日本代表を強くする、欧州組「選手100人+コーチ10人」計画

2018/7/10
決戦の地ロストフ・ナ・ドヌを離れ、失意というか、大きな喪失感の下、スイスに戻ってきました。ショックというか悔しすぎて、まだ消化しきれていませんが、現地観戦の感覚が残っているうちに、日本が「W杯ベスト8」にたどり着くために今後何をしていくべきか、今思うことをつづりたいと思います。
今回の日本代表の成果をどう見るかは、「何を目指していたのか?」で、各人異なると思いますが、私個人としては、下記の理由から最高ではないにしろまずまずの結果だと、評価します。
・日本サッカー史上3度目の決勝トーナメント(ベスト16)進出
しかも、今回のロシアや2002年ベスト4の韓国を見てもわかるように、開催国アドバンテージはとても大きいので、2002年ベスト16はあまり参考にならず、実質2度目の快挙。
サッカー大国イタリアが、ここ3大会で一度もベスト16入りしていない(今回はW杯出場もならず)ことを見ても、いかにベスト16進出がすごいかがわかります。
・ベスト16で初の強豪とのガチンコ対決で健闘
2002年大会で準決勝まで勝ち上がったトルコですが、決して強豪ではありません。
2010年大会の決勝トーナメント1回戦で対戦したのは、ドン引きの日本以上にドン引きで凡戦を繰り広げたパラグアイ。今回は、世界ランキング3位の強豪相手でしたが、試合終盤までは、日本が勝つのではと世界中のファンに思わせる戦いぶりを披露。
・真に「日本らしいサッカー」を強豪相手に堂々と披露
ザック時代の選手間連動パスサッカーとハリル時代の縦に速いサッカーを融合させた、真に「日本らしいサッカー」を披露。2014年時に停滞を招いた「日本らしいサッカー」をアップデートして、今後の日本の方向性を提示できた。

日本代表を強くする3つの改善案

しかしながら、今後の成長のためにシビアな目で見ると、日本がまだまだ弱いことが浮き彫りになります。
・1勝2敗1分けで、1試合のみ勝利。しかも、11人相手では未勝利。
・4試合で7失点のまずい守備。毎試合失点するようでは、このレベルで勝ち上がれないのは自明です。
ロストフで打ちひしがれながら、脳裏をよぎった3つの改善案は下記です。
(1)フィジカル軽視をやめる
2006年のオーストラリア、2014年のコードジボワール、今回のベルギーも、結局、途中交代を機としたパワープレーに耐え切れずやられています。
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選手交代を機に、185㎝以上の選手が8人(しかもその多くが190㎝以上)のベルギーに対して、日本はたったの2人です。日本のディフェンダーも頑張りましたが、確率的に見ても、空中戦でやられる可能性は極めて高かったわけです。
もともと、日本サッカーにおいては、国民気質なのか、「戦術」とか「技術」は真剣に取り組まれますが、高さやパワーなどフィジカル面の「個の力」はおざなり気味な傾向があります。
しかし、ここを軽視しては、また同じことがおきるので、日本サッカーにおいて変えるべき志向・習慣です。
私は12年にわたって、サッカー世界最高峰であるチャンピオンズリーグに携わっていますが、この約10年で世界のサッカーはますますフィジカル化しています。大げさに言うと、「スピード、パワー、高さに優れたアスリートでないと、サッカーできない」くらいの急速なフィジカル化進行具合です。
「フィジカルは、日本人は無理」というまことしやかな定説が以前からありますが、大リーグの大谷翔平や田中将大、ラグビー日本代表選手を見ていると、疑わざるを得ません。また、大リーグで活躍するダルビッシュ有やテニスの大坂なおみのように、増え続ける国際結婚から優れた混血アスリートが生まれており、日本でも高さとパワーに優れたアスリートが、もっと生まれてくるでしょう。
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W杯で南アフリカを破り世界を驚かせたラグビー日本代表や圧倒的なフィジカル力で日本サッカー界を驚かせているいわきFCなど、画期的なトレーニングと食事でフィジカル改善に成功している例もあるので、ぜひ、日本サッカーが軽視してきたフィジカル面の「個の力」アップ、もっと積極的にやっていきましょう!
(2)選手層の厚さを生む多様性に富んだ選手育成
ベルギーが日本の弱点を突くパワープレー要員を使った選手交代で成功したのに対して、日本の交代は本田圭佑と山口蛍の2人で終わりました。
2人が悪かったとは言えませんが、ベルギーの途中交代選手のような試合を決める(もしくは、終わらせる)貢献はできませんでした。
連戦に加え、タイプの異なるチームが連なるW杯ですので、勝ち上がるためには(1試合だけいい試合をするのではなく)、選手層の厚さが欠かせません。
後半のあの場面で、マンチェスターユナイテッドで活躍するフェライニを出せるベルギーには選手層の厚さがありました。逆に、フェライニ投入後、明らかにパワープレーに押し込まれるようになった日本には、それを封じる選手層の厚さがありませんでした。もちろん、植田直通を投入するという手もありましたが、W杯初出場の植田が世界標準の「個の力」を持つ名手相手にどこまでやれるかは未知数で、リスクがありました。
繰り返しますが、試合中の問題点(パワープレー)がわからなかったわけではありません。わかりながらも、それに対応できる選手層の厚さがなく、結局やられてしまったのです。
今後は、日本が従来から好む技術的に「うまい」選手だけでなく、短期決戦に勝ち上がるのに必要な「高さ」「パワー」「スピード」に秀でた選手も交えた選手選考が必要です。そして何よりも、日本でよく見られる金太郎あめ的なオールラウンダーを育てるだけでなく、世界に通じる一芸に秀でた選手を育める育成システムの改善が必要だと思います。
(3)経験
「試合の終わらせ方とか、ゲームの運び方といった点で、大きな差があった」と、守備で孤軍奮闘していた吉田麻也が言っていますが、まさにその通りでした。
経験の差はいろいろな面で垣間見られましたが、典型的な例は、最後のコーナーキックの場面かと思います。
おそらく、経験豊富なチームであれば、ロスタイム終了間際のあの場面では、CKを蹴らずに端っこで時間稼ぎのためのプレーをして、延長PKを狙ったでしょう。海外の多くのメディアが、それまでの日本のプレーを褒めながらも、最後に理解し難いミスと指摘している面です。もしくは、たとえ蹴ったとしても、ゴールキーパーが飛び出してキャッチしにくいゴールに向かう軌道を蹴れる右足のキッカーに蹴らせ、かつ後ろにカウンターを防ぐためもっと人数を残していたかと思います。
もちろん、本田圭佑の惜しいフリーキック後のCKゆえ、あれで試合を決めにいったのは、現場にいたのでわかります。しかし、カウンターアタックによる敗退を招く最後のワンプレー(しかもたった9秒)は、稚拙なプレーと言わざるを得ず、まさに経験の差が出た瞬間でした。
思い起こせば、2002年W杯で日本と引き分けたベルギーは、16年かけてそこからはい上がってきました。今回の日本も、アトランタ五輪や2014年W杯での苦い経験が生きた戦いぶりでした。
しかし、ベルギー戦でも明らかですが、差は小さいとも言えますが、その小さな差が、結果に大きな違いを生むのが、短期決戦であるW杯です。
個人的に今回の驚きの選手・昌子源(もう1人は大迫勇也で、他の選手は良くも悪くも予想通り)は、今後吉田麻也とともに日本代表の守りを引っ張っていくと思います。相手ペナルティーエリアから、猛然と駆け戻りながらも、あと一歩が届かず惜敗した苦~い思い出を、彼は決して忘れることはないと思います。
敗退後、グラウンド上で泣きじゃくっていた昌子の姿が印象的でしたが、この「経験」が、彼を、そして日本サッカーを、今後強くしていくのです。

海外移籍が手っ取り早い強化策

上記に挙げた3点「フィジカル」「選手層の厚さを生む多様性に富んだ選手育成」「経験」ですが、様々な取り組み方があります。日本でおのおのが取り組めることは皆さんに任せるとして、手っ取り早い手段の一つは、「海外移籍」です!
今回の日本代表は、今までのW杯で最も海外組が多かったチームです。同じくパワープレーに試合をひっくり返され悔しい思いをした2014年W杯コードジボワール戦では、サブ含めて5人のJリーグ選手(山口、森重真人、遠藤保仁、大久保嘉人、柿谷曜一朗)が出場しました。今回は、昌子と山口のみです。海外組の「経験」と「慣れ」が、大きかったのは間違いありません。
Jリーグは素晴らしい歩みをしているのですが、残念ながら、ベルギー戦で対峙したクルトワ、コンパニー、ルカク、フェライニ、デ・ブライネ、アザールなど世界基準の選手はいません。スター軍団と、国内リーグやチャンピオンズリーグなどで普段から真剣勝負をしている欧州組とJリーグ組で、大きな「経験」の差があるのは自明です。
たとえJリーグの選手が、実力があったとしても、Jでは巡り合わない「想定外」の「スピード、パワー、高さ」にW杯で出くわした際に、まずメンタルをやられて実力が出し切れないのが、通常なのです。この「慣れ」が重なり、「経験」を育むのです。
【木崎伸也】「自分たちのサッカー」の先にある、W杯8強への道
日本で盛んに言われる「戦術」ですが、「戦術」だけで勝てるわけではありません。サッカー大国ブラジルは、おそらくその面では世界的に見ても、遅れているかもしれません。しかし、7大会連続ベスト8進出と、圧倒的な実績を誇ります。そのバックボーンには、「欧州組100人」くらいの「個の力」があります。日本も、「欧州組100人」になった時には、全く違う風景が見られるはずです。
さらには、勉強熱心な日本人選手ですし、語学堪能でリーダーシップもある長谷部誠のような選手が将来欧州で指導者の道を歩めば、鬼に金棒です。まずは、欧州組「選手100人+コーチ10人」を目指しましょう!
「Jリーグが空洞化するのでは?」と危惧される方もいるかもしれませんが、問題ないと思います。ユースと部活がうまく融合した日本の育成世代は、タレントを生み出し続けているので、欧州に多くの選手が出るようになれば、下部組織の選手が出場機会を得られ、世代交代が進み、南米サッカーのように継続的にタレントが出てくるようになるはずです。
さらには、欧州で世界最高峰の経験を積んだ選手やコーチが競技(指導者)生活の晩年にJリーグに戻り、欧州最先端のサッカーを直接持ち帰ることにより、逆に日本サッカーのイノベーションが進むでしょう。
いいことずくめの、欧州組「選手100人+コーチ10人」計画ですが、リーグ、クラブ、指導者、選手、スポンサーなどいろいろな関係者の協力が必要です。じきに立ち上げる私のオンラインサロンでも、少数精鋭の有志を集めて、この欧州組「選手100人+コーチ10人」計画にも、貢献していきたいと思いますので、乞うご期待!

独自のサッカー文化を醸成

最後に、最も大事な点!
日本代表敗退を受けて、「W杯が終わってしまった……」と言っている人を多く見かけますが、それではいけないのです。日本代表だけでなく、サッカー自体も好きになって、もっとサッカーを見ましょう!
日本代表は敗れても、W杯は続いています。日本代表はいませんが、世界最高峰のサッカーを見られるまたとない機会です。
そしてW杯が終われば、日本サッカーを根底から支えるJリーグや部活サッカーを見ましょう! 日本の皆さんが、もっともっとサッカーを見て見識を深め、日本サッカーを叱咤激励しましょう。
もっと多くの皆さんがサッカーを愛し、一億総サッカー評論家みたいな感じで、日本独自のサッカー文化を醸成していくのが、日本サッカーのさらなる発展への一番の近道と信じてやみません!
Go Japan!
頑張れニッポン!
(写真:AFP/アフロ)