【ユーザベース】金融、商社出身者が語る。Slackで何が変わったのか

2018/2/24
大手金融機関、大手総合商社などを取引先とし、大手企業からの転職者も多いユーザベース。2016年から社内のビジネスコミュニケーションツールとしてSlackを全社で導入。Zendesk、Salesforceとも連携し、ビジネス上のインフラとしての活用も盛んだ。Slackの導入で企業コミュニケーションがどう変化したのか、インタビューをもとにリポートする。

一日の始まりはSlackから

ユーザベース SPEEDA事業担当 執行役員の太田智之の朝は、iPhoneでSlackをチェックすることから始まる。
「朝、ベッドの中でSlackを立ち上げ、重要チャンネルをざっと見るのが日課です。チャンネル、ダイレクトメッセージは合計すると100以上ありますが、最低限見なくてはいけないものだけチェックすればいい。優先順位がはっきりしていて、メールのように1通ごとに開く煩わしさもありません」と太田は語る。
外資系金融機関から転職して1年。多くの金融機関がそうであるように、前職ではすべてメールのやり取りが基本だった。
ユーザベースでは社内コミュニケーションは基本的にすべてSlackを利用する。転職当時こそ、慣れないチャットスタイルに戸惑ったが、そのメリットをすぐに納得したという。
「メールはいちいち開く手間だけでなく、メールグループのメンバーの把握、タイトルの記入やヘッダーのあいさつなど、余計な情報が多い。Slackはシンプルに目的のやりとりだけですむから、本当に楽ですね」(太田)

法人向けデータベースで急成長

太田が執行役員を務めるSPEEDA事業は、世界200カ国500万社以上のデータが約560業種に分類・分析されたデータベースを法人向けに提供している。例えばA社の過去10年の売上を調べようとすると、それにまつわる情報がすべてワンストップで入手でき、さまざまなサイトを調べる必要がない。
一般的なデータベースは情報が多くなるほど階層が複雑になり、使い勝手が悪くなるのに対して、検索機能に特化することで使いやすさを追求しているのがSPEEDAだ。
クライアントには情報プラットフォーム活用の多いコンサルティングファームや投資銀行、商業銀行などのプロファームのみならず、一般事業会社の多くも利用していることが特徴。国内時価総額トップ100社中、5割の大手企業が活用している。
シンガポール、香港、上海、スリランカなどの海外にも拠点があり、従業員数は332人(2018年2月時点、ユーザベース連結)で、ここ数年、毎年50人以上のペースで拡大している。
スタートアップ企業らしく、スピード感やフラットな社内コミュニケーションを重視してきた同社。企業規模が急拡大し、エンジニア、セールス、インサイドセールスなど、さまざまなチーム連携が必要となっていく中、最も効率的なコミュニケーションツールがSlackだった。

エンジニアが評価した豊富な外部APIとの連携

そもそものきっかけは2014年に、エンジニアチームが試験的に無料版を導入したことだった。それまでメールやほかのコミュニケーションツールを利用していたが、課題も多く、当時のCTO主導となり、ほかのアプリケーションとも連携しやすいツールとして使い始めた。
例えば、SlackとAPI連携することで、社外にいてもSlackを通じてサーバーにコマンドを送って、ウェブページの更新作業を行うこともできる。
そういった使い勝手のよさが認められ、その後、2016年に全社に社内コミュニケーションツールとして導入。多くのチャットツールと違いIDの検索や登録が不要、メンバーの管理が簡単で情報管理がしやすい点もビジネス向きだ。
2018年2月現在、ユーザベースではユーザー登録は520、社内ユーザーであれば自由に参加できるパブリックチャンネルは533に及ぶ。平均すると1日約1万1000件の投稿があり、すっかり同社の社内インフラとして定着している。
今では社内だけでなく、一緒にプロジェクトを進める社外メンバーにもSlackアカウントを付与して、コミュニケーションするケースが増えている。
ユーザベースのSlack使用状況を表したグラフ。平日約1万件の投稿がある

チーム間の効率的な連携でパフォーマンスを上げる

三菱商事から2014年に転職してきたSPEEDA日本事業COOの山中祐輝は、「チームごとのチャンネル、インサイドセールスやマーケティングなど複数の関連チームと連携したもの、さらにプロジェクトごとのチャンネルなど、目的別にやり取りするチャンネルが明確に設定されています。そのため、必要な情報がメールのように埋もれてしまうということがなく、確実にチェックできます」と、その利便性を語る。
例えば、SPEEDAではサポートデスクに問い合わせが入ると、30分以内に初期回答をするというルールがあり、サービスの生命線となっている。現在、すべての問い合わせはZendeskで一元管理しているが、ZendeskとSlackを連携することで、問い合わせがZendeskに入るとそのお知らせがSlackの特定のチャンネルに自動的に流れる仕組みだ。
また、様々な経路で入ってくる新規顧客からのトライアル申し込みは、Salesforceと連携することで業務フローに組み込まれているが、この情報もSlackとSalesforceを連携することでリアルタイムで入ってくる。
営業担当者は外出先にいても、隙間時間にスマホでSlackだけをチェックすれば、顧客からの問い合わせや、新規トライアル申し込みの状況を瞬時に把握できる。自分の担当するクライアントからの問い合わせであれば、サポートデスクに「こういう対応をしてほしい」という具体的な指示を伝えることもできる。
new-leadと名付けられたチャンネルは、Salesforceと連携しており、新しく入ったリード情報が自動的に流れてくる。注目すべきリードに対しては営業担当者とインサイドセール担当者がコメントを瞬時に交換できる
「これは、メールではできない動き。Slackの導入は、業務のパフォーマンスを最大限に引き上げてくれていると思います」と山中は語る。

誰と何の会話をする場かが明確なSlack

大手企業になるほど社内コミュニケーションにもメールを使っていることが多い。
実際、前職の投資銀行では、メール以外のツールなど考えられなかったという太田は「Slackではチャンネルごとに正しいメンバーと正しいアジェンダがあり、すでにコミュニティが醸成されています。その中でコミュニケーションできるので、発信するときのハードルが低く、意思決定のスピードも速い。インタラクティブなコミュニケーションには、最適ですね」と語る。
商社時代、エネルギー担当者として多くのプロジェクトを手がけてきた山中も、「社内メールはCCメンバーが多く、スレッドもどんどん長くなる。メールスレッド自体も乱立するので、そのうち誰がメンバーでそもそもどんな内容のやり取りをしていたのかも、わからなくなってしまうことがよくありました」と、メールコミュニケーションの難しさを語る。
その点、Slackは特定のチャンネルを作り、案件に関連するコミュニケーションを集約することで、常に最新の情報が素早くチェックできる。途中から参加したメンバーにとっては、過去の経緯をすべて共有できるというメリットもある。重要な情報はピンに留めておくことで、「ピン留めした情報を重点的にチェックする」といった活用もしやすい。
「社内業務の情報が1カ所に集約されることで、スピード感がアップし、コミュニケーションコストは格段に下がった」というのが、山中の実感だ。
「以前は、1時間のミーティングを終えてメールを見ると100件以上の未読メールがたまっていて必要なものと不要なものの仕分けが大変でした。社内の連絡をSlackに徹底したことで、読むべきメールが激減しました」(山中)
社内向けにメールしたつもりが、うっかり社外の人も入っていた。そんな経験のある人も少なくないはずだ。社内はSlack、社外はメールと明確な切り分けのおかげで、社内向けの内容を社外に送信してしまう、などのリスクも解消できている。

誰もが発言しやすいフラットな場

もう一つのSlackならではの利点は、そのフラットさ。チャット特有の気軽さは、メンバーがコメントしやすい空気となり、チャンネルにいる誰もが積極的に参加している。メールでは、CCメンバーが多くなるほど、時として発言しづらい雰囲気が生まれるのと対照的といえるだろう。
例えば、誰かに賛成するときはOKのスタンプを押すだけでもいい。営業メンバーが大型の受注を報告したり、何かの記念日には、「祝」スタンプがチャンネルのメンバーから集まり、お祝いムードが高まる。
スリランカオフィスの2周年記念の写真がアップされると、メンバーからお祝いのスタンプが
「おめでとうメールだと1対1が多いので、全体が盛り上がるということもないし、数が多くなるとうるさいもの。それに比べると、手軽に社内の一体感を盛り上げてくれて、雰囲気がよくなります」(太田)
Slackを導入してからの社内について、山中は「組織が軽くなった」と表現する。「明確な目的ごとに設定されたチャンネルで発信することで、それぞれの意見が埋もれることもなくなりました」(山中)

企業の根幹であるコミュニケーションを変えていく

多くの大企業は、これまでの慣習もあり、「ビジネスはメールが基本、チャットツールはプライベートで」が一般的だろう。
「『働き方改革』がこれだけ注目されている中、メールコミュニケーションでは効率化に限界がある」と山中。生産性アップには外部ツールを最大限活用することが不可欠。そのひとつの事例が、Slackをハブとしたコミュニケーションと言えるだろう。
一方で、企業にとってコミュニケーション手段はその企業の文化と深く結びついているのも事実だ。
大企業には大企業なりのカルチャーがあり、縦割りの組織や上下関係を認識したフォーマルなコミュニケーションを重視する傾向がある。
「Slackはみんなで会議をする仮想空間の場だと認識しています。立場は関係なく、フラットな議論が自由にできる企業文化があれば、Slackを便利に使えるのでは」と太田は語る。
社内コミュニケーションは企業の根幹をなすもの。今のやり方でうまく回っていると満足している企業であれば、コミュニケーションツールを変える必要はない。
しかし、激しい時代の変化への対応や新たな事業創出を求められている企業にとっては、新しいアイデアの創発、さらなる業務効率化は必至のはずだ。
Slackは、フラットなコミュニケーションでいつでも気軽にアイデアを出し合ったり、Zendesk、 Salesforceといったアプリケーションと連携することで業務を効率化するのにも役立つ。あらゆるビジネスのコミュニケーションプラットフォームとして、Slackがますます注目されていくだろう。
(取材:久川桃子、構成:工藤千秋、撮影:稲垣純也 デザイン:九喜洋介)