世界のサッカー中枢組織で働く日本人の3タイプ

2018/5/15
毎年恒例の、FIFAマスターと弊社(TEAM)のサッカーの試合が行われて応援に行ってきました!
FIFAマスターはFIFA(国際サッカー連盟)が主催しているスポーツに特化した大学院で、元日本代表主将の宮本恒靖さんや元韓国代表スターの朴智星も卒業生ですので、以前よりは日本のスポーツ界でも知られる存在になっているかと思います。
昨年は、元なでしこジャパン代表の大滝麻未選手を含め2人の日本人生徒がいましたが、通常、毎年日本人は1人のようです。今年も、小滝陽介さんという方が1人在籍していましたので、FIFAマスターについていろいろと聞いてみました。
彼の話を聞いた後に、彼を含めた他の20代の若者たちの試合を応援しながら、海外スポーツビジネスにおける日本人に関していろいろと考えました。
2012年FIFAクラブワールドカップの組み合わせ抽選会に出席した宮本恒靖氏

FIFAとUEFAで働いた日本人

「世界のサッカーの中枢組織」という定義は人によって異なると思いますし、一般化は難しいですが、FIFAとUEFA(欧州サッカー協会)はいろんな意味でそれに当てはまる組織かと思います。
ここで質問です。
「世界のサッカーの中枢組織であるFIFAとUEFAの長い歴史の中で、今まで何人の日本人が働いたことがあるでしょうか?」(文脈からそれるので、ここでは各国協会から推薦などを受けて就任する理事は除き、独力でFIFAやUEFAに入った日本人に限定します)
答えは、5人です!
2002年に、欧米や中南米というサッカーの中心地域を離れ、初めてワールドカップが「ニューワールド」である日韓両国で開催されました。大会興行は大成功に終わり、その後、FIFAのグローバル戦略に拍車がかかるのですが、2002年W杯での仕事ぶりが認められて、3人の日本人がFIFAに移りました。サッカービジネスの海外組「第1世代」ですね!
彼らの活躍に刺激を受けた「第2世代」の私が、ケンブリッジ大学MBA取得後の2006年に、欧州サッカー協会の専属マーケティング代理店であり、創設以来UEFAチャンピオンズリーグのビジネスを全面的に手掛ける弊社に入社しました。
そして、その10年後、「第3世代」にあたるFIFAマスター卒業生の若者が、欧州サッカー協会に入りました。

世界で働くために英語は不可欠

さて、ここでまた質問です。
上記にあげた「世界サッカーの中枢で働く日本人5人」は、3つのタイプに分けられます。「その3つのタイプとは、何でしょうか?」
答えは、下記の通りです。
(1)帰国子女(1人)
(2)ハーフかつ欧米大学卒業生(2人)
(3)欧米大学院卒業生かつ海外勤務経験が豊富(2人)
私の場合は(3)にあたり、帰国子女でもハーフでもない日本生まれ育ちです。しかし、大学卒業後に日本を離れ、仕事と大学院留学の関係で、ベトナム、シンガポール、アメリカ、イギリスと10年かけて4カ国に移り住み、スイスの弊社に入る際には「豊富な海外経験」を持っていました。
ちなみに、先に登場したFIFAマスター現役生の小滝さんも、2歳から高校卒業までイギリス育ちの生粋の帰国子女ということです。
小滝さんとFIFAマスターたち(撮影:筆者)
上記3タイプは異なるタイプですが、共通するのは「英語」と「豊富な海外経験」という点です。FIFAであろうと欧州サッカー協会であろうと、普段使われている共通言語は「英語」です。サッカー以外のスポーツ団体、例えばIOC(国際オリンピック委員会)でもアメリカの4大スポーツでも、やはり「英語」が使われています。要するに、「どんなに優秀でも、英語ができないとなかなか貢献できない(=働けない)」のです。
FIFAや欧州サッカー協会ができてから長い年月が経っていますが、(世界第3位の経済大国であるにもかかわらず)今までたったの5人しか日本人が関わっていない背景には様々な理由が挙げられますが、その一つは日本人の「英語」力にあるとも言えるでしょう。私も日本人ゆえ数多くの優秀な日本人を知っていますが、「英語」環境で、日本語環境の時と同じような優秀さを出せる人は、かなり限られています。
ただ逆を言うと、日本人の多くはかなり優秀ですので、「英語」さえできれば、海外に羽ばたくことはさほど難しくはないはずです。そして海外で働くうちに、上記3タイプに共通するもう1つの点「豊富な海外経験(そして、そこから得られる「International Awareness」が大事)」も得られるわけです。

今後はアジアの時代に

とはいえ、普通に日本で生まれた育った日本人に、いきなり「英語」を学んで「欧米に行け!」というのは、いろんな意味でハードルが高いかもしれません。
その場合、まさに私が経たように、「欧米に行く前に、アジアに挑戦する」のが心理的にも言語的にもハードルが低く、挑戦しやすいかもしれません。
アジアには、今やアメリカと伍す超大国となった中国があり、今後さらに台頭するのは確実です。
私の親の世代くらいまでは、例えば一流企業でも「アメリカや英国ロンドンなどに駐在する」のが出世コースの一つと言われていました。しかし、今や「Go West」ではなくて「Go East」の時代です。「アジアの時代」の今、若いうちから「アジアに挑戦する」のは、「Better」というより、むしろ「Must」と言えるでしょう。
そんな「アジアの時代」を反映してか、FIFAマスターも、今年は全生徒32人中、何と40%近くがアジア出身者とのことです!
シンガポール、タイ、インド、台湾、韓国、日本、モンゴル、パキスタン、イランなど多彩な顔ぶれで、FIFAマスター創設から初めてアジアが一大勢力となっているようで、欧米のMBA(経営学修士)でも最近見られる傾向が、ここでも顕著なようです。いわゆる欧米名門MBAは、時代の趨勢(すうせい)に敏感に反応しますので、彼らの生徒やケーススタディ構成や内容から見ても、「アジアの時代」は間違いないのです!

「和僑」が日本に貢献する

「英語を学ぼう」や「海外に行こう」は、私がメディアで繰り返し述べていることですので、「またか?」と思われる方も多いかもしれません。
しかし、少子高齢化と人口減という極めて深刻なダブルパンチを受ける日本は、長期的に見て経済市場の縮小は避けがたいとも言えます。国内市場が縮小するのであれば、確実にやった方が良い2つは「海外進出」と「国内でのイノベーション」です。
「国内でのイノベーション」に関しては、日本の優れた個人や組織が、日々懸命に取り組んでいると思います。ゆえに今後さらに促進すべきは、日本の組織だけでなく個人の「海外進出」です。
「そんなにみんなが海外に行って海外かぶれになってどうするの?」という人もいるかもしれません。しかし、日本という極めて単一的で画一的な枠を飛び出して、日本とは丸っきり異なる価値観、考え方、働き方などに触れて成長した日本人が世界中に増えれば増えるほど、翻っては「日本のイノベーション」にもつながるはずです。
私がシリコンバレーに住んでいたころ、アメリカ在住の中国人の間で「B2C」が、インド人の間で「B2B」が、一時はやりました。要するに、「Back to China」と「Back to Bombay」です。2001年に起こったテロ911後にビザ締めつけが始まり、大量の中国人技術者やインド人エンジニアが本国に帰らざるを得なくなったのです。
そして、そのシリコンバレー標準になれた多くの帰国組が、その後のインドのIT産業、中国のインターネット産業の発展に大いに貢献したのです。
華僑や印僑ではないですが、世界中に散らばった「和僑」が増えれば増えるほど、「グローバルスタンダード」を体得した彼らが、国内外から愛する祖国・日本に貢献すると思うのです。
逆説的かもしれませんが、そういうわけで、「将来、日本のためになりたい」という方には、ぜひ一度「海外に住む」ことをお勧めします!
「Boys, be ambitious!」
「Go East!!!」
(写真:アフロ)