ミッキーマウスとドラえもんの成長力を分けた「3つの要因」

2018/4/20
なぜディズニーは最強のキャラクターになれたのか? ビジネスで大成功したのか? ミッキーマウスとドラえもんの差はどこにあるのか? 「ミッキーマウスは“グローバルエリート”、ドラえもんは“ローカルエリート”」と語るムーギー・キム氏が、両者の3つの違いを分析する。

2年かけてディズニーを徹底研究

さて、今回は4月27日のNewsPicksアカデミアイベント、「最強のディズニーサミット」を前にして、事前知識として共有しておきたい「最強のディズニーレッスン」を提供しよう。
私は実は、ディズニーに関してものすごく詳しい。これまで、2年かけて執筆した新著・『最強のディズニーレッスン―世界中のグローバルエリートがディズニーで学んだ50箇条の魔法の仕事術』が4月20日に上梓(じょうし)される。
本書には、歴代ディズニーベストセラー著者を数多く直接インタビューし、ディズニーの戦略に詳しいハーバードでディズニー戦略を勉強してきたコンサルタントの友人、またディズニーでバイト経験を持ち、オックスフォード・ロースクールでディズニーの法務契約の神髄などを学んできた弁護士の後輩、そしてディズニーランドで働くキャスト経験を有する友人と共同で、2年にわたりディズニー成長の秘訣(ひけつ)を研究してきた成果がつまっている。
私自身も、歴代ディズニー映画を見て、世界中のディズニーランドを回り、日本アニメの雄・われらがドラえもんとの比較考察を行ってきた。
では、なぜドラえもんと比べるのか。その問題意識の原点は、私がかねてから抱いていた以下の疑問にある。
なぜディズニーは一匹のネズミからスタートし、今や映画の新作は興行収入が1000億円を超え、時価総額が約20兆円にまで成長したのに対し、一匹のネコからスタートしたドラえもんは、国内での圧倒的認知度はあるものの、興行収入が30億円水準で、世界市場への進出も果たされなかったのか。
2年かけてディズニー本社からオリエンタルランド、現役や引退社員を含め様々なディズニー関係者とともに書きつづってきた経緯から、ディズニーのドラえもんに比較した時の圧倒的な成長力を説明する3大要因について、以下で共に考えよう。
1.幅広い収益構造と多角化がもたらす、顧客1人当たりのLTVの違い
ディズニーは創業から90年の月日を経ても、毎年高い成長を続け、売り上げは実に6兆円、時価総額は20兆円に迫る世界有数の巨大コングロマリットに成長している。
近年ではピクサーやマーベル、ルーカスフィルムの買収に続き、21世紀フォックスの約6兆円規模の買収など、「M&A」という魔法でコンテンツから流通網まで次々と戦略的資産を獲得している。
やはり持続的な成長に必要なのは、シナジーのある複数の事業を成長させることであろう。
ディズニーは、映画に始まり、それをテーマパークで横展開し、グッズを世界中で売り、放送広告事業でも巨額の売り上げと利益を上げている。そしてこれらの事業は全て映画のストーリーを起点にしており、シナジーが強い。
映画を消費した顧客がテーマパークでさらに消費し、グッズを買い、放送を見ることで、一度作成したコンテンツをひたすら横展開し、幼少期に顧客のハートをつかんだら最後、その後大人になっても様々な場面で収益化していくのだ。
ディズニーとドラえもんを比べたとき、1人当たり顧客のLTV(Lifetime Value)に大きな差があるのは、そのシナジーあふれる多角化の成功と幅広い収益構造の違いに他ならない。
NewsPicksのCCOである佐々木紀彦氏が、「メディアビジネスの全てはディズニーにある」と語るように、メディアビジネスで稼ぎつくす魔法の戦略が、この「幅広いシナジー事業構造で稼ぎつくす」という点にあるのである。
2.時代とともに変化する多様性
ディズニーとドラえもんを比較した時、最も大きな差は、時代の変化への対応力であろう。
ディズニーは1928年のウィリーの蒸気船当時の冒険路線に始まった。続いて草創期の白雪姫や眠れる森の美女といった「寝ているだけで王子様がやってきてキスされて解決」といった男性中心のクラシック時代を迎えた。
ディズニーは、マイケル・アイズナー時代(1984年~2005年にCEOを務めた)の黄金期が過ぎたころから、女性の権利拡大の流れに合わせて1990年代中期のポカホンタスの頃には女性が主体的に強さを発揮するようになった。
そして2005年のボブ・アイガーCEO登板の翌年にはピクサーを買収し、ラプンツェルやアナ雪に代表されるように、男勝りの女性主人公が力強く人生を切り開くように変化した。
当初は子どもを対象にした物語だったが、今では大人が見ても楽しく教訓を得られる、優れたオトナのエンターテインメントを提供するようになったのである。
これに対しドラえもんは、良くも悪くもドラえもんのままである。
本コラムを書くために私は最新作で話題を集めている「のび太の宝島」を見たが、服装から家のつくりや街並みも見事に昭和50年代のままだ。
相変わらず、しずかちゃんはさらわれて危険な目にあっており、それをのび太とドラえもん、ジャイアンとスネ夫といった男性陣が救出するという、お馴染みのストーリーだ。
ちなみに、ディズニー映画では主人公が多様性に富むのに対し、ドラえもんでは、必ずやこのおなじみのメンバーであり、あの出木杉君でさえ、一度も主人公として冒険の舞台に立たせてもらえていない。
そして相も変わらず毎回、「地球を滅亡から救う」という、とってつけたようなストーリー展開であるのも、もはや大相撲や落語のような、「変わらないことの伝統価値」を見いだす文化財の域に達しているような気すらしてきた。
ディズニーは映画のストーリーやキャラクターが毎年積みあがっていき、多様なポートフォリオを抱えているため、時代と市場セグメントの変化への対応が可能だ。
これに対しドラえもんは毎回おなじキャラクターで完全にマンネリ化しているため、安心感はあるものの、成長性に欠けるのも無理はないのである。
3.グローバル戦略の徹底
ディズニーとドラえもんの成長力の差を比較した時、やはりその存在感の大きな違いは、グローバル戦略の有無にある。ディズニーランドは現在、フランス、アメリカ、香港、中国、日本にあるが、ディズニー映画はそれこそ世界中で見られている。
かつ、この多極化のご時世に備え、中国市場用に「ムーラン」を、日本では「ベイマックス」で東京とサンフランシスコを足したような仮想都市を舞台にしている。
また最近日本でも公開された「リメンバー・ミー」はラテンアメリカ文化を舞台としている。
昨年の「モアナと伝説の海」はアイランダー文化であり、実写版の美女と野獣ではついにLGBTのキャラクターを登場させるなど、多様な文化を意識したつくりになっているのだ。
これに対し、ドラえもんはどこの国でもドラえもんであり、一部の日本アニメファン層のニッチな需要はつかめても、ディズニー映画のような世界的な広がりをみせることはできなかった。これが、映画の興行収入に実に30倍もの差がつく一因でもあろう。
最強のディズニーレッスンー世界中のグローバルエリートがディズニーで学んだ50箇条の魔法の仕事術』では、アントレプレナーシップ、戦略、リーガル、サービスの4分野で一般のビジネスパーソンがパフォーマンスを高めるために学ぶべき教訓を50のポイントにまとめて書きつづっている。
中でも最も重要なのが本連載で紹介した3点だ。
来る「最強のディズニーサミット」当日は、本書を執筆した「プロジェクトディズニー」陣営が勢ぞろいし、楽しく簡単にディズニーストーリーに結び付けながら、起業家精神・戦略・リーガル・人材戦略の神髄について、参加してくださるゲストの皆様に、最高のハピネスとグッドショーをお届けすることを、軽く口約束させていただこう。
◯当日の登壇者

ムーギー・キム(ムーギーマウス)

INSEADにてMBA(経営学修士)を取得。外資系金融機関の投資銀行部門、外資系コンサルティングファーム、外資資産運用会社での投資アナリストを歴任した後、香港に移り、アジア一帯のプライベートエクイティファンド投資に従事。フランス、シンガポール、中国での留学を経て、大手バイアウトファンドに勤務。現在はシンガポールを拠点に、世界中のベンチャー企業の投資・支援を行なっている。

東京ディズニーランド開園時に来園以来、35年のディズニーファン歴を誇り、ディズニーとビジネスをテーマにした講演も多数こなす。本書の執筆を機に、グローバル・ディズニー研究所を(夢の中で)設立。ディズニーファンを集めてディズニーの神髄を議論する「最強のディズニーサミット」を開催予定。泣いたディズニー映画は、「ダンボ」「美女と野獣」「リメンバー・ミー」。好きなタイプはベルからポカホンタスと多岐にわたる。

[プロジェクト・ディズニー] 

山田麻衣子(ミニー麻衣子)

ハーバード・ビジネススクールにて、MBA(経営学修士)を取得。外資系コンサルティングファームを経て、外資系小売大手にて、商品から事業、全社レベルまでさまざまな分析および戦略の立案・実行に携わる。

幼少期、ディズニー好きの両親の影響でディズニー映画に出合い、手描きアニメーションの柔らかな動きと音楽に魅了されて以来の熱烈なディズニーファン。コンサルティングファーム時代は、ディズニー関連のケーススタディやプロジェクトにも数多く携わる。好きな映画は、「くまのプーさん」。好きなタイプも、プーさん。



楠田真士  (ドナルド楠田) 

オックスフォード大学ロースクールおよびビジネススクール修士課程修了。ハリウッドやシリコンバレーの、ディズニー社を含めた名だたるエンターテイメント企業やテクノロジー企業等を顧客とする米国西海岸の大手法律事務所の弁護士。外資系投資銀行でM&A業務に携わった経験もありファイナンスへの造詣も深い。

一方、学生時代にはディズニーシーの駐車場でアルバイトの経験があり、夢の国への憧憬も深い。「モンスターズ・インク」や「トイ・ストーリー」などのピクサーアニメをこよなく愛する。好きなタイプは、アリエル。