないまま、今も従来の手法に固執しています」

ビジネスの突破口はアートに学べ

もちろん、“正解”を出す技術は重要だ。しかし、それだけでは勝てないことがわかった今、必要になるのは、あえてそこから外れる「定石破り」だ。
「価値が逆転するような『定石破り』はアートや音楽、哲学の世界ではしばしば起きてきました。アートの歴史は定石破りの歴史だとも言えます」
ルネサンス以降、アートの世界では対象を正確に描くことや、神話・宗教的な価値観や物語を伝えることが「良い絵」の条件だった。
そこに異論を唱えたのが、19世紀後半に登場した印象派だ。彼らは「そもそも世界を客観的に認識することは可能なのか」と考え、自らが感じたままをキャンバスに描いた。
過去の様式にとらわれた人々からすれば、印象派のやり方はルール違反であったため、サロンから追い出され、しばらくは展示の機会も与えられなかった。「印象派」という呼び名も「自分の印象を描いているに過ぎない」という侮蔑の意味合いから生まれている。
しかし、最終的には世の人々がジャッジを下した。それまで「良い」とされていた写実的な絵画は徐々に人気を失い、当時「大家」とされていた画家も、今ではほとんど顧みられることがない。
それと同じ“ものさし”の転換が今、ビジネスにおいても起こっている。だからこそ、これからのビジネス、社会を牽引していくような人々はアートに学ぶべきなのだ。
「“ものさし”を転換させる原動力は、『これは世の中的に良いとされているけど、イマイチじゃない?』という、自分の内側から湧いて出た感覚です。自分の心のなかに湧き立つ感覚をつかむことが、世に新しいものを送り出すことにつながるのです」
山口氏が美意識を鍛えることの重要性を訴える理由がそこにある。

美意識とは自分なりの“ものさし”を持つこと

間違えてはいけないのは、「美意識を鍛える」「アートに学ぶ」ということの本質だ。それを、「美術史の文脈において傑作とされる作品を見て知識をつけ、現在アカデミーで良いとされる作品を自分でも語れるようになること」と勘違いする人は少なくない。
しかし、それで身につくのは、今の世の中のものさしでしかない。目指すべきは「絶対的な“ものさし”は存在せず、その時代時代で切り替わるものだ」と認識することだ。
アートコレクターは絵を見て、心が動けば買う。「たまたま安かったから」という理由で絵を買うことはないだろう。その「心が動く」感覚をビジネスに転用できるようになれば、生み出されるものはおのずと変わってくる。
「普段、そんな判断をしていないから無理だと思うかもしれませんが、ビジネスから離れたところでは、意外に自分の感覚を大事にしているものです」
山口氏が例に挙げるのは、ラーメン屋。ほとんどのビジネスパーソンにはお気に入りのラーメン屋がある。
「その店のラーメンのおいしさを数理記述して」とか、「メリットをロジカルに説明してください」と言われても、「そんなことに何の意味があるんだ。好きなんだからいいじゃないか」と感じるはずだ。
それと同じように、家の中に飾る絵を選ぶとき、無名であっても「好きだ」と思える絵に巡り合えればいいはずだ。有名画家の作品より確実に安いし、場合によっては画家が大成して値上がりするかもしれない。だから海外では、無名作家の安価な絵のほうが展示会で人気が出る。
一方、日本の展示会で売れる絵は著名な画家のものばかりだ。
「そういう意味では、スープストックトーキョーの創業者・遠山正道さんは、非常に真っ当なアートコレクターです。彼は世間に評価されていない作品でも、自分がいいと思えばまったく意に介しません。
ZOZOの前澤友作さんも、『なんでそんな高い金を出すんだ』なんて周りの声には耳を貸さないでしょう。
お二人とも、自分が心から欲しいと思っているからこそ、そんな行動に出られるのです。その価値基準は、これまでになかったサービスを世に出すことができたことと無関係ではないでしょう」

自分のセンスを信じて、わがままになれ

では、私たちはどうすれば美意識を鍛えることができるのか。
「プロダクトデザイナーの深澤直人さんは『どうやったらセンスを鍛えられるかという質問がすごく困る』とおっしゃっています。そもそもセンスとは感じることで、誰もがセンスを持っているからです。
ですが、『アートは自分にはわからない』と萎縮している人には、ラーメンのように触れ合う機会を増やすことがひとつの助けになるでしょう。
たとえば、イタリア人はかっこいい、かっこ悪いという判断軸に絶対の自信を持っている人が多いように感じます。私の知人はミラノの空港で『その着こなしはダサいからやめておきなさい』と忠告されたそうですが、その声の主はただの税関職員でした(笑)。
あるいは、フランスのメガネ量販店に買収されたイタリアのメガネ職人が、フランス人社長に『われわれはこれまで、こんなメガネを作ってきた』と紹介されたとき、『こっちは美しい。でもこっちはダメだ』と物おじせずに切って捨てたというエピソードもあります」
彼らは普段からアートに囲まれている。日常生活のなかでアートに接し、「感じたことを、ちゃんと打ち出すべきだ」という教育のもと、自らの審美眼を醸成させてきた。
それが、異なるテイストのハイブランドがそれぞれに育ち、リスペクトされる土壌となり、彼らの“ものさし”の強さにもつながっていると山口氏は指摘する。
「ヘルマン・ヘッセは『わがままこそ最高の美徳』というエッセイを書きました。いつの時代も新しいサービスを生み出して、世の中をよくするのは、自分のセンスを信じて邁進(まいしん)する、わがままな人たちなんですよ」
日常的にアートに触れることが、好き・嫌いという「心が動く」感覚に気づくきっかけになる。それがこれからの時代に求められるセンスを生み出すのだ。

アートに囲まれた暮らしを実現する、文化発信地・渋谷の新たなレジデンス

24時間、感性が磨かれる、刺激的な暮らしを追求するレジデンス「PARK COURT SHIBUYA THE TOWER」が誕生する。
場所は、かつてないほど劇的な変化、そして進化を遂げつつある渋谷。その頂点(※1)とも呼べる公園通りの丘の上(※2)。
渋谷は、今も昔も、グラフィックや音楽などを含む多様なアートを牽引する「カルチャー」の街だ。その一方で、アジアヘッドクォーター特区として日本の国際戦略の一翼を担い(※3)、多くのスタートアップやIT企業が集まる街という一面も持ち合わせる。
PARK COURT SHIBUYA THE TOWER」は、そんな渋谷の区役所建替プロジェクトの一環として誕生する。
総戸数505戸、地上39階建てのタワーレジデンス。空へ向かって翼を広げるかのような印象的なデザインは、ロンドン、ドバイ、東京と活躍の場を移してきた、ホシノアーキテクツ代表・星野裕明氏によるものだ
エントランスから一歩足を踏み入れると、街の喧騒がうそのように穏やかでクリエイティブな空間が広がる。
スパイラル状の階段に沿って現れるクリエイティブラウンジを彩るのは、フラワーアーティスト東信氏をはじめ、ファインアートを手掛けるEnlightenmentヒロ杉山氏やベルギーのフォトグラファーXavier Portela氏など、国内外のアーティストの作品だ。
さあ、アートに囲まれた刺激的な暮らしを手に入れよう。
エントランスロビーをはじめとしたレジデンスのインテリア空間では、渋谷の街の多様性をコンセプトに掲げた「Full of Color, Full of Life」を鮮やかに表現する
1階から2階へと続くクリエイティブステップラウンジはアートウォールに彩られ、一歩上がるたびに表情が変わる
バーカウンター越しに代々木公園を望む20階の吹き抜けラウンジは、ニューエリートが集まる入居者だけのコミュニティ空間
(執筆:唐仁原俊博 編集:大高志帆 撮影:小池彩子 デザイン:國弘朋佳)
※渋谷区役所建替プロジェクト住宅棟計画であるパークコート渋谷ザ タワーは、定期借地権マンションとなります。
※掲載の完成予想CGは計画段階の図面を基に描き起こしたもので、形状・色等は実際とは異なります。外観形状の細部・設備機器等につきましては表現しておりません。家具・アート・照明・調度品・備品等は変更になる場合があります。
※外観完成予想CGの眺望写真は現地敷地内の高さ約94m(29階相当)地点から北方向を撮影(2017年9月)、ザ パークビューラウンジ完成予想CG掲載の完成予想CGは、現地高さ約66m(21階相当)から北方面を撮影(2017年9月)した眺望写真を合成したもので、実際の住戸からの眺望とは異なります。眺望・景観は、各階・各住戸により異なり、今後周辺環境の変化に伴い将来にわたって保証されるものではありません。また、一部CG処理を施しております。
※ 共用施設の使用にあたっては、管理規約等に従っていただきます。一部施設およびサービスの利用は有料となります。
※Xavier Portela、東信、Enlightenmentの共用部アートは、渋谷区基本構想のビジョンである「ダイバーシティ&インクルージョン」の着想のもと採用および表現しております。
※1 パークコート渋谷ザ タワーは東京都内で最上階および屋上に専用使用部分がある新築分譲マンションです。1995年以降の最上階および屋上に専用使用部分がある分譲タワーマンションの中で東京都内で一番高い(39階建て)分譲タワーマンションであることを表しております。(対象期間1995年~2017年12月:MRC調べ)
※2 パークコート渋谷ザ タワーは再開発が進む都内有数のターミナル駅「渋谷」から、代々木公園・明治神宮へ向かう公園通りを上った標高32.5mの丘の上に誕生します。
※3 本プロジェクトの計画地は、平成23年に国から指定された国際戦略総合特別区域のなかの東京都の定める「アジアヘッドクォーター特区」内、渋谷駅周辺地域に含まれています。(東京都政策企画局HPより)また、渋谷駅周辺を中心として2027年まで整備事業が続きます。(「渋谷駅周辺まちづくりビジョン」より)