INDEX
「AIソーラーパネル」がアフリカのスマホを充電する
Bloomberg Businessweek
2018/06/21
サハラ以南のアフリカでは、自家発電が可能な世帯は半分程度で、銀行口座を持っている人はまれという国も少なくない。それでも、ほとんどの人は何らかの形の携帯電話を持っている。それは最新のコモディティー価格など、農村では入手がむずかしい情報をもたらしてくれる。
のどかな草原で家畜の世話をする伝統的な部族も、ワッツアップでチャットをしていたり、送金アプリを使ったりしている。問題は、送電線網が十分整備されていない地域で、どうやって毎日携帯電話を充電するかだ。
アフリカでは、発電機(非常に原始的なモデルの場合も多い)の動力となる灯油やたきぎを確保するために、年間170億ドル以上が費やされている。だが、イギリスの起業家サイモン・ブランスフィールドガースは、もっとクリーンで、もっとスマートな方法があると言う。
ブランスフィールドガースが立ち上げたアズリ・テクノロジーズ社は、東アフリカ諸国とナイジェリアを中心に12カ国15万人に太陽光発電システム「ホームスマート」を提供してきた。
一般に、太陽電池では一晩中電力を供給し続けるのがむずかしいとされるが、「ホームスマート」は人工知能(AI)ソフトウエアを使って、各家庭の電力需要を学習し、太陽電池の出力を調整することができる。
たとえば、電灯やテレビの画面を自動的に暗くしたり、スピーカーの音量を下げたり、送風機の回転速度を落としたりする。
「最大限の電力を供給して短時間でストップしてしまうシステムではなく、各家庭の生活パターンにあった電気量を提供する」と、ブランスフィールドガースは語る。
アズリでは、リース期間満了時にソーラーシステムを買い取れるプランも提供している。分割払いの方法も毎月あるいは毎週など選択可能だ。ほとんどのユーザーは、週約3ドルを1年半支払うプランを選ぶ。灯油を使っていたときの燃料費の約半分だ。
「ホームスマート」はセットアップも簡単だ。発電量5ワットのソーラーパネルを屋根に設置し、蓄電池は屋内の壁に設置する。基本セットにはLED電球2個とUSBポート1個(携帯端末の充電用)がついてくる。ラジオやテレビを追加できるプランもある。
ホームスマートのAIソフトは、アフリカで提供されている他社のソーラーパネルと大きく異なる要素だと、英調査会社ウッドマッケンジーのアナリスト、ベンジャミン・アティアは語る。
このAIソフトは、ユーザーが一晩で必要とする電気量に基づき供給ターゲットを設定するほか、実際の使用パターンに基づきその予測を修正する。それに灯油と違って「やけどや煙の心配もない」と、タンザニアのングリャト村でホームスマートを使っているルシアは言う。
アズリは、英IPグループなどから1800万ドルの資金調達に成功。売上高はこの2年で倍増したという。
ブランスフィールドガースが、AIニューラルネットワークの研究を始めたのは1980年代のこと。その後、半導体や家電の研究を経て、再生可能エネルギーの世界に魅せられた。
まず、ソーラーパネルを作るエイト19社を立ち上げ、さらに2年にわたり蓄電池を開発し、センサーとパネルでユーザーの生活パターンを予想するシステムを考案して、2012年にエイト19からアズリをスピンアウトした。
たとえばホームスマートのソフトは、日照時間に基づき、日の出と日の入り、パネル設置場所の緯度経度、そして季節を計算できる。ホームスマートを初めてナイロビ郊外の家に設置したときのことを、ブランスフィールドガースはよく覚えている。
「夜10時になってもその一角では電気がついているのを見た人たちが、2日後には行列を作って見物に来た。最初は信じられないという目で見ていたのが、興奮に変わり、ちょっとしたお祭り騒ぎになる。そして半年後には、それが『普通』になっている」
東アフリカ諸国では6年前、ソーラーパネルを使用している世帯はほとんどなかった。それが今は50万世帯にものぼる。
好調な売り上げのおかげで、アズリはコストをカバーして、インセンティブを提供できるまでになった。同社の社員は約80人で、アフリカ全土に営業・マーケティングパートナーが約2000人のいるという。設置とメンテナンスが無料であることも、ユーザー維持と口コミ人気につながっている。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Adam Popescu記者、翻訳:藤原朝子、©2018 Bloomberg L.P)
©2018 Bloomberg L.P
This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.
コメント
注目のコメント
新興国ではスタートアップはリアルな社会プロブレムを解決し、それがビジネスになっているべき、その教科書のような事例。
ただしこの技術は何ら目新しいものはなく、営業力、エクセキューション能力です。エージェント・インセンティブ方式は新興国ビジネスの基本、それもまた教科書通り。以前、別記事で以下のようにコメントしていましたが、確かにAI等を活用し、電力使用量の予測まで含めて対応しているのは初耳でした。奥深く、社会インパクトの大きさを感じる内容です。
再掲
アフリカでは「ユーザーは、電力等のインフラが整っていない地域で、太陽光パネル付きの照明、携帯充電器、家電(ラジオ、TV)等一体システムを短期払(前払いケースも)で使用。事業者は支払が滞れば、遠隔で使用を停止可能」
というビジネスが隆盛しています。ちょうど、コートジボワール往訪時に、現地の友人(ガーナでも勤務)が働くアフリカのスタートアップ(PEG Africa)の話を聞いたところでした。
http://afri-quest.com/archives/13336
さらに、アフリカの事例では、銀行口座を持たない方がマジョリティの国もある中で、モバイル口座・決済(携帯×プリペイドカードのイメージ。街中にある電話BOXみたいなところで、現金を支払えば、モバイルで口座を持てる≠銀行口座不要)という金融の仕組みを活用していることも特筆に値します。
このオフグリッド業界の大手である、M-COPAに最近、三井物産が出資したことでも有名になっています。
http://afri-quest.com/archives/14856