人間、誰しも後悔はある。しかしある種の後悔は、とりわけ人を失望させ、長く付きまとうものだ。そうした後悔を抱かずにすむ方法をご紹介しよう。

人生で最も後悔していること

これから自分が歩もうとする道筋は定かでなく、未来は予測できない。しかし後ろを振り返れば、これまでしてきたことが点々と後に残され、つながって1本の道を描いているように見える。
むろんそれらの点には、自分がとらなかった行動は含まれない。選ばなかったこれらの点は、何にもつながらない──「後悔」を除いては。
研究によると人間はたとえ結果が悪くとも、実際にとった行動を後悔するより、実際にはとらなかった行動を後悔する傾向が強いという。
とった行動で失敗しても、たいていの失敗は時間と努力で修正できるのに対し、したいと思ってしなかったことについては、時間を後戻りしてやり直すわけにはいかない。もしあのとき行動に移していたら、今ごろ結果は違っていただろうに、と考えることしかできないのだ。
この問題をさらに追求し、自分がなっていない人物像、すなわち自分がとらなかった行動がもたらしたはずの結果について、われわれが抱く後悔の種類を検証した最新研究が発表された。この研究では、次の3つに焦点を当てている。
現実の自己 自身が持っていると思う特性や能力。すなわち、われわれが思う、あるがままの自分。

あるべき自己 自身が持っているべきだと思う特性や能力。すなわち、われわれが思う、あるべき自分(責任や義務など)。

理想の自己 自身が持ちたいと思う特性や能力、成果。すなわち、われわれにとっての目標や希望、夢。
自分にとってやるべきことをやらなかった後悔は理解できる。仕事でもっと努力する、健康にもっと気を使うなど、達成すべき物事について頑張りが足りなかったと後悔するのは自然なことだ。
しかし研究では、「理想の自己に関する後悔を感じたことがある」と答えたのは72%であったのに対して、「あるべき自己に関して後悔したことがある」と答えた人は28%にすぎなかった。
「これまでの人生で最も後悔していること」を1つだけ挙げるよう問われたときには、76%の人が理想の自己を実現するのに役立ったであろう行動をとらなかったことを挙げた。これはよく理解できることだ。研究著者の1人は次のように述べている。
「自分の人生を評価するとき、われわれは自分が理想の自己、なりたいと思う人物像に向かって進んでいるかどうかで判断する。だからこそ、それに関する後悔はずっと付きまとうことになる。そうした後悔は、人生という名のフロントガラスに映る景色だからだ」

「いっぽう『あるべき姿』に関する後悔は、道に開いた穴ぼこのようなものだ。問題ではあるが、すでに通り過ぎてしまった過去にすぎない。もちろん、あるべき自己の基準を満たせなかった経験の中にも、強い後悔となって当人をいつまでも苦しめ続けるものもある。優れたフィクションには、まさにその種の後悔を扱った作品が多い」

「しかしほとんどの人にとって、その種の後悔は理想の自己になれなかった後悔の数には遠く及ばない」
要するにわれわれは「自分の可能性を最大限に引き出さなかったこと」を最も後悔するのだ。「挑戦してさえいれば、なれたかもしれない人間」にならなかったことを、最も後悔するのだ。なぜなら、その種の失敗は二度と取り返すチャンスがないものだから。
しかし、その種の失敗をしないようにすることは、今すぐにでもできる。
理想の自分とはどんなものかを認識し、なりたい自分になるための行動を起こす方法として、次のようなことを実践してみてほしい(なりたい自分になるための詳しいアドバイスについては、筆者の著書『The Motivation Myth』で紹介している)。

1. 明確で具体的な目標を設定しよう

たとえば、もっと健康になりたいと考えているとしよう。「もっと健康になりたい」というのは素晴らしい目標に聞こえるが、具体的には何を意味するのだろうか。実は何も意味しない。ただの願望にすぎない。
これを「30日間で10ポンド(約4.5kg)減量する」に変えれば、具体的で測定可能で客観的な目標になる。
何を達成したいかが自分で把握できるだけでなく、具体的な目標を掲げることで、それを確実に達成するためのプロセスを設計することが可能になる。ワークアウトのスケジュールを組み、ダイエットの計画を立てることができる。あとはただ、その計画を実行しさえすればいい。
「自社のビジネスを成長させる」というのも、やはり響きはいいが中身のない目標だ。「新規顧客を1カ月に5件増やす」にすれば、顧客を増やすために具体的に何をすべきか決定することが可能になる。
つねに結果から逆算し、達成のためのプロセスを設計できるような目標を掲げよう。何を達成したいかが具体的にわからなければ、そのために日々何をすべきか知ることは不可能だ。

2. 自分にとって重要な目標を掲げよう

もっと健康的な体になりたい理由が、今年の夏にビーチで恰好よく見られたいというものなら、おそらく目標は達成できないだろう。他人が自分をどう思うかなど、結局のところどうでもいいことだ(理想の自分はそんなことは気にしない)。
しかし、気分が良くなって自分をもっと好きになりたい、わが子の手本になりたい、自分に対して何かを証明したいという理由で健康を目指すのなら、目標を達成できる見込みはぐっと高くなる。なぜなら、その目標には意味があるからだ。主治医やビーチの見知らぬ人にとってではなく、自分自身にとって。
これは、一見くだらない目標にも当てはまる。たとえば、筆者は1年間に10万回の腕立て伏せを実行した。他人から見れば無意味な目標かもしれないが、私は自分も難しいことをやり遂げることができると自分自身に証明したかったのだ。
その目標は、私にとって意味があった。それをきっかけに自分を見る目が変わり、何かを最後までやり遂げることが以前よりずっと簡単になった。

3. 前向きな目標を掲げよう

「会議で他人を批判するのをやめる」というのは立派な目標だが、目標としては後ろ向きだ。何かをあきらめたり、やめたりすることは、新しく前向きな挑戦を受け入れることに比べてはるかに難しい。
それに「甘い物を絶つ」といった目標を掲げると、絶えず誘惑を避ける選択をしなくてはならない。多くの場合、人間の意志力には限りがあるのだから(決意や意志力を強くする方法もなくはないが)絶えず選択を迫られる状況に身を置くのは得策でない。
だから、目標はつねに前向きなものを設定しよう。そうすれば、自分がこれ以上なりたくないものを避ける努力をするのでなく、何か新しい(そして素晴らしい)ものになるために頑張ることになる。

4. 目標を設定したら、いったんそれを忘れよう

私たちはよく「目標には集中して取り組め」と言われる。
しかし、人が大きな目標をあきらめる最大の理由の1つが、今現在の自分と将来なりたい自分との間に距離があることだ。現時点で1マイル(1.6km)しか走れない人がフルマラソンを走る目標を掲げる場合、現状との隔たりが大きすぎて克服できそうにないと感じるだろう。
どう頑張っても現状から目標に達するのは不可能となれば、目標をあきらめるほかない。
大きな成功を収めている人のほとんどは、目標を定めたら、その後は目標を達成するのに必要なプロセスのほうにすべての意識を集中させている。
もちろん目標をあきらめたわけではない。しかし、彼らが最も気にかけているのは、今日何をすべきかだ。そしてそれを達成したら、今日の成果を喜び、今日自分がこなしたことに満足する。
それは、自分自身への満足感につながる。今日やろうと計画したことを達成できたからだ。そしてこの達成感は、また明日やるべきことをやるために必要なモチベーションにつながる。なぜなら、たとえ小さな、こつこつと積み重ねていく成功であっても、成功の体験は何よりも優れたモチベーションになるからだ。
このように小さな勝利を経験すれば、現状と目標との距離を感じずにすみ、日々自分に満足感を覚えることができる。自分に満足するのに「いつの日か」まで待つ必要はない。今日やろうと計画したことをちゃんと実行できたなら、その人は勝者だ。
そしてこのことは、次に示すステップが最も重要であることの理由にもつながっている。

5. つねに日々のプロセスに集中しよう

長期的な成功を手に入れる秘訣は、小さな向上を確実に積み重ねていけるプロセスを設計することだ。
そしてそれは通常、他の成功している人たちと同様なやり方をすることを意味する(私の著書にも「プロのやることを真似よう」と題した章があり、手本とするのに適切な人物を選び、さらにはその人とコネクションを築く方法を紹介している)。
自分が達成したい目標をすでに達成している人物をピックアップして、その人が用いたプロセスを分析し、同じようにやってみよう。
プロセスを実践するなかで、自分にとって最善のやり方を学び、その結果として細かい修正を施すことになるかもしれない。ただし、自分のやりたいことや自分にはよいと思えること、自分がうまくいきそうだと思うことを最初からやるのは避けよう。
そうではなく、「うまくいくと証明されていること」をやろう。
そうでないと、自分で設計したプロセスが「小さな成功」をもたらさない。そのため、最終的には目標をあきらめることになる。ひとつ前の項目で述べたように、小さな成功こそがモチベーションを維持し、満足感を与えてくれるものだからだ。
考えてみると、そうしたモチベーションや満足感こそ、まさに成功を意味するものではないだろうか。そしてそれは「理想の自分になれなかった後悔」を避けるための完璧なやり方でもあるのだ。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Jeff Haden/Contributing editor, Inc.、翻訳:高橋朋子/ガリレオ、写真:guvendemir/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.