【羽生善治】なぜ神童は、いつしか「普通の人」になるのか

2018/5/19

孫さんとの「出会い」

──羽生さんは孫正義育英財団の発足当初から評議員に名を連ねています。就任までの経緯をお聞かせください
羽生 2016年5月に放送されたNHKスペシャル(「天使か悪魔か 羽生善治 人工知能を探る」)で、私はロボットの「ペッパー」を取材するためにソフトバンクを訪れました。
そこで、孫さんと20分ほどお話しする機会があったのです。
孫さんは私に、将来は100億の人間と、100億のロボットが共存する世界が来ることを説明し、「便利さだけでロボットを作ってしまうと、寒々とした社会になる。人の気持ちがわかったり、人に良いことをするロボットを開発していきたい」と語りました。
人間はロボットよりも変化への適応性が高いので、ロボットが溢れる社会にも適応できるでしょう。しかし、人間がロボットに合わせることを余儀なくされれば、息苦しい社会になります。
だから、「ロボットが人間に近づくようにする」という孫さんのアプローチには、私も共感しました。
とはいえ、決められたタスクをこなすロボットを作る方が簡単ですから、このアプローチは難易度が高い。改めて、孫さんが大変なチャレンジをしているのだと実感しました。
その時の会話が盛り上がったからか、しばらくして財団関係者の方から「評議員にならないか」という話をいただきました。あまりに突然のことだったので驚きましたが、財団のビジョンに共感し、評議員への就任を受諾したんです。
──具体的に、どのようなビジョンに共感したのですか。
「時代を担う、若手人材を育てる」というビジョンです。どの時代にも、若くて優秀な人たちは一定数います。しかし、その素質を伸ばし、若くして活躍するには、環境によるところが大きいと思います。
そうした中、ポテンシャルを秘めている子たちを応援するという意味で、私は財団の姿勢に共感したのです。

両親は将棋を指さない

──「活躍するには環境が重要」という考え方は、羽生さんが将棋界で戦ってきたなかで得たものですか。
そうです。私自身、自分の資質だけでは棋士になっていなかったと思います。そもそも私の両親は将棋をほとんど指さず、友達から教えられて将棋を覚えたのです。