マーク・キューバンがこの夏、新たな知識を得るために読むという本5冊をご紹介する。

行動経済学から物理学、政治まで

実業家のマーク・キューバンは、どこに行っても人気者だ。テレビ番組『Shark Tank』(米国版「マネーの虎」)の出演者としても知られるキューバンは、イーロン・マスクに対抗できそうな製品に投資したり、ミレニアル世代の起業家に対して厳しくも愛のある助言を与えたりと、その知恵は枯れることのない泉のようだ。
しかし、彼はけっして恵まれた境遇に生まれたわけではない。最初に100万ドルの資産を築くことができたのは、1冊の本を読んだおかげだとキューバンは語っている。世界で指折りの実業家の多くがそうであるように、キューバンは研ぎ澄まされた頭脳を保つために読書を大切にしている。
そんなキューバンがCNBCの取材に対し、今年の夏の読書リストに挙げたのが、以下に紹介する5冊だ。どれも脳が鍛えられる内容であり、ビーチに寝そべって気軽に読める本ではない。ビリオネアになること、そしてその地位を維持することは簡単ではないのだ。

1.『かくて行動経済学は生まれり』マイケル・ルイス著(邦訳:文藝春秋)

現在の行動経済学は、ダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーの存在を抜きに語ることはできない。本書は、友情に結ばれ、ともに行動経済学というひとつの分野の誕生に寄与した2人の真実をつづる1冊だ。彼らの理論、研究、論文は、金融からプロスポーツまで、あらゆる分野に幅広い影響をもたらしている。
イスラエル出身の心理学者カーネマンとトベルスキーは40年前、人間の心の動きについての研究を開始した。ともにイスラエル軍に在籍経験があり、そのことが研究の土台を作った。
社交的で大胆なトベルスキーに対し、無口で自分に厳しいカーネマン。性格がまったく違う2人だったが、研究では緊密な協力関係を築き、あまりに緊密すぎて、何がどちらのアイデアかわからなくなるほどだった。
共著した学術論文では、筆頭著者の座を交代で分け合った。2人は研究者として、また論文の共著者として、人間の非合理性や人間が自分の脳にだまされる仕組みを探求した。
本書の著者は『マネー・ボール』(邦訳:早川書房)でも知られるマイケル・ルイスだ。
『ニューヨーク・タイムズ』紙のコラムニスト、デビッド・レオンハルトは本書のレビュー記事で「ルイスの本は笑わせてくれる」と述べている。「主人公たちの描き方が立体的だ。すこぶる好ましく、けれど欠点もあって、われわれの友人や家族によく似ている」

2.『数学的な宇宙 究極の実在の姿を求めて』マックス・テグマーク著(邦訳:講談社)

著者のマックス・テグマークは、マサチューセッツ工科大学(MIT)教授で、理論物理学の世界的権威だ。
本書でテグマークは読者を、物理学、天文学、数学を探求する壮大な旅へと誘う。天体物理学や量子力学について理解したい人にはうってつけの1冊といえる。また、少々ラディカルな研究者でもあるテグマークは、われわれの物理的世界は数学によって記述できるだけでなく、この世界そのものが数学だと考えている。
アマゾンのレビュアー「Clyde」は「読んでいると時々頭が痛くなると思うが、それは脳細胞が新しい情報を取り込むために成長しなくてはならないからだ」と本書を評している。
そう聞いて、全432ページのこの本を読む気が失せたという人もいるかもしれないが、安心してほしい。YouTubeに行けば、テグマーク自身が本書のテーマを45分で解説してくれる動画がある。

3.『Political Tribes: Group Instinct and the Fate of Nations』エイミー・チュア著

キューバンが2020年の大統領選に出馬するかもしれないとの噂がある。イェール大学ロースクールのエイミー・チュア教授によるこの近著を今夏の読書リストに入れたことは、噂をさらに過熱させるものだ。
2018年初めに出版された『Political Tribes: Group Instinct and the Fate of Nations』(政治的部族:集団の本能と諸国家の運命)は、部族主義に対する米国人の感覚が、国内政策と外交政策においていかに分裂を引き起こしているかを探る。
チュア教授は、世界の複数の対立問題に対して米国がとった外交政策のアプローチを検証する。国内に対立が生じたベトナム、アフガニスタン、イラクの歴史を簡潔に紹介し、それらに対する米国の外交政策アプローチが、いかに部族政治の存在を見落としたものであるかを明らかにする。
さらに本書は、集団思考と、それが米国人の政治的アイデンティティに及ぼす影響を論じている。米国人は、たとえば資本主義と共産主義など、異なる「部族」どうしを対立させがちだ。
本書は、文化と部族主義が米国人のアイデンティティを形成していること、そしてそれが事態を非常に間違った方向へ導くおそれがあることを論じている。

4.『That's What She Said: What Men Need to Know (and Women Need to Tell Them) About Working Together』ジョアン・リップマン著

「#MeToo」ムーブメントが大きな盛り上がりをみせているさなかに刊行された『That's What She Said: What Men Need to Know (and Women Need to Tell Them) About Working Together』(さっき彼女が言いましたよ:ともに働くことについて男性が知っておくべき〔そして女性が男性に話すべき〕こと)は、職場における男女平等の前進を目指した本だ。
女性の同僚に言ってよいことと悪いことがよくわからないという男性は、この本を読むといいだろう。この本はいわば、男性に適切な振る舞いを教えてくれるハンドブックだ。
著者のジョアン・リップマンは『USAトゥデイ』紙とUSAトゥデイ・ネットワークの編集長を務めた人物で、両社を所有するメディア大手ガネットの最高コンテンツ責任者だ。
本書でリップマンは、キャリアを築く過程で自身が体験したエピソードを明かし、世の中に広く浸透している思い込みを一蹴する。そして、全編にわたり、読者を飽きさせないさまざまなストーリーをつづりながら、当の女性たちさえもが守り続けている一部の文化規範を指摘している。
さらに本書は、この問題に関する無視できない事実や研究成果も取り上げている。リップマンが明確にするのは、女性にとっての平等が、女性だけでなく男性にも利益をもたらすということだ。そうした利益には、さらなる経済的発展が含まれる。
キューバンがこの本を夏の読書リストに入れたのは賢明だ。彼のような影響力の強い人物は、こうした問題に光を当てる大きな力を持っている。

5.『The Great Revolt: Inside the Populist Coalition Reshaping American Politics』サリーナ・ジート、ブラッド・トッド著

2016年の米大統領選では、事前の世論調査がなぜあれほど結果と異なっていたのだろうか。CNNのコントリビューターで政治ジャーナリストのサリーナ・ジートと、米共和党のコンサルタント兼ストラテジストを務めるブラッド・トッドは、その理由を探ることにした。
5月に刊行されたばかりの『The Great Revolt: Inside the Populist Coalition Reshaping American Politics』(大いなる反乱:米国政治を作り直すポピュリスト連合の内側)は、ドナルド・トランプの支持拡大に光を当て、ウィスコンシン州、アイオワ州、ミシガン州、オハイオ州、ペンシルベニア州に住むトランプ支持者300人あまりに綿密な取材を行った本だ。
トランプがなぜこれら有権者たちの共感を呼び、心をつかんだのか。著者らは、その本当の理由を深く探るため、食堂やバー、コーヒーショップへ出向いて、トランプに投票した人々と話し、彼らの言い分を聞いた。
彼らの多くは、以前はバラク・オバマ前大統領を支持しており、なかには民主党予備選でバーニー・サンダースに投票した人さえいる。
彼らが最終的にドナルド・トランプに票を投じたのは、それぞれの個人的理由によるものだが、本書はそうしたなかから、彼らを引きつけたトランプの選挙運動に共通するテーマやメッセージを浮かび上がらせている。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Betsy Mikel/Owner, Aveck、翻訳:高橋朋子/ガリレオ、写真:NosUA/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.