(Bloomberg) -- 米ゼロックスが富士フイルムホールディングス(HD)による買収の合意を破棄すると発表したことに対し、同社は14日、ゼロックス側には一方的に契約を終了する権利はなく、決定内容に抗議するとのコメントを発表した。同社は電子メールで配布した声明文で、「今後訴訟や損害賠償請求も含めた適切な手段」をとっていく考えも示した。

ゼロックスは13日、買収合意を破棄することを発表。アクティビスト(物言う株主)のカール・アイカーン、ダーウィン・ディーソン両氏と新たに和解したことを明らかにしており、その一環として、同社のジェフリー・ジェイコブソン最高経営責任者(CEO)が他の取締役数人と共に退任することも発表した。ジョン・ビセンティン氏がCEO職を引き継ぎ、アイカーン・エンタープライゼズのキース・コザCEOがゼロックスの後任会長に就任する見込み。

富士フHDは、出資比率が15%という少数株主が支配する新たなゼロックスの取締役会が、同社の株主から統合のメリットや価値を判断する機会を奪うことになれば「残念に思う」とコメント。富士フHDとゼロックスが1月31日に締結した経営統合の合意は、両社がそれぞれ外部の専門家から正当な評価を得て適正に協議したもので、ゼロックスの将来にとっても最良の選択肢であるとし、新経営陣に「再考を求めていく」と訴えた。

ゼロックスは、富士フHDが富士ゼロックスの監査済み財務諸表を期限までに提供しなかったことなどを理由に挙げ、経営統合の合意を破棄すると説明。発表資料で、「この数週間、ゼロックス取締役会は富士フイルムに対し、買収案の条件改善の交渉に直ちに入るよう繰り返し求めてきた」とし、「われわれの要求にもかかわらず、富士フイルムは容認可能な期間内に要求に応じると保証しなかった」としていた

買収の完了は期待できない

ゼロックスは、裁判所が買収計画の暫定的差し止め命令を下しており、株主が現行条件では買収計画を支持していないことに加え、合弁会社富士ゼロックスの会計問題が未解決であることを特に考慮すれば、現在の状況では富士フHDによる買収計画が完了することは当然期待できないとした。

さらに、ゼロックス「取締役会は議決権を巡る争いの間に会社が不安定化し、事業が混乱する可能性も考慮した。富士フHDとの取引が実行可能で時宜にかなったものでない以上、ゼロックス取締役会は、買収案を破棄し、アイカーン、ディーソン両氏と新たな和解合意を取り結ぶことがゼロックスと株主全員にとって最善と考える」と説明した。

物言う株主側に軍配

アイカーン氏はゼロックスのこの決定に満足しているとコメント。「われわれはゼロックスが経営権を富士フHDに譲るという賢明でない計画をついに破棄したことに非常に満足している。これを背景にわれわれと、新たな株主重視の経営陣はきょう、ゼロックスの新たなスタートを切る」とした。富士フHDの担当者にコメントを求めたが、これまでに返答はない。

ゼロックスと同社の筆頭株主アイカーン氏は、富士フHDによる61億ドル(約6670億円)でのゼロックス買収案を巡り対立し、混乱を引き起こしていた。両者は今月に入っていったん和解合意した後、合意事項を実行する前に決裂していた。

アイカーン、ディーソン両氏は富士フHDによるゼロックス買収に当初から反対していた。ディーソン氏は、ジェイコブソンCEOが自分の地位を守るため株主の利益を犠牲にして、承認を得ずに富士フHDと合意したとして、同買収計画を阻止するため2月にゼロックスを提訴した。同氏はまた同訴訟で、ゼロックス取締役会は信認義務に反したと主張した。

40ドル以上なら検討

アイカーン、ディーソン両氏は先週のゼロックス株主宛て書簡で再び、富士フHDによるゼロックス買収合意の破棄とジェイコブソンCEOの解任、ジョン・ビセンティン氏のCEO起用、取締役辞任を求めた。また、1株当たり現金40ドル以上のゼロックス買収提案なら自分たちは検討するだろうと述べていた。

14日の富士フHDの株価は一時前週末比1.6%高の4310円。松井証券の窪田朋一郎シニアマーケットアナリストは、ゼロックスの成長性が見通しづらくなっていたことから、市場は買収に関してもともと「そこまで好感していたわけではない」とし、合意の破棄は「ネガティブではない」と指摘した。また、ゼロックスが合意破棄の理由として財務諸表を期限までに提出できなかったためとしていることについては「表向きの理由と捉えたほうがいい」との見解を示した。

(富士フHDの声明を踏まえ、見だしを書き換えて記事を更新します.)

--取材協力: 高橋舞子 .

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