[東京 19日 ロイター] - 世界的な株安が再び進んでいるが、前回リスクオフが強まった2月とは様相が異なる。当時は景気の過熱を警戒して金利が上昇し、株安要因となったが、今回は金利が低下するなかでの株安だ。投資家が懸念するのは貿易戦争であり、業績悪化懸念の浮上による株安は、2月より深刻かもしれない。

<低下する長期金利>

世界的に長期金利が低下している。米連邦準備理事会(FRB)が13日に今年2度目の利上げを決めた後も、10年物米国債<US10YT=RR>はじりじりと低下。ドイツなど欧州の長期金利も、ここのところ低下が目立ってきた。

2月に世界で同時株安が起きたときは、世界的に金利が上昇していた。減税効果が期待できる米国経済がけん引する形で、賃金が上昇、インフレが進むとの期待があった。景気過熱への警戒感が高まるなか金利が上昇、金融緩和相場の逆回転を引き起こした。

今回、金利は低下している。その面では2月よりも状況は悪くない。しかし、足元の金利低下の要因は貿易戦争であり、企業業績の悪化懸念だ。「その意味で株式市場の状況は、2月よりも悪いかもしれない」(国内投信)という。

足元の米景気は悪くない。1─3月期は減速したが、4─6月期は年率4%近い成長が見込まれている。「その中での金利低下はやはり、貿易戦争による景気悪化への懸念だろう。貿易戦争に勝者はいない。米国の独り勝ちはありえない」とパインブリッジ・インベストメンツ債券運用部長の松川忠氏は指摘する。

<世界経済に暗雲>

貿易戦争は、投資家が最も恐れる事態だ。

トランプ米大統領は18日、2000億ドル規模の中国製品に対し10%の追加関税を課すと警告した。すぐさま中国は断固として反撃すると表明、「質的かつ量的な」措置を講じると発表した。

すでに米中は互いに500億ドルの輸入関税を課すことが決定していたが、その4倍にあたる大規模な報復措置に、19日の金融市場は一気にリスクオフムードを強め、世界的な株安が進行。資源国などの新興国通貨も大きく下落した。

貿易はリスクオン相場を支えてきた大きな原動力だった。オランダ経済政策分析局によると、2017年の世界貿易量の伸び率は4.5%。16年の3.0%だけでなく、金融危機後の6年間の平均である2.3%を大きく上回った。

「米国第一主義」を掲げるトランプ大統領の就任で、保護主義への懸念が台頭したものの、投資家の懸念は杞憂に終わっていた。だが、貿易戦争が本格化するなか「今度こそ貿易量の減少を心配しないといけないかもしれない」(三菱東京UFJ銀行・シニアマーケットエコノミストの鈴木敏之氏)という。

トランプ大統領は中国だけでなく、カナダやEU(欧州連合)などに対しても強硬姿勢を崩していない。さらにこの貿易戦争が、世界のサプライチェーンにどのような影響をもたらすのか、まだ全貌が見えないことも投資家の不安を強めている。

<日本に「漁夫の利」はあるか>

市場では、米中の貿易摩擦で、日本が「漁夫の利」を得るかもしれないとの期待も出ている。高い関税をかけられた自動車や日用品などで、日本からの輸出が増える可能性もあるという。

しかし、19日の日経平均<.N225>は401円安。ツガミ<6101.T>やコマツ<6301.T>など工作機械株や建設機械株などの好業績株の多くが、年初来安値を付けた。日本にとって最大の貿易相手国である中国の景気が冷え込めば、経済や業績への影響は小さくない。

19日の上海総合指数<.SSEC>は、16年9月以来となる3000ポイント割れとなった。市場では「中国政府は人為的に大台を割らせないようにしてきたとの見方が根強い。それを割ってきたということは、一段の下振れがあるかもしれない」(国内証券)との警戒感が強くなっている。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券の投資情報部長、藤戸則弘氏は「今は中国が米国の攻撃対象だが、今後、日本が当事者になる可能性も大きい」と指摘。茂木敏充経済再生担当相とライトハイザー米通商代表部(USTR)代表との間で7月に始まる「日米通商協議」が注目されると述べている。

(伊賀大記 編集:田巻一彦)