アジア最大の航空ショーで多数の企業が無人航空機(UAV)を披露した。シンガポールで開かれたこのショーで注目を集めたのは、ドローンとドローン撃退システムだ。

パイロットのいないジェット旅客機

アクロバット機が轟音を立てながら飛び回り、駐機場に展示された戦闘機やミサイルを、大勢の観衆が熱心に眺めている。巨大な洞窟のような展示ホールで開かれたアジア最大の航空ショーは、航空産業の未来を垣間見せてくれた。その最たるものがドローンだ。
メディア、軍事企業、それにマーケティング企業の幹部たちが詰めかけた会場で、ほぼどこを行っても目にしたのが、ドローン、すなわち無人航空機(UAV)だ。
グアムの米空軍基地から飛んできたノースロップ・グラマン製の巨大偵察機「グローバルホーク」から、地元シンガポールの新興企業エアロライオン(AeroLion)が開発した、GPSなしに地下のトンネルを飛行できるバッテリ駆動型の小型クアッドコプターまで、さまざまな用途のドローンが展示されていた。
とにかく、ほとんどすべてがドローン関連だった。
だが、大手航空機メーカーの幹部たちは、パイロットのいないジェット旅客機について、いまだに多くを語ろうとしない。操縦席に誰もいない飛行機に乗ることをほとんどの人が不安に思わなくなるまで、自律飛行旅客機が運航される日は当分来ないだろう。
ボーイングでリサーチおよびテクノロジー担当バイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーを務めるチャールズ・トープスは「ボーイングが自律飛行旅客機を飛ばせるようになるには多くの取り組みが必要であり、われわれの取り組みはまだ初期段階だ」と語る。
ボーイングは2017年12月、米海軍向けの巨大な無人空中給油機を初めて披露した。
しかし、多くの搭乗客を見込めない限り、航空機ビジネスに携わるすべての人にとって、次に取り組むべきは間違いなく各種のUAVだ。会場には、荷物の配達、4Kパノラマ動画の撮影、農薬の散布、通勤、近隣の調査、テロリストへの攻撃、消火活動など、さまざまな用途を謳うドローンが展示されていた。
「スカイウェイズ」という名のオクトコプターを展示したエアバスは、2018年前半にシンガポールで自動荷物配送システムのテストを始めることを明らかにしている。
「自律飛行システムは世界経済を根本的に変化させるだろう」と、経営コンサルティング企業のオリバー・ワイマンでパートナーを務めるギローム・チボルトは「The Autonomous Revolution - The Race Is On」(自律システムの革命 - 競争はすでに始まっている)と題するフォーラムで大勢の聴衆に向けて語っていた。

ドローン迎撃システムに集まる注目

このようなパイロットのいない飛行機について、多くの人が異口同音に話していたことがある。それは、空港の近くなどに突然飛来してきたUAVにどう対処するかということだ。
チボルトによれば、2015年には世界中で運行されていた航空機が3万2000機、消費者が購入したドローンが450万台だったという。毎日のようにメディアで報じられるニュースは「氷山の一角に過ぎない」とチボルトは述べている。
今回のショーを訪れた軍事関係者や一般市民のあいだでは「ドローンの大群(drone swarms)」というちょっと恐しげな言葉が好んで使われていた。ドローンの大群が野外のロックコンサートで夜空を照らしてくれれば楽しいかもしれないが、彼らが爆弾を積んでいるのであればそうも言っていられない。
2017年にタレス・グループに買収された英国企業のアベイラント(Aveillant)は、空飛ぶロボットの大群を懸念する人たちのために「ホログラフィックレーター」と呼ばれる監視装置の提供を始めた。
よくある回転式レーダーと違い、アベイラントのシステムは常時稼働する走査アレイを利用しており、5キロメートル離れた場所にある角砂糖サイズの物体を検知できるという。
TRDコンサルタンシーの「オリオン」はドローンを電子的に動作不能にできるライフル型装置
プライバシーに関する懸念が大きい人たちや、持ち運び可能な防犯機器を求める人たちの注目を集めたのは、シンガポール企業のTRDコンサルタンシーだ。同社は小さなブースに、不審なドローンを電子的に動作不能にできるというライフル型の装置を展示していた。
同社ビジネス開発ディレクターのベン・ヘンによると「オリオン」と呼ばれるこのシステムはUAVを動作不能にし、UAVは墜落するか出発地に引き返すかどちらかになる。
オリオンの価格は2万ドルほどだ。だが、この市場に参入する企業が増えているため、5年もすれば、ドローンを不能にする装置は最も人気の高いクリスマスプレゼントになるかもしれない。
今回の航空ショーでは、有人航空機と無人航空機の両方のために広大な専用スペースが用意され、新しい航空機の能力をデモンストレーションできるようになっていた。
自動車業界と同じく、航空宇宙業界も石油の利用を減らす方法に取り組んでおり、複数の企業が電気航空機やハイブリッド航空機を売り込んでいた。この手の航空機はたいてい垂直離陸が可能で、空飛ぶタクシーやビジネスジェットとしての利用が想定されている。

世界規模の「電子的なかくれんぼ」

ただし、ほとんどの企業の航空機はまだ計画段階にあるか、実物大の模型が作られているにすぎない。
英国を本拠とするサマド・エアロスペース(Samad Aerospace)は、「What's Next?」(次に来るものは?)と名付けられたセクションで、垂直離着陸機「スターリングジェット」の10分の1サイズの模型を展示していた。
サマド・エアロスペースが展示した垂直離着陸機「スターリングジェット」の模型
完成予定の機体は、10名の乗客を最大時速1000マイル(約1610キロメートル)で運ぶことができるという。同社のセイエド・モシェニ最高経営責任者(CEO)によれば、潜在的な顧客は「個人富裕層、政治家、大手企業など、ビジネスジェットやヘリコプターを自前で所有する個人や企業」だという。
同社は現在、ハイブリッド型のターボファン航空機や、積載量10キログラムのバッテリ駆動型UAVなど、3種類のモデルを開発している。
ホールの狭い一角にある新興企業向けのエリアでは、31歳のジョグジャマン・ジャプが新しいソリューションを展示していた。彼が代表を務めるスペクトロニック(Spectronik)は、小型の水素燃料電池を提供している企業だ。
この電池を使えば、通常のリチウムイオン電池のおよそ10倍の電力を小型のドローンに供給でき、充電にかかる時間も数分だという。「われわれは現在、自動車業界に向けて機能の向上に取り組んでいる」とジャプは語った。
スペクトロニックが提供するドローン向け小型水素燃料電池
一方、無人航空機の普及にともなって、監視システムやセキュリティシステムの市場が拡大する中、複数の企業が国境警備用に自社システムを売り込んでいた。
シンガポール政府系企業のSTエンジニアリングは、大勢の人で混み合う広大なブースで、問題は偵察機だけにとどまらないと訴えていた。同社が展示ホールの中央に展示していたのは、不審な人物や集団の侵入を防ぐフェンスだ。
今後は、このようなシステムがショーで展示されるのが当たり前になるだろう。金属フェンスで構成されたこの侵入防止システムは「アジャイルフェンス」(AgilFence)と呼ばれている。光ファイバーが張り巡らされており、不審者が侵入を試みたときその場所を正確に検知できるという。
しかし、さまざまなドローン撃退システムやサイバーセキュリティシステムが展示されたSTのブースの裏には、すべての人にとって身近になるであろう未来を垣間見せてくれる装置がひそかに置かれていた。
この装置は「ブラックコンピューター」と呼ばれており、「ランサムウェアなどあらゆる悪質な活動」を阻止できると同社は宣伝している。
どうやら「電子的なかくれんぼ」が世界規模で始まったようだ。
(協力)Kyunghee Park
原文はこちら(英語)。
(執筆:Adam Majendie記者、Krystal Chia記者、翻訳:佐藤卓/ガリレオ、写真:©2018 Bloomberg L.P
©2018 Bloomberg L.P
This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.