AIに取り組む博士人材は2万2000人

人工知能(AI)システムの構築方法を知る人材の獲得競争は激しいと、誰もが認めている。かつては落ち着いていた学会はいまや企業の求人担当者たちが熱狂的に集まる求人市場になり、トップクラスの研究者の給与は100万ドル以上に引き上げられた。
だが、AI人材が実際にどのくらい不足しているかは、これまで業界のちょっとした謎だった。
カナダのモントリオールを拠点とする新興企業エレメントAIは2017年、機械学習システムを構築するのに必要な専門知識を備えた人材は世界全体で1万人を下回ると推定した。この数字はメディアの記事や人材斡旋会社の間で広く言及されているが、エレメントAIがどうしてこう推測するに至ったかは不明だった。
中国の大手インターネット企業、テンセント・ホールディングス(騰訊)は2017年12月に世界のAI人材について独自の推定値を発表し、AIの研究者や業界の専門家はもっと多い20万~30万人だと試算した。
どちらが正しいのだろうか──。
答えは、企業が独自のAIやデータサイエンスチームを構築しようとしているのか、あるいはコンサルタント企業やサードパーティと契約してAIベースの自社向けソリューションを開発しようとしているのかで違ってくる。そしてその答えは、AI専門家が要求できる給与にも影響する。
エレメントAIはこのほど、算出方法について透明性をいくらか高めたうえで新たな推定値を出し、論争に再び加わった。2月7日付で発表されたレポートによると、博士課程を修了してAIに取り組む研究者は約2万2000人で、そのうち約3000人が現在求職中だという。

欧州ではドイツが「隠れスポット」

エレメントAIは算出にあたって、2015年以降に博士号を取得し、ディープラーニングや人工ニューラルネットワーク、コンピュータービジョン、自然言語処理、ロボット工学といった専門用語がプロフィールに含まれている人材をリンクトインで探したと述べている。
また、基準を満たすには「Python」や「TensorFlow」「Theano」といったプログラミング言語でのコーディングスキルが必要だった。
それとは別に、AI研究の最先端にいて論文の発表や学会でのプレゼンを行なっている人材が約5000人いるとレポートには書かれている。
「2015年以降に博士号取得」という制限をなくしたとしても、適切なスキルを備えた人材は世界全体でせいぜい9万人だという。これは、他の推定値よりもかなり多いが、テンセントの推定値をまだはるかに下回っている。
エレメントAIによると、「1万人未満」という以前の概算値は、過去7年間にAI関係の学会で活動的だった人物の検索だけに基づいていたという。
エレメントAIは自社の独自データについて、欧米の英語ソースに偏っており、とくに同社の算定方法が当てはまらない可能性がある中国や日本のような国に専門家がいるかもしれないと認めている。
AI人材が世界で最も多い国は米国で、英国とカナダがその後を追っているとレポートには書かれている。欧州ではドイツにAI専門家がかなりおり、おそらく求人の「隠れスポット」であることがわかった。

AI関連分野を教える大学の増加

AI人材を実際よりも少なく見せる動機があっても不思議ではない。
エレメントAIにとっては、潜在顧客にグーグルやフェイスブックでなければ最高レベルのAIスキルを備えた社内チームは雇用できないと思ってもらえば、同社サービスの魅力が高まるかもしれないからだ。
だが、エレメントAIの共同創設者でもあるジャン=フランソワ・ガニエCEOによると、同社の意図は人材不足がどれほど深刻かを示して、政府や大学が人材養成にもっと努力を傾けるようしてもらうことにあるという。
「人材不足は事実だ」と同CEOは述べ、人材不足がエレメントAIの成長力に歯止めをかける働きもしていると指摘した。
学部課程や修士課程でデータサイエンスやAIソリューションの構築方法を教える大学が増えてきているので、人材不足は徐々に緩和するだろうとガニエCEOは語る。
だが、そうしたプログラムが人材不足を緩和するまでには、最低でも3〜4年は掛かるとのことだ。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Jeremy Kahn記者、翻訳:矢倉美登里/ガリレオ、写真:JIRAROJ PRADITCHAROENKUL/iStock)
©2018 Bloomberg L.P
This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.