職場を監視するAI。士気向上につながるか

2018/3/8

社員の動向をAIで分析&予測

職場にAIが導入されると、何かと仕事が効率化されると言われる。
プロモーションを打つ際に、焦点を合わせるべき潜在顧客を特定したり、自社の商品の話題の盛り上がりが、本日は何時ころに起こりそうかが予測できたりする。
仕事をする身にとっては、とてつもない道具を手にした感があるだろう。
ところが、「職場のAI」と言った時には、もうひとつのAIがあることも忘れてはならない。それは、「職場をサーベイランス(監視する)」AIのことである。
管理職ならば、現場の状況がどうなっているのかをいつも知っておきたいだろう。
だが、大企業になればなるほど社員の動向が把握できなくなって、何らかの方法でテクノロジーに頼りたいという要求が出てくるはずだ。
データとAI による分析や予測に従って、社員の行動や生産性をチェックできないかというわけだ。
多くの大企業がサーベイランスAIを導入(写真:瀧口範子)
実は、そこを狙ってすでにいろいろな種類の職場サーベイランスAIが出現している。
これまで社員の動向をモニターするといった場合は、販売部の誰の売り上げが高いかとか、誰が書いた広告の評判がいいといった、人間が認識できる方法での実績や経験が対象になっていた。
ところが、ここへAIが入ってくると、人間では見落としてしまうことや目を向けてもいなかったことが浮かび上がってくる。
AIでも、かなり早くから職場に導入されたものは、社員による悪事を監視するタイプのもので、これは今でも広く使われているはずだ。
Slackでのやりとりから社員のセンチメントを計測するAirという会社(https://vibe.work/)のVibeというソフト(写真:Air提供)
メールのやりとり、ファイルへのアクセス、社内の特定の場所へ出入りしたなどの記録を総合して、社員の行動が軌道を外れているとか、不正に結びつきそうだといったことを見抜くのだ。
例えば、変なタイミングで大量のデータをダウンロードしているとか、談合につながりそうな気配があるといったことが、場合によってはリアルタイムでわかり、管理者にアラートが届く。

非生産的な動きを可視化

最近は、こうしたオンラインを中心にした行動だけではなく、実際にオフィス内で社員がどのように動いているのかを把握できるようにしたシステムもある。
ヒューマナイズというMIT出身者が創設した会社が提供するのは、高性能のセンサーがついたスマートIDバッジ。
これが取得するデータからは、社員がデスクに座っている時間、ミーティングをしている時間、休憩室でコーヒーを飲んでいる時間、話している相手などがわかる。
この手のもので、マイクロフォンをオンにして、会話の内容までモニターするものもある。
そのデータから、その社員の生産性を割り出したり、総合的に社内の人間関係のダイナミックスを知ったり、あるいは職場の物理的なデザインの障害などがわかったりするらしい。
例えば、仕事のできる誰かがもう一人の誰かと話し合うために、社内を長い時間をかけて頻繁に移動しているといった無駄がわかったり、人目につかないある部署は、生産性がパッとせず、他の社員との交流もない吹きだまり状態であるといったことが数字やビジュアルでわかったりするのだ。

レストラン業界でも導入?

この手のシステムは、何もホワイトカラーの職場に限ったものではなく、レストラン業界用にも開発されている。
客の支払いとウェイターやウェイトレスがレジスターに入れた額を比較するとか、皿の数が減っていないかといったことがわかる。レストランによっては、雇用人による悪事に悩まされているところも多いのだ。
このシステムではその上、ウェイトレスの動きと売り上げとの関係から、もっと高い料理を客に食べてもらうよう働きかけるべきだと、ウェイトレスにアドバイスすることが必要だといったことまで、管理職にわかる。
人間では細かに目が届かないところまで、AIならば見抜けるということだ。
社員の気分を計測するようなしくみもある。小刻みにアンケート調査を行って、社内や特定の部署の雰囲気を測るのだ。
もちろん、落ち込んでいる社員個人も特定できる。管理職や人事部が、この上司の下では不満が多いといったことがスクリーン上で透視できるようになるのだ。
社内の問題を早く見つけるには、いいツールと言える。

職場の士気は高まるのか

こうした職場サーベイランスAIを利用して、実際に職場の向上を図ることも可能だろう。
サーベイランスの結果、全社で15分のコーヒー休憩を同時に取るようにしたら、社内の風通しが良くなったという例もあるようだ。
何と言っても、社員の士気向上は会社全体の業績に反映する。AIがそれを手伝ってくれるというのならば、有益なツールだ。
ただ、こうした職場サーベイランスAIの行き過ぎを食い止める方法はあるのかどうかが、ちょっと心配なところだ。
社員をモニターする項目やその度合いがますます増していき、社員はプライバシーを危ぶまれるほどに監視されないとも限らない。
こうしたことは今後、就業規則の中で示される内容にもなるべきだろう。
それに、人情味あふれた上司が見守ってくれるのと、テクノロジーがサーベイランスする内容とは、おのずと異なっていてしかるべきだが、そんな人間味をなくさないようにする判断力を持ち続けられるかも、企業に問われることだ。
それにしても、誰もがAIに奪われない職を持ちたいと思うわけだが、その前にAIには監視不可能、予測不可能な働き方がしたいものだと考えてしまう。
*本連載は毎週木曜日に掲載予定です。
(文:瀧口範子、バナー写真:nd3000/iStock)