ディズニーに学ぶ、パワハラ・セクハラのリーガル・レッスン

2018/4/21
4月27日にNewsPicksアカデミアで開催される「最強のディズニーサミット」を前に、本書で第3章を担当し、当日も登壇するオックスフォードロースクールで学んだ弁護士のドナルド楠田氏に、今話題の“セクハラ”“パワハラ”に関するリーガルレッスンを、『最強のディズニーレッスン』の内容を抜粋して論じてもらう。

足元をすくわれないために

コンプライアンス問題で、社内のエース級社員を失うという事例が後を絶たない。優秀なビジネスパーソンこそ、セクハラ、パワハラを含めたコンプライアンス問題で足元をすくわれないように気をつけたいものである。
オックスフォードのサイード・ビジネススクールに留学中のドイツ人エンジニアのダッフィー氏(仮名)が、こんな話をしてくれた。
彼はかつて大手自動車メーカーに勤務していたが、そのころに、パワハラで優秀な同僚を失ったそうだ。
彼の同僚のグーフィー部長(仮名)は、同僚の中でもトップクラスの評価を受けているエンジニアであり、異例の若さで、数十人の部下をたばねるマネージャーに抜擢(ばってき)されたらしい。
しかし、グーフィー部長の部下の一人が、グーフィー部長からパワハラを受けたと言って会社を辞め、その後、会社とグーフィー部長を相手に損害賠償の請求をしてきた。
グーフィー部長にも一定の過失があったとして、慰謝料を支払って和解に至ったものの、グーフィー部長は、相当な時間と労力を奪われた。
そして、本業に専念できなくなり、次第に周囲の目が気になって会社にも居づらくなり、結局競合他社に転職をしたそうである。

ドナルドダックのセクハラ問題

ディズニーでもエース級のキャラクターが、コンプライアンス問題で足元をすくわれそうになった事件がたびたび起きている。
まずはドナルドダックだ。
2008年に米フロリダ州オーランドの「ウォルト・ディズニー・ワールド」のテーマパーク内で、ドナルドダック(の着ぐるみの中の従業員)にわいせつな行為をされたとして、ペンシルベニア州に住む女性がディズニーを相手取り、約5万ドルの損害賠償を請求するという事件があった。
ちなみに、この女性は子どものいるお母さんであった。
この女性が言うところによると、セクハラされたとき、子どもを抱いていて抵抗ができなかったそうで、その後激しい頭痛・吐き気・PTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しんだそうだ。
この事件は和解解決したそうだが、ドナルドはデイジーになんと言い訳をしたのだろうか。
プーさんに登場するトラの人気キャラクター・ティガーも、写真撮影でポーズをとっていた少女とその母親の胸を触ったとして、セクハラで訴えられたことがある。
この裁判では、弁護士がティガーの着ぐるみを法廷で着て、着ぐるみの構造上セクハラを行うことが困難であると主張したそうである。
ティガーは、写真撮影中の少年に暴行を加えたとして訴えられたこともある。少年の父親は、カメラに向かってポーズをとっているときに、ティガーが少年の頭部を殴ったと主張していたそうだ。
確かに、ティガーは自信家でお調子者の一面がある。セクハラも暴行も、調子に乗ってついやってしまったのだろうか。

パワハラはセクハラより判別が難しい

最近は、モンスター・ペアレントならぬ、モンスター従業員という言葉も耳にするようになった。適切な指導であってもパワハラだと訴えてくるような例である。
また、パワハラの加害者側に厳しい処分をすると、他の管理職たちが部下の指導に躊躇してしまい、人材育成がおろそかになってしまうのが心配だ、という相談を受けることもある。
セクハラ問題は、歴史が比較的長く、厚労省の詳細な指針が制定され、裁判例や労災認定事案も蓄積されており、判明した事実がセクハラに該当するかの判断は比較的容易になってきている。
しかし、パワハラ問題は、その言葉が世の中に広まり始めてから15年ほどしか経っていない。裁判例や労災認定事例の蓄積も十分ではないため、ある行為がパワハラに該当するかどうかは判断が難しい。
また、セクハラは業務に直接関係がない場合がほとんどであるが、上司が部下を指導することは業務の一環であって、パワハラは業務と直接関係している場合がほとんどである。
個別の事案において、ある行為がパワハラに該当するかどうかの判断は難しいが、多くの事例では、パワハラかパワハラでないかの境界が、指導の内容の「必要性」で分かれていることを知っておこう。

パワハラ3大パターン

パワハラかどうかは境界が曖昧でわかりにくいわけだが、パワハラになる可能性がある行為で、比較的起こりやすい事例をディズニーキャラクターをもとにタイプ別に紹介しておこう。
1と2は主にコミュニケーションの問題で、3は権限から生じる問題である。
1. 攻撃系――「美女と野獣」のガストン
ほかの社員の前で怒鳴る、皮肉る、バカにする。「給料泥棒!」「役立たず」などの度が過ぎる暴言は危険だ。
多くの人がCCに入ったメールでバカにする、などもときどき起こるケースである。机をたたいたり、資料を投げつけたりする、などもご法度だ。
2. 冷徹系――「アナと雪の女王」のエルサ
異常に冷たい態度をとる。無視したり、会議でその社員の意見を合理的な理由なく必ずはねのける。事務連絡さえもしないなども、パワハラに認定される可能性がある。
3. 権限乱用系ーー「シンデレラ」の義母
許可・決済を恣意的に与えない。病欠や有給休暇の申請にネガティブな反応をする。不適切な業務分担(意図的に過重・過少労働に追い込む)などがこれに該当する。
なお、セクハラが懸念されるディズニーキャラクターは、ダントツで「ノートルダムの鐘」に登場する判事クロード・フロローであろう。
彼は、女性の後ろから近づいて髪の匂いを嗅いだり、女性のスカーフをこっそり持ち帰って頬ずりしたりする、かなり悪質な変態である。
しかも、その女性に「私のものにならないんだったら死ねばいい」「自分の愛を受け入れれば、処刑を撤回する」などと言って自分を受け入れさせようとする、ディズニー史上最高峰の危険人物だと言えるだろう。
セクハラ、パワハラは人の感じ方ひとつで"クロ"になるので、十二分に注意しよう。
楠田真士 (ドナルド楠田) 
オックスフォード大学ロースクールおよびビジネススクール修士課程修了。ハリウッドやシリコンバレーの、ディズニー社を含めた名だたるエンターテイメント企業やテクノロジー企業等を顧客とする米国西海岸の大手法律事務所の弁護士。外資系投資銀行でM&A業務に携わった経験もありファイナンスへの造詣も深い。一方、学生時代にはディズニーシーの駐車場でアルバイトの経験があり、夢の国への憧憬も深い。「モンスターズ・インク」や「トイ・ストーリー」などのピクサーアニメをこよなく愛する。好きなタイプは、アリエル。
ミッキーマウスとドラえもんの成長力を分けた「3つの要因」