「NPの魅力はダイバーシティ」社会起業家ピッカー・山田小百合さん

2018/4/8
NewsPicksで活躍するピッカーさんをご紹介する本連載。その34人目として今回は山田 小百合さんを取材しました。
NPO法人の代表として、多種多様な人が協力しあい、創造的なアイディアを出し合える場づくりに従事している山田さん。そんな山田さんの目からみた、NewsPicksの面白さと課題とは。
5月11日(金)に東京・恵比寿で、ピッカーさんの懇親イベントを開催します。今回のテーマは「ワークショップデザイン」。初対面の人同士を打ち解けやすくする共同作業を、参加された皆さんと体験します。
また、自分でもワークショップを企画してみたい方に向けて、プログラムづくりのコツを、山田小百合さんにお話いただきます。詳細は本記事の最後をご覧ください。

夫婦でピッカー

──NewsPicksを使い始めたきっかけは、ご家族が使っていたからだそうですね。
夫(黒澤 友貴さん)がリリース当初からの愛用者なんです。家でもよく「NewsPicksでこんな記事を読んだよ」などと話していて、私も自然に使うようになりました。
最初はニュースを読むだけだったのが、夫から「コメントするのが肝なんだよ!」としつこく言われて(笑)。ちょっとした感想を書き残すことからはじめました。そのうちに、NewsPicksにハマる夫の気持ちが分かるようになってきました。
──それって、どんな気持ちですか?
まず、たくさん並ぶコメントを読みながら「立場が違うだけで、こんなに意見が違うものなんだな」ということに、新鮮な驚きを覚えました。
そして、ニュースってこんなに語りたくなるものなのか、と。気づけば私も、「◯◯については、私も知っている、考えている」って言いたくなってました(笑)
──山田さんはNewsPicksのほかにもnoteやツイッターもやられています。
ほかのSNSを通じて私がつながっているのは、大学や大学院、学会で知り合った方や、NPO法人の仕事を通じて知り合うソーシャルセクターの人たちで、村っぽい近さがあります。
コミュニティが狭いせいか、お互いの存在を何となく知っている。その人たちの顔が見えすぎるから、気づかないうちに意見の偏りを感じてしまうところがあるんです。
それが、NewsPicksを使い始めて、「こんなにいろんな人がいるのか」と、衝撃を受けました。まさしくダイバーシティだと感じましたし、私自身が改めて偏った世界にいたんだと、気づかせてくれるところがありましたね。
山田 小百合(やまだ・さゆり)
1988年生まれ。大分県出身。重度知的障がいを併せ持つ自閉症の兄と弟の間で育つ。日本女子大学家政学部家政経済学科卒業後、東京大学大学院 学際情報学府 修士課程修了。大学院では障がいの有無を越えたワークショップに関する研究を行う。大学院修了後、障害者や高齢者、マイノリティ等が参画できる学習環境づくりを実践するため、NPO法人Collableを設立。インクルーシブデザインや学習環境デザインをテーマとした、多様な人々の社会参画と、それを円滑に推進するための実践的ワークショップや調査、イベントを展開中。

「ともに生きる」 をミッションに

──山田さんがやられているNPO法人Collable(コラブル)では、どんな活動をされているのでしょうか。
コラブルでは「障がいのある人とともに学び、活動し、ともに生きていく環境を作る」をミッションに、2013年に創業しました。一人ひとりが多様であることを前提として、誰もが参加でき、活躍できる社会を目指しています。
「誰もが活躍できる社会」を目指すには、ものごとを決めるプロセスに多様な人が参加できるようにする必要があります。ただ単にその場のマイノリティの困りごとに寄り添うだけでなく、その場のすべての人に目を向けなければ、弱者の「ため」の福祉的な活動で終わってしまうんですよね。
相互に理解し想像しながら、皆にとって価値を感じられる場になるために何ができるか?障がいの有無に関係なく、高齢者や子どもや、マイノリティなど、誰もが参加できる環境をどう生み出せるか?
そうした問いをもちながら、立場が異なる人たちのまなざしを生かしたワークショップや、学校現場での教育プログラム、企業との商品開発を手がけています。
──ホームページも拝見しましたが、参加者の年齢から、アウトプットの種類もさまざまですし、活動領域が広いですよね。
こだわっているのは「障がいがある人とともに」という軸ですね。
障がいがあると、コミュニケーションの取り方がユニークで偏見を受けやすかったり、物理的な制約がある方も少なくありません。違いがある分、齟齬も生まれやすくなります。
そのひとつひとつを噛み砕いてよりスムーズにできれば、単に「障がいのある人のため」の活動にとどめず、すべての人の関係性をよくすることに応用できると考えています。

違いを越えて関係性を育むには?

──そもそも、なぜ障がいのある子どもの教育プログラムから始めたんですか。
私には障がいのある兄と弟がいて、彼らに囲まれて育ったのが大きいと思います。
私に限らず障がい児の兄弟って、子どもの時から何かと手伝わされるものなんですよ。そして兄弟を通じていろんな人たちと出会いました。その一方で、兄弟やその周りへの理解がない人たちもいて、悲しい思いをしたことも。
障がいのある彼らと、生まれたときから私は寝食をともにしていますから、「支援をする」という態度でなく、適度にサポートしながら関わることが当たり前です。
でも、多くの方にとっては障がいのある人と過ごすとなったとたんに、「仲良くせねば」「支援し理解しようとせねば」と身構えてしまう。それって疲れてしまうし、もっと力を抜いて自然な感じでいいと思うんですよ。
──「自然」ですか。
私は彼らの取る行動が理解できたとしても、普段接していない人からすれば突拍子もないことの連続ですよね。たとえば兄が大声をあげたとして、それに驚いたり「うるさいな、嫌だな」と感じるのが当然です。
彼らのことを広く理解してほしいという思いつつも、「私は単に兄が嫌な目にあうのが悲しいだけであって、これを短絡的に“差別”と呼ぶのは違うな」と思うんです。
障がいや性差などさまざまな違いを越えて、みんなにとっての最適解をともに考えていくためには、どう努力すればいいのだろうかーー。
そんな問いに答えてくれたのが、大学院時代に専門としていた学習環境デザインであり、ワークショップデザインやインクルーシブ(多様性を受け入れる)デザインです。
──どんなことを学ばれたのでしょうか。
大学院では、知的発達障がいのある子どもたちが、定型発達の子どもたちと一緒に参加する造形ワークショップの研究を行いました。ワークショップのなかで、実際にどんなコミュニケーションが交わされるのか、何をきっかけに子どもたちが活発に関わり合うのかを観察するんです。
遊ぶように関わるワークショップを通じて、さまざまな特徴を持った者同士がお互いの気づきを共有し、対等な関係をつくる。そしてワークショップ以外の場でも関係が続いたら理想だなと感じます。
京都造形芸術大学など、大学の非常勤講師や研究指導アシスタントとして学生の研究をサポートすることも。

社会起業家こそNPで発信を

──メールで取材依頼をしたとき、山田さんは「一時期あまりコメントしなくなって、ごめんなさい」っておっしゃってましたね。その要因とは?
ひとつには、アウトプットする場所がNewsPicksでなくてもよくなってきたな、と。ニュースに対するコメント以外のこともアウトプットしたくなったとき、自分の中でNewsPicksを使う優先度が下がった気がします。
ただ、NewsPicksで書きためた自分のコメントを読み返したくなって、気づけばまた戻って来たんですが(笑)。
──特に山田さんの場合は、もともとツイッターなどのSNSで発信されていて、NewsPicksにこだわる理由がないのかもしれませんね。
NewsPicksで書きたいと思うのは「このニュースに関しては、ほかの人より私は少しよく知っているぞ」と、ちょっと主張したいときですね。
自分と同じように、ソーシャルスタートアップを手がける人には、このサービスを進めたいです。
この領域やNPOって、やっぱりコミュニティが狭くて小さい。いつも関わる人が同じになって、それ以外の人の声が拾いにくくなってしまう。
外を見回せば、私たちの活動に興味を持ってくれる人がまだまだいて、応援したいと思ってくれる方もいるかもしれない。そしてコミュニティが違うからこそ、そこに飛び込んでいけたら、私自身のこともまた異なる角度から見直せるんじゃないかとも思うんです。

インクルーシブなリーダーを育てたい

──山田さんとしても、コラブルとしても、活動領域が広がっていますね。
企業の商品開発や研修でも「ワークショップをやってほしい」というご要望をいただくようになりました。
たとえば、街も属性の異なる人の集まりです。子育て中の方もいれば、子どもが巣立った後のご夫妻もいる。そこで何かのしかけや、環境づくりをしておけたら、面白い関係性がつくれると思うのです。
その一例として、つくばエクスプレス沿線の「柏の葉キャンパス」駅周辺で展開しているアートプログラム「ピノキオプロジェクト」があります。この10年で急速に発展した新しい街ですが、子どもたちを街全体で育てようと、お仕事体験プロジェクトをやっています。一緒にプロジェクトをやっているのは、高校生からお孫さんがいる年代の方まで、多世代の方とつくっています。
そしてまた、会社という組織も多様な人の集まりですよね。
「ヒューマンヘルスケア」を理念に掲げる製薬会社のエーザイさんとは、インクルーシブデザインを用いた新社員研修づくりをしています。単に多様な人と一緒に働くことを目指すのではなく、多様な価値観を持つ人といかに違いをすり合わせ、手を携えて、新たな価値を生み出すか。私たちがこれまで培ってきた、ワークショップのノウハウを取り入れていただいています。
子どもの学習環境をデザインするワークショップCollable Kids Museumのひとコマ。「子どもたちが自由に何かを作り出し、人と協力しあうのを楽しめる“教室と公園のあいだ”のような場をめざしています」(山田さん)

──これから取り組みたいことは?
2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催に向けて、日本全体がインクルーシブな方向に舵を切るなかで、私たちがお役に立てる機会は増えるだろうと思います。
それに向けて、コミュニティのケアができて、ワークショップなど活動のデザインやファシリテーションが考えられるような人材を育成できるようになりたいです。
これからの時代のコミュニティには、ぐいぐい引っ張っていく強いリーダーだけでなく、多様な背景や能力、異なる意見を持つ人を巻き込んでいけるリーダーが求められるでしょう。
いかにしてインクルーシブなリーダーシップを身につけられるか?そのためのワークショップや教育プログラムを考えていきたいですね。
緊張しあっている者同士でも、一緒に少し手を動かすだけで、緊張がふっと溶けるような瞬間ってあるんですよ。
最初はコミュニケーションがぎこちなくても、少しワークをするとなんとなく親しくなれる、そんな企画はこれからも考えていきたいです。
──山田さんのワークショップって、何人いればできますか?
うーん、10人いればできるかな…?
──じゃあ10人集まったら、ワークショップする交流会をNewsPicksでもやりましょう!

山田さんのおすすめピッカー

NewsPicksで人気の医者さんピッカーさん。お人柄を感じさせる親しみやすい文体で、小林さんのコメントを読むとほっとします。
小売・流通関連のニュースでは、山手さんのコメントがないか探してしまうほど。圧倒的なコメント力で、いつも勉強になってます。
代表を務められるクラシコムの、急成長ではなくじんわりと温めていく経営スタイルに憧れています。インターンとして働かせてほしい(笑)

《参加者募集》「ワークショップデザイン」ピッカー交流会

5月11日(金)に東京・恵比寿で、ピッカーさんの懇親イベントを開催予定です。今回のテーマは「ワークショップデザイン」。初対面の人同士でも打ち解けやすくなる共同作業を、参加者の皆さんで体験いただきます。
後半は、ワークショップを実施する際のコツや、盛り上げるための秘訣について山田小百合さんに伺います。オリジナルでワークショップを作ってみたい方、この機会にほかのピッカーさんと交流してみたい方も大歓迎です。
【開催日】2018年5月11日(金)19:30〜 (19:15受付開始)
【開催場所】株式会社ニューズピックス オフィス(東京 恵比寿)
東京都渋谷区恵比寿1-18-14 恵比寿ファーストスクエア10F
【ご参加対象】
・地域や企業、学校などで講師をやる機会がある方
・単なるセミナーではなく対話型のプログラムを作ってみたい方
・ほかのピッカーさんとの懇親を楽しみたい方
【開催時間】
(19:15  受付開始)
19:30〜  みんなでワークショップをやってみよう
20:30〜 ワークショップを企画するには? 
     講師:山田小百合さん(Collable)
21:00〜 懇親会
【定員】30名
【参加費】無料
【注意事項】
※ご応募多数の場合は抽選となります。
※お申込みはお一人につき1回とさせていただきます。※申込時にご記入いただくアンケートの個人情報については、イベントの主催者である株式会社ニューズピックスが、個人情報取扱い規定にもとづき管理させていただきます。下記の内容を確認し、同意の上ご登録ください。
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