Airbnbが一部借り上げる「ハイブリッド式」

昨年12月、シーラ・シューラと夫のデビッドは、フロリダ州キシミーのモダンで手入れの行き届いたアパート「ドメイン」の賃貸契約を結び、興奮していた。
アパートといっても、低層階の戸建てがいくつも並び、南国リゾートのヴィラを思わせる(総戸数324)。ヤシの木に囲まれ、日差しが反射して輝くプールもあり、近くのディズニーワールドの喧騒に比べたら、オアシスのように感じられた。
ところが、賃貸契約をしてから3か月後、Airbnbがこの楽園の一部を「借り上げる」ことが判明。シューラー夫妻は夢のオアシスを、入れ替わり立ち替わり出入りする観光客らとシェアすることになるという。
ドメインはこの夏、Airbnbがそのブランド名を掲げる、初の集合住宅となる。観光客の短期滞在のために部屋を貸し出す──普通のホテルと何ら変わらない形態だ。
「不意打ちを食らったよ」と、デビッドは言う。Airbnbの件については、ドメインの非公式のフェイスブックページで知ったらしい。
「私たちはホテルに住むために賃貸契約したわけではない」
キシミーには年間1000万人の観光客が訪れる。その多くがドメインの部屋を借りたがるのは目に見えている。近くにはディズニーワールドのほか、ユニバーサルスタジオもある。Airbnbが「ハイブリッド式」を試すのに理想的な場所だ。
しかし、ドメインの住人にとっては、自分の隣の部屋に観光客が次々と押し寄せるなんて、あまり歓迎できる話ではない。シューラー夫妻を含む12世帯が不満を漏らし、そのうち何人かはアパート管理会社を恐れて匿名で取材に応じた。

住人に長期不在中の「シェアリング」を強制か

ドメインの住人は、長期に留守にする場合など、部屋をAirbnb上で貸し出すよう奨励されるようになるという。
またAirbnbを介してこのアパートに宿泊するゲストらは、部屋の清掃やスーツケースの保管など、ホテルで提供されるようなサービスやアメニティを利用することができる。
「Niido Powered by Airbnb」と名付けられたこのプロジェクトを主導しているのは、マイアミの不動産開発業者「ニューガード・デベロップメント・グループ」だ。
ニューガードは住人たちに「Airbnbのシェアリング」をするよう圧力をかけていると指摘するのは、ドメインの住人であるアマンダ・クレインだ。「私が契約にサインしたとき、こんなことには同意していない」
Airbnbは取材に対し、コメントを拒んだ。
一方、Niidoの共同創設者で最高マーケティング責任者のシンディ・ディフェンダファーは、ドメインは主に住居として設計されていると語る。
「私たちは別にコソコソしているわけではない。ただ、私たちの物件で見られるトラベルのトレンドを受け入れようとしているだけ」

フロリダで6か所を計画、高級志向にアピール

ドメインの住人の少なくとも2世帯が、今後について弁護士に相談しているという。こうした住人らの反発は、Airbnbにとっては幸先の悪いスタートとなった。
Niidoは昨年12月、ドメインのようなAirbnbブランドのアパート複合施設をフロリダ州に最大6か所オープンする計画を公表した。
現在、企業評価額310億ドルのAirbnbは、さらなる拡大を狙っている。昨年10月には、不動産開発業者や物件管理業者との提携を増やしていく計画を発表している。
Airbnbはこうした提携によって「Airbnbのせいで借主が違法に部屋を又貸ししている」と訴える大家たちをなだめることができそうだが、そうでもないようだ。
Airbnbはこれまで以上に非難を浴びるかもしれない。フロリダのプロジェクトが示唆するように、押し寄せる観光客によって自分たちの「生活区域が侵される」と感じる住人たちからの不満が噴出しかねないからだ。
「Airbnbブランドを冠したアパート事業への拡大は、Airbnbにとってラグジュアリーを求める顧客を獲得するために重要だ」と語るのは、投資銀行タイグレス・フィナンシャル・パートナーズの最高投資責任者、アイバン・ファインセスだ。
「ホテルのような体験を安価で一貫性をもって提供するには、大型物件のオーナーと提携するのが一番だ」
Airbnbは高級志向のユーザーにアピールするため、新プラットフォーム「Airbnb Plus」上で、ホテル並みの滞在ができる部屋のリストを増やしている。そうした物件には定期的に検査が入り、タオルは清潔か、電化製品は正常に作動するかなどのチェックが行われている。
Airbnbブランドの物件は、ホストが得る収益の5~15%を管理会社に渡すことを約束している。ドメインでは、住人がAirbnbを通して部屋を貸し出した場合、収益の25%をNiidoに支払う。その代わり、住人たちもAirbnb利用者と同じように、ホテル並みのアメニティにアクセスできるという。
NiidoはAirbnbとの提携について、ドメインの住人には4月19日まで明かさなかった。ブルームバーグが取材を始めて、ようやく公表したのだった。

住居とホテルの境界線がなくなる

住人の中には、感づいていた人たちもいた。部屋の鍵がデジタルに変更されると告げられたが、その理由は教えられなかったときだ。
「はらわたが煮えくり返っている」と、8か月ほど前にドメインに越してきたウィルマ・コロンは言う。
「私の息子は、このアパートのビジネスセンターを勉強部屋として使っている。でもそこは今、短期滞在者用のラウンジに変えられようとしている。私たちのコミュニティーに何も還元しない人たちのために」
Niidoのディフェンダファーは、ドメインの共用スペースが改装中であることを認めた。地元のレストランがスポンサーする料理教室やワインテイスティング用にデザインされた部屋などがつくられるという。
また、ビジネスセンターはコワーキングテーブルを置いて、もっとチームで仕事ができるようなスペースに変わるという。
ディフェンダファーは、アパートの施設を改善し、しゃれたデザインにすることは、Airbnbユーザーだけではなく住人たちにとっても有益だと語る。改装と維持費はすでに住人たちの賃貸契約に含まれているとも言う。「私たちNiidoのやっていることをもっとよく理解してもらえれば、住人たちにも喜んでもらえると思う」
Niidoによると、住人らに選択肢はない。Airbnbがドメインを利用することに反対しても、それが賃貸契約を破棄するに足る正当な理由にはならないという。
この地域に多くの旅行者が集まることを歓迎する人も、ドメインの住人以外ならわずかながらいる。近くのホテルで働くクリスチャン・マタラッツォは言う。
「私自身が根っからのトラベラーだから、ほかの旅行者たちがここにやって来るのを楽しみにしている。結局みんな、Airbnbとの提携を受け入れるようになると思うよ。だって、これはすごくいい機会が提供されるという話だから」
しかし、ほかの人たちは、住居とホテルの境界線が曖昧になるのは大きな問題だと考えている。ドメインの住人であるクレインは言う。
「私は観光業界で働いている。1日の仕事を終えて家に帰ったときに、またそこに観光業があるなんて耐えられない」
原文はこちら(英語)。
(執筆:Olivia Zaleski記者、翻訳:中村エマ、写真:Sean Pavone/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.