混迷の今こそ、世界の見方を「アップデート」しよう

2018/4/9
「国際情勢はあまり自分に関係ない」「遠い国で起きていることだから……」「仕事に関係あるのは経済情報。国際ニュースはあまり……」
こんな具合に、日々の生活で国際情勢を意識することは少ないかもしれない。
しかし当然、日本は世界から隔絶された存在ではない。意識せずとも国や企業、個人レベルでも世界と関わっている。
海洋国家である日本の経済は貿易で成り立っている。よく指摘されるのが、日本の食料自給率はカロリーベースで4割以下、原油も99%以上を輸入し、そのうち8割を中東に頼っていることだ。
(写真:NicolasMe/iStock)
その経済も、政治や安全保障の面で安定していなければ、新たな投資を呼び込むことも困難になる。成長も望めなくなる。
平和憲法をもつ日本は、自衛隊に加えて、在日米軍をはじめとするアメリカの存在を抜きにして安全保障が成立しない。
こうしたことは当たり前のように存在しているため、普段意識することはない。
しかし、これらは決して当たり前のことではない。米ハーバード大学教授で、米国防次官補を務めたジョセフ・ナイには、こんな名言がある。
「安全保障は酸素のようなものだ。失われ始めた時にはじめて、その存在に気づく」
こう見ると、日本にとって最も重要な国であるアメリカで何が起きているのか、そして世界で何が話題になっているのか、といったことに自然と関心が向かうはずだ。
もう少し具体的に見てみよう。
いま、世界にとって最も重要なテーマの一つが、アメリカと中国の力関係が入れ替わりつつあることだ。
これまでの世界秩序は、自由や民主主義、開かれた資本主義をベースに築き上げられてきた。それに対して、強権的に国を統治し、言論の自由を封じるような国が、経済力にものを言わせて世界で影響力を高めていることに疑念が広がっている。
(写真:simon2579/iStock)
端的に言えば、「米中新冷戦」だ。
これは単に「国家vs国家」の覇権争いではない。ビジネスにも大きな影響が起きている。中国が欧米企業の買収を進め、これに対して警戒感が広がっている。
たとえば、シンガポールの通信用半導体大手のブロードコムが米クアルコムの買収に乗り出すと、トランプ政権は2018年3月に、安全保障上の理由でこれを禁じる命令を出した。
クアルコムがアジア勢に買収されれば、今後、テクノロジーの覇権をめぐって中国を利する、との考えからだ。
かつて、中国を世界の自由な貿易体制に組み込めば中国の民主化も広がる、という考えがアメリカやヨーロッパにあった。
そう信じつつ、中国市場を逃すまいと、関係を深めてきた。
ところが、習近平の中国は、自由や人権といった価値を深めるどころか、むしろ独裁を強めているように見える。既存の世界秩序に組み込めるという思惑とは裏腹に、中国は独自のルールづくりを進めようとしているのではないか、と疑念が強まっている。
こうして見ると、地政学的な争いも、ビジネスに結びついているのがよくわかる。
(写真:MF3d/iStock)
外国で起きていることは、確かに一見、遠く感じるかもしれない。また、次から次へと新たなことが起こるから、ついていくのも一苦労だ。
フェイクニュースを含め、ごまんとある情報の中で何を取捨選択し、事象をどのように見るべきか、という問題もある。
こうして日々湧いては消える、数ある国際問題を理解するには、これまでの「常識」を捨て、新たな「枠組み」や「新常識」を理解することが必要だ。
そんな「新常識」のポイントさえ押さえれば、国際ニュースは、もっと身近なものとして感じられ、理解が深まるはずだ。
そこで本特集では、国際情勢を解きほぐし、世界の「いま」をわかりやすく解説する。
数ある国際情勢のテーマの中から、何に注目するべきなのか。そして世界の潮流は、どこに向かっているのか。
ビジネスパーソンにとって欠かせない「教養としての国際情勢」の授業を、全7回+補講にしぼった「入門コース」としてお届けしていく予定だ。
「地政学」と聞くと小難しい印象を受けるかもしれないが、「ビジネスパーソンこそ地政学を知るべき」と主張するのが、政治リスク専門のコンサルティング会社、ユーラシア・グループ社長のイアン・ブレマーだ。
第1回は「予習編」として、世界各国のリーダーや企業トップがアドバイスを求めるブレマーに、なぜ地政学を知るべきか、そして世界を俯瞰してみた時に、注目すべきポイントは何かを徹底解説してもらう。
2016年の大統領選では、多くの人の予想を裏切る形で、政治経験も外交経験もゼロのドナルド・トランプが選ばれた。以来、彼の規格外の言動によって、これまでの世界秩序が崩れるのでは、という懸念が続いてきた。
確かにトランプは、北朝鮮に挑発的な言葉を浴びせ続けたり、自由貿易協定の見直しに乗り出したりしてきた。大統領の暴走をなんとか抑えてきた良識派の閣僚や側近を、次々とクビにもしてきた。
このようにトランプ政権はカオスのイメージが強い。では、本当にトランプ政権は、世界にダメージを与えたのか? 1時間目は、改めてトランプのアメリカを整理して解説していく。
2時間目は、もう1つの大国・中国に焦点を当てる。
中国のトップ、習近平は今年3月、国家主席の任期を撤廃し、「終身主席」への道を開いた。
これまで中国は共産党の一党独裁による「集団指導体制」だったが、それが「一人独裁」へと移行している。こうして独裁色を強めてゆく習近平に、これまで経済的に中国に頼ってきたヨーロッパ諸国も、不安を覚え始めている。
アメリカが弱体化し、中国が「世界のリーダー」になりつつあるように見えるが、そこに死角はないのか。あらためて点検していく。
中国もそうだが、世界には独裁的な指導者が次々と増えている。
欧州のポピュリスト政治家や、トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領、そしてドナルド・トランプ米大統領もある意味、独裁的な手法をとっている。
そんな彼らが崇めるのが、20年近くにわたってロシアのトップに君臨してきた、ウラジーミル・プーチン大統領だ。
なぜ、世界の強権的なリーダーはプーチンに憧れるのか。
3時間目では、その本質を探る。プーチンの本質を読み解くことは、世界で広がる「独裁回帰」の流れを読み解くためのポイントになるからだ。
2017年、核・ミサイル実験を繰り返し「国家核戦力」の構築に邁進した北朝鮮に対して、軍事行動を辞さない態度を貫いてきたトランプ政権。
朝鮮半島で再び戦争が起こるのか、という観測があったが、2018年に入って一転、対話ムードが漂っている。4月末には韓国と北朝鮮による南北首脳会談が行われ、5月には史上初の米朝首脳会談も行われる予定だ。
4時間目は、北朝鮮は本当に核兵器を手放すつもりなのか、韓国と北朝鮮は統一に向かうのか、という疑問に答える。
5時間目は、国際情勢の定番ともいえる中東問題を取り上げる。
中東というと「石油」「イスラム」といったイメージが強い。
さらに、中東のニュースには「日本から地理的に遠くて、親近感が湧きにくい」という印象が加わり、なかなか理解が浸透しにくい。
2001年の米同時多発テロ以降、中東に関するニュースが飛躍的に増えたが、複雑で難解なイメージがつきまとい続けている。
しかし、中東問題がわかりにくく感じるのも、様々な誤解やステレオタイプが浸透しているからでもある。
今後、中東のニュースを理解する上で、最低限知っておくべきポイントを、5時間目に整理する。
そして、日本人にとって外せない最近のテーマが「ロヒンギャ問題」だ。
「今世紀最大の民族浄化」と呼ばれる大虐殺・迫害が、日本企業も進出する、アジア最後のフロンティア・ミャンマーで行われている。
実に100万人規模が殺されたり、家を追われたりしている。
にもかかかわらず、かつて民主化を求めてノーベル平和賞を受賞し、「人権派」であるはずのアウンサンスーチーでさえ、この問題になると歯切れが悪くなる。
その無策ぶりから、国際的な非難が集まっているが、この問題が続いているのはなぜか。
6時間目には、複雑な歴史が絡む、このロヒンギャ問題を解きほぐし、スライド記事で解説する。
そして特集の締めくくりは、安倍外交の要の一人である、谷口智彦・内閣官房参与のインタビューを「特別講義」としてお送りする。
地殻変動が進む世界における、日本の立ち位置について語ってもらう予定だ。
ますます混迷を深める国際情勢は、これまでの「常識」ではもはや語れなくなった。
そんな新時代を捉えるために必要なテーマを厳選した本特集で、世界を見通す「フレーム」をアップデートしていこう。
(デザイン:砂田優花)