科学書や詩集、ビジネス書に伝記

おそらく読者のみなさんはすでに、夏の旅先についていろいろと思い浮かべ始めていることだろう。旅先で何をして、何を食べるかを決めている人もいると思われるが、読書リストの準備は整っているだろうか。
もしまだであれば、「TED」に注目してみてほしい。「TED Ideas」のブログでは最近、詩人から物理学者、創業者にいたる過去の講演者たちに、夏に読みたい本を質問した。
この調査結果を見れば、88冊の膨大なリストから、ビーチバッグや機内用バッグに詰め込みたい本を選ぶことができる。実に多彩で魅力的なリストなので、皆さんの想像力をかき立てる一冊が必ず見つかるはずだ。ここでは、その中から20冊を紹介しよう。
1.『How Emotions Are Made: The Secret Life of the Brain』リサ・フェルドマン・バレット著
理論物理学者のシモン・ビアンコは「TEDのイベントで著者と会う機会に恵まれ、言葉を交わすことができた」と振り返る。
「われわれの感情や脳が感情をどのようにつくり出すかについてはさまざまな通説が存在するが、彼女の本はそれらを解説し、最終的に誤りであることを証明している。人を見るだけで心を『読む』ことができると考えているすべての人に強くおすすめしたい一冊だ」
2.『暮らしの哲学 : やったら楽しい101題』ロジェ・ポル・ドロワ著(邦訳:ソニー・マガジンズ)
マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボの研究者レベッカ・クラインバーガーは「ドロワ氏はフランスの偉大な哲学者であり、この本の英語版が出版されたときはとてもうれしかった」と語る。
「親友への贈り物にするため、いつも自宅に何冊か置いてある。脳で起きている無意識の意外なプロセスを発見するための、とてもシンプルな実験が紹介されている」
3.『A Lucky Man』ジャメル・ブリンクリー著
詩人のフェリーチェ・ベルと作家のジェニファー・マーフィーは、ブリンクリーのデビュー作であるこの短編集を推薦している。
この本は「黒人の男性や少年のさまざまな恋愛を描いている」とベルは説明する。「ブリンクリーの散文は詩的かつ劇的だ。それぞれの短編が豊かな世界観を持っている」。マーフィーも「とても魅力的」で「胸が締めつけられる」一冊と評価している。
4.『コレラの時代の愛』ガブリエル・ガルシア・マルケス著(邦訳:新潮社)
ナイジェリア出身のアーティスト、イケ・ウデはコロンビアの偉大な作家によるこの傑作小説を推薦している。
「マルケスがこの本で描いている幻想的で魅惑的な現実は、ある意味、不気味に感じるくらいアフリカ的だ」。読み始めたら、間違いなく夢中になるだろう。
5.『ささやかで大きな嘘』リアーン・モリアーティ著(邦訳:東京創元社)
読みだしたら止まらない本を探しているなら、睡眠研究者のウェンディ・トロクセルがこの小説を提案している。
「これはひそかに好きな一冊で、夏の読書にぴったりだと思う。たとえ同じくらい素晴らしいHBOのドラマ版を見たことがあっても、登場人物やストーリー展開、ミステリーに魅了され、一気に読み終えてしまうだろう。現実逃避にぴったりの一冊だ」
6.『Catalog of Unabashed Gratitude』ロス・ゲイ著
詩が好きな人におすすめの一冊で、こちらも2人が推薦している。
ジャーナリストのドリュー・フィルプは「間違いなく、この10年で最高の詩集のひとつ。そしてもちろん、最も美しい詩集のひとつだ」と評価。作家のヘザー・ラニエは「生きることに喜びを感じられるような長編詩が詰まった一冊」と述べている。
夏の読書にこれ以上望むことがあるだろうか。
7.『Do Not Say We Have Nothing』マドリン・ティエン著
教育改革に取り組むシーマ・バンスールは「中国は無視できない国だ」と言う。この本を読めば、中国を違った角度から見ることができるだろう。
「この小説は読者を70~80年前へと導き、現在までの激動の歴史を見せてくれる」とバンスールは説明している。「中国がどのようにして現在のような国になったかをのぞき見ることができる魅力的な一冊だ」
8.『Tranny: Confessions of Punk Rock's Most Infamous Anarchist Sellout』ローラ・ジェイン・グレイス著(ダン・オジとの共著)
白人至上主義者から過激主義対策の専門家に転身したクリスチャン・ピッチオリーニは、人気パンクバンド「AGAINST ME!」のミュージシャンが書いたこの本についてこう述べている。
「ロックスターとしての不品行を振り返る素晴らしい自伝であるだけでなく、自身の不安やロックスターというほろ苦い存在について率直に語っている。性別に対する違和感、愛、喪失、成功、失敗について、魅力的な言葉でつづられている。股間を蹴られ、心臓をわしづかみされたような気持ちになるはずだ」
9.『Quantum Entanglement for Babies(Baby University)』クリス・フェリー著
夏のうちにちょっと賢くなりたいとは思うものの、太陽の光を浴び過ぎている脳を酷使したくはないと思っている読者もいるだろう。 暗号技術の専門家ビクラム・シャルマは、この本について以下のように述べている。
「最も複雑で直感に反した科学的概念のひとつを、驚くほどシンプルで視覚的に説明している。子ども向けの楽しい本だが、子どもでなくても同じくらい楽しむことができるはずだ」
10.『リーゼ・マイトナー : 嵐の時代を生き抜いた女性科学者』ルース・レウィン・サイム著(邦訳:シュプリンガー・フェアラーク東京)
科学とフェミニズムに関心がある人におすすめの一冊だ。放射線科学者のデイビッド・ブレナーは「マイトナーは核分裂を発見したひとりだが、本当に驚くことに共同発見者のオットー・ハーンとフリッツ・シュトラスマンだけがノーベル賞を受賞した」と説明している。
この本は「1930年代までドイツ、ベルリンで研究を行っていたユダヤ人女性の科学者が、世界の仕組みに関するわれわれの知識にどれほど貢献したか」を伝えている。
11.『闇の左手』アーシュラ・K・ル・グィン著(邦訳:早川書房)
この傑作は、フェミニズムとSFの相性が良いことを証明している。デザイナーのラファエル・アラーはこう述べる。「自分はちょうど、この本を再び読んでいる最中だ。新しい作品ではないが、過去に読んだときよりも身近に感じられる」
「ル・グィンは、性別が存在しない世界を描いている。二進法も連続体も存在しない世界だ。インクルージョンの問題が重要視されている今、この小説は人を引きつける好奇心を呼び起こす語り口で、この問題にアプローチしている」
12.『A Door Into Ocean』ジョーン・スロンチェフスキ著
こちらもSF作品で、推薦者はデザイナーのモリー・ウィンターだ。「この本は、同じ著者による『Elysium Cycle』シリーズのほかの4冊とともに、私の夏の読書リストに入っている」
「世界の構築をテーマにしたSFで、オルタナティブな政治構造や人工知能(AI)、人魚が出てくる。最初の30ページは、地上が舞台。ここを読み終えれば、とても幻想的な異世界へと続く素晴らしい物語が待っている」
13.『やり抜く力 : 人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』アンジェラ・ダックワース著(邦訳:ダイヤモンド社)
トライアスロン選手のミンダ・デントラーはこの本について「やり抜く力」という概念を掘り下げた「説得力のある面白い」一冊と説明している。
「心の深いところに響いた。自分もやり抜く力を持っていると感じるからだ。この本を読み、私が競技や仕事、人生で成功できたのは、不屈の決意で努力し続けてきたためだとわかった。私は決して、スピードにも才能にも恵まれていない。自分の娘にも、やり抜く力を持つよう教えたい」
14.『Shinrin Yoku: The Japanese Art of Forest Bathing』宮崎良文 著
この本を読んだら、夏の旅先を森に変えたくなるかもしれない。環境起業家のシュベンデュ・シャルマは「日本の森の美しい写真とともに、森が持つ癒やしの力について語っている」と説明している。
「著者は科学研究をもとに、われわれが抱える日常問題の多くは森によって癒やすことができると論じている」
15.『Powerful: Building a Culture of Freedom and Responsibility』パティ・マッコード著
起業家のジェイソン・シェンはこう述べる。「著者のマッコード氏はネットフリックスの人事責任者を長年務め、伝説的な文書『Netflix Culture Deck』の執筆にもかかわっている。そのマッコード氏が、伝統的な人事慣行に反旗をひるがえす痛烈な論文を書いた」
「短くてわかりやすい章もいくつかあり、高い報酬を支払うこと、最高評価を得られなかった者を解雇すること、従業員に経営の研修を受けさせることで、ネットフリックスがメディア/テクノロジー企業として世界的な成功を収めたことが説明されている」
16.『サルたちの狂宴──シリコンバレー修業篇』アントニオ・ガルシア・マルティネス著(邦訳:早川書房)
「スタートアップの国」で生きること、働くことはどのようなものなのか、この本が教えてくれる。起業家のタソス・フランツォラスは「この本には、シリコンバレーのクールな秘話が詰め込まれている。とても参考になるものや愉快なものもあれば、本当にばかげたものもある」と述べている。
「著者はフェイスブックで働き、Yコンビネータの支援を受け、ツイッターに会社を売却した。シリコンバレーや広告技術、スタートアップの浮き沈みについて、面白おかしく書かれた一冊だ」
17.『Automating Inequality: How High-Tech Tools Profile, Police, and Punish the Poor』バージニア・ユーバンクス著
ビーチの陽気な雰囲気に似合う本ではないが、興味をそそられることは間違いない。
コミュニティー・オーガナイザーのエリカ・ストーンは「信用度や保険の自己負担額など、われわれが愛用しているテクノロジーやデジタル意思決定システムの負の側面に焦点を当てた一冊」と説明している。
18.『6度目の大絶滅』エリザベス・コルバート著(邦訳:NHK出版)
こちらの本も暗い内容だが、とても重要なテーマを取り上げている。
創業者のビベク・マルはこう問いかける。「知っていただろうか。大量絶滅は過去5億年で5度しか起きておらず、最後に起きたのは6600万年前、小惑星が地球に衝突したときだ。そして、われわれ人類が6度目の大量絶滅を引き起こそうとしている」
この本を読めば、この恐ろしい事実の詳細がわかる(バラク・オバマも米大統領だった当時、この本を夏の読書に推薦していた)。
19.『愛への帰還──光への道「奇跡の学習コース」』マリアン ウイリアムソン著(邦訳:太陽出版)
自己啓発が好きな人におすすめの本もある。平和活動家のアジム・カミサは「大ヒットしたスピリチュアルガイドの新版。愛によって心の平和を探求するための洞察が記されている」と述べている。
「心の痛みの原因が、人間関係であれ、仕事であれ、健康であれ、愛には強大な力があるということを彼女は示している」
20.『スーパーインテリジェンス 超絶AIと人類の命運』ニック・ボストロム著(邦訳:日本経済新聞出版社)
最後に、AIの世界で何が起きているかを理解するために夏休みを使いたい人がいたら、この本を読んでみるといい。天文学者のナターシャ・ハーリー - ウォーカーはこう述べている。
「人類史上最も重要で困難な問題について論じた大作。その問題とは、われわれ人間より優れた知能をどのようにコントロールするか、そして何より手遅れになる前に問題を解決できるかだ」
原文はこちら(英語)。
(執筆:Jessica Stillman/Contributor, Inc.com、翻訳:米井香織/ガリレオ、写真:spukkato/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.