日本サッカー永遠の課題「個の力不足」は解消できるのか?

2018/6/19
チャンピオンズリーグ(CL)の仕事に従事してから実に12回目のシーズンを終えて、決勝の地キエフからスイスに戻りました。普段はここでほっと一息なのですが、今年は、待ちに待ったワールドカップ(W杯)2018ロシアが開幕して、休む暇もなくうれしい悲鳴です!
CL決勝で毎回痛感するのは、代表チームであろうとクラブチームであろうと、世界で勝てる強豪チームの、中央縦の重要なライン(フォワード、センターバック、ゴールキーパー)のゴール前での圧倒的な「個の力」です。この原稿を書いている時点で、W杯3日目ですが、W杯でも同様に、強いチームには試合を決められる(特にゴール前の)「個の力」があります。
去年のCLカーディフ決勝では、カテナチオの国イタリアが誇るユベントスの世界有数の守備を、クリスティアーノ・ロナウド(CR7)が見事に打ち破り、レアル・マドリーがCL2連覇という史上初の偉業を達成しました。
今年のCLキエフ決勝では、13年ぶりの優勝を目指して勢いにのっていたリバプール相手に、CR7と並ぶ身体能力を誇る(下手をするとロナウド以上か?)ガレス・ベイルが圧巻のパフォーマンスを見せつけて、レアル・マドリーにCL3連覇の栄冠をもたらしました。
W杯においても、2日目に行われたグループステージ屈指の好カード「スペイン対ポルトガル」で、CR7が圧倒的な「個の力」を見せつけて、相変わらずの流れるようなパスワークを誇る元世界王者スペインの無敵艦隊相手に、引き分けの好勝負を演出。
対するスペインも、試合を決めるゴールを決めたのは、テクニカルなスペインでは異彩を放つパワーFWジエゴ・コスタのゴール前での異次元のフィジカルの強さでした。

「自分たちのサッカー」の限界

日本のメディアでは、ハリルホジッチ電撃解任以降、その件ばかりがフォーカスされているように感じます。ただ、解任騒動で少し論点がずれてしまい、「もっと大事な点が見過ごされているのでは?」と、感じるのです。
メディアにおいては、「今回の件は、協会に問題がある」や「いや、監督のコミュニケーションに問題があった」などなど、さまざまに報道されています。確かに、そういう側面もあるのかもしれません。
しかし、日本サッカーを愛するからこそ、日本サッカーの更なる発展を願う我々が忘れてはいけない現実は、「協会や監督のみが理由で、日本代表が弱いわけではない」ということです(現在、FIFAランキング61位ですから、もしW杯がランキング上位32チームで行われる大会であれば、W杯に出場すらできない、というのが世界のサッカー界における現在位置です。しかも、ランキングは下降傾向にあり、61位は過去最低なのです……)。
日本が世界的に見てまだまだ弱い大きな理由の一つは、サッカーの根本である1対1の「個の力」が攻めも守りも弱いから、だと思うのです。
2014W杯時に、日本代表がひそかにモデルとしていたであろうティキ・タカのFCバルセロナも、上手にパスをつなげるから世界で勝てるわけではありません。攻めのメッシやスアレス、守りのピケなどが「個の力」で、得点するもしくは失点を許さないから、勝てるのです。
日本的に好まれる技術の高い選手をそろえパスサッカーの頂点に立つスペインですら、CR7という圧倒的な「個の力」の前には、大事なW杯初戦で引き分け。2014年W杯時にメディアでもてはやされた「日本らしいサッカー」などという幻想を追いかけて、サッカーの根本である「1対1の戦い」をなおざりにしていては、いつまでたっても厳しい世界のサッカーでは勝てないと思うのです。
W杯開幕前に、ルガノでのスイスとの親善試合を見に行きました。電撃監督解任で、チームとしてゼロからのスタートで難しい部分はあるにせよ、「個の力」、特にゴール前の「個の力」が弱いのが明白でした……。弱冠21歳のスイス代表ブレール・エンボロに酒井高徳が右サイドで振り切られ、ペナルティーエリアで対応しきれなかった吉田麻也が足を引っかける反則でペナルティーキックを取られたシーンなどは、象徴的でした。
電撃監督解任があろうとなかろうと関係なく、スペイン代表セルヒオ・ラモスやピケくらいのレベルの守備の選手が日本代表にいれば、本気ではないスイス代表相手ですし、失点を許すことはなかったでしょう。同じく、全く得点の気配のなかった攻撃ですが、ポーランド代表レバンドフスキ、コロンビア代表ハメス・ロドリゲス、CR7などがいたら、1点くらいは入れているのではないでしょうか?
あえて極論すると、試合を決めるゴール前の「個の力」が弱いと、高いレベルでは勝てない。あのFCバルセロナだって、メッシ抜きでは、得点するのはかなり厳しいですから……。2014年W杯時にはやった「自分たちのサッカー」とやらで、ゴールから遠いところでいくらパスを回しても、厳しい世界のサッカーという「戦い」には勝てないのです。

新タイプの日本人選手たち

今回の電撃監督解任の原因に関しては、監督側、選手側、協会側で異なる見方があるようですし、W杯終了後に、当然検証するべきだと思います。
しかし、今回の監督解任にとらわれすぎて、日本が強くなれない大きな理由の一つである「個の力不足」の改善を、より真剣に議論することを忘れてはいけないと思うのです。
電撃監督解任騒動の陰に隠れてしまった感がありますが、世界の厳しい「戦い」で勝てる「個の力」の育成は、日本サッカーが以前から抱える、とても重要かつ長期的に取り組まなければいけない課題なのです。
「個の力」の話をすると、「日本人はフィジカルが弱いから無理」という、以前からまことしやかに言われている定説(?)を持ち出す人もいますが、もはやあまりとらわれるべきではないでしょう。なにせ、身体能力モンスターが集うアメリカの大リーグで、圧倒的な「個の力」を披露してアメリカを席巻しているのは、日本人なのですから。大谷翔平のような怪物を、日本サッカーでも輩出すればいいのです。
また、日本の国際化が進む(何と年間移民受け入れ数世界第4位です!=「西日本新聞」電子版参照)なか国際結婚も増えて、大リーグのダルビッシュ有やテニスの大坂なおみなど、従来の日本人アスリートの域を超えたタレントも続々と生まれているのです!
The future is bright!
どうすれば「個の力」を向上させられるか、日本サッカーに関わるみなさん、総力を挙げて取り組んでいきましょう!
最後に、「個の力」に関しては、W杯中、いったんブラインドアイをして、日本代表の躍進を心より祈っております!
頑張れ日本!
Go Japan!
(写真:新華社/アフロ)