米国では精神的障害に苦しむ人が増加しているが、治療を受けている人はごくわずかだ。苦しむ人たちを助けようと努力するスタートアップを紹介しよう。

「あなたはひとりではない」

メンタルヘルス関連の専門家や起業家は、不安障害やうつ病で苦しむ人たちに対して、あるメッセージを伝えたいと思っている。「あなたはひとりではない」というメッセージだ。
2018年の現在、このメッセージは特に現実味を帯びて聞こえる。6月にはファッションデザイナーで起業家のケイト・スペードと、有名シェフであるアンソニー・ボーディンの悲報が相次いで届き、精神的障害という全体的な問題がにわかに注目を集めた。
両者とも、死因は自殺と報じられている。スペードの夫であるアンディー・スペードによれば、スペードは長くうつ病に苦しんでいたという。スペードは55歳、ボーディンは61歳だった。
米国立衛生研究所によれば、米国の成人の約18%が何らかの精神的障害を患っており、それにもかかわらず、ごく一部の人しか必要な治療あるいは効果が期待できる治療を受けていないという。そして、多くのテクノロジー企業がこの問題に取り組もうとしている。
あらかじめお断わりしておくと、最善の治療法は、まずは免許を持つ専門家に相談することだ。
専門家に相談できないとき、あるいはピンチのときのため、不安障害やうつ病などの精神障害に苦しむ人を助けようと努力している7つのスタートアップを以下に紹介する。もちろん、今すぐ助けがほしいときは「全米自殺予防ライフライン」に電話してほしい。

1. カルテット・ヘルス

カルテット・ヘルス(Quartet Health)は、ビッグデータ解析のパランティア・テクノロジーズ出身のアルン・ギュプタとスティーブ・シュルマンが2014年に立ち上げたニューヨークのスタートアップ。
精神的障害の可能性がある人を機械学習で特定し、患者と総合診療医、行動療法の専門家を結び、患者に合った治療計画を立てる。
「米国民の健康状態を改善するには、総合診療医と行動療法の専門家が連携しなければならない」とギュプタは話す。「テクノロジーが先頭に立ち、心の健康と体の健康の懸け橋をつくろうとしている」
すでに複数の保険会社と提携しており、ポラリス・パートナーズ(Polaris Partners)や最近ではGVから、合わせて9200万ドルの出資を受けている。

2. ドットコム・セラピー

2018年、Inc.の「30アンダー30」を受賞したエミリー・パードムとレイチェル・ロビンソンは、2015年にドットコム・セラピー(DotCom Therapy)のアイデアを思いついた。同社はミズーリ州に本社を置くスタートアップで、ヘルスケアにユニークなアプローチを取り入れている。
7カ国に散らばる28の学校と提携し、言語療法や作業療法、精神医療、聴覚医療を提供。約90人のセラピストが待機し、患者とセラピストをラップトップでつないでいる。セッション料金は15分30ドルからだ。
創業者のひとりであるロビンソンは最近、Inc.のインタビューで「今やすべての人がラップトップやタブレット、スマートフォンを持っている。歴史を振り返っても、人々がこれほどつながっている時代はなかった」と述べている。
「シカゴのダウンタウンに住んでいても、アラスカ州の辺境に暮らしていても、皆がこのテクノロジーにアクセスする手段を持っているということだ」
友人や家族から少額の出資は受けているものの、基本的に自己資金で経営している。2017年の売り上げは200万ドル。

3. トークスペース

オリンピックで活躍した水泳選手のマイケル・フェルプスは2014年、キャリアの絶頂期にありながら、重度のうつ状態になり、自殺を考えていた。
「5日間も部屋から出ることができなかった」と同氏は振り返る。「まだ生きたいのかと自問していた」。フェルプスによれば、あるセラピストと出会い、正面から問題に向き合うことができるようになったという。
フェルプスは5月、トークスペース(Talkspace)と手を組み、精神的障害に対する人々の意識を高めるための活動を開始した。
トークスペースは、ウェブサイトやモバイルアプリを介して、免許を持つセラピストとユーザーをつないでいる。料金プランは1セッション32ドルからだ。オレン・フランクとロニ・フランクが2012年に立ち上げたスタートアップで、すでに50万人以上の患者がセラピーを受けているという。

4. ジョイアブル

ジョイアブル(Joyable)は「社会不安を乗り越えるためのオンラインソリューション」のリーダーを自称するサンフランシスコのスタートアップ。時間に縛られている人々を助けたいと考え、5~10分間の短いアクティビティができるアプリを提供している。
具体的には、今この瞬間の気持ちを確認したり、「個人的な価値観」を分析したり、といったアクティビティだ。個人プランは月額99ドルで、担当コーチによるチェックなど、ガイド付きのセラピーが8~12週続けられる。
こうした活動の原型になっているのは認知行動療法と呼ばれる心理療法で、十分に研究され、高く評価されている。2013年創業で、1500万ドル超の資金を調達。ユーザー数は50万人に達しているという。

5. ランタン

ランタン(Lantern)は、ストレスや不安、身体イメージの問題に苦しむ人々を助けるためのアプリを提供。従来の心理療法の代替手段というよりは補完手段に近いと述べており、免許を持つ専門家による定期的なチェックを受けることができる。
料金は、月額約49ドルまたは年額300ドル。アプリを保険の対象とし、従業員の特典として配布してもらうため、企業経営者との提携を模索している。2012年、アレハンドロ・フォンとニコラス・ルトーノーがサンフランシスコで創業。これまでに2000万ドル以上の資金を調達している。

6. リムビックス

カリフォルニア州パロアルトに本社を置くリムビックス(Limbix)は、よくあるバーチャルリアリティー(VR)関連スタートアップではない。いわゆる「暴露療法」に使用するソフトウェアを開発しており、患者が恐怖を克服するための手助けとして、ストレスを感じる状況やトラウマを誘発する状況をVRで再現している。
共同創業者でもあるベンジャミン・ルイスCEOは、グーグルのプロジェクトマネージャーだった経歴を持ち、2016年、トニー・シェイ(ザッポスCEO)とともに会社を立ち上げた。セコイア・キャピタルなどから300万ドル超の出資を受けており、20年以上の研究と臨床試験に基づいたサービスを提供している。

7. ウォーボット

ウォーボット(Woebot)は、うつ病や不安障害に苦しむ人のセラピー・チャットボットとして機能する人工知能(AI)アプリを提供。ジョイアブルと同様、認知行動療法の原則に基づいており、ストレスを克服するためのツールやテクニックをその場で提案する。
スタンフォード大学の臨床心理士アリソン・ダーシーと研究者チームが2017年に創業。アプリの料金は月額39ドルだ。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Zoe Henry/Staff writer, Inc.、翻訳:米井香織/ガリレオ、写真:rasslava/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.