「Strive for Growth. Lead Asia. Delight the World.」というビジョンを掲げ、積極的に海外展開を進めているYCP。その特色は、提言だけではなく、一緒にやっていくという点にある。例えば、海外に展開したい小売業の企業に対して、どこに店舗を出すか?人はどうやって採用するのか?原料はどう調達するのか?それらすべて一緒にやっていく。半年前にシンガポールに赴任し、初めての海外赴任を経験中の石﨑貴紘氏に、YCPのグローバルビジネスの最前線について聞いた。

キャリアの幅を広げるシンガポール赴任

――石﨑さんが海外に赴任することになった経緯から教えてください。
シンガポール赴任の話は、ディレクターに昇進してしばらくしてから、何の前触れもなく、突然にやってきました。前職のコンサルファームでは、事業再生や新規事業創出支援を経験し、YCPに入社してからは、お客様の中にどっぷり入り込んで、実行“支援”ではなく、実行そのものをするような仕事に従事しました。直近では、雑貨店のプロデュースを任され、マーケティングもやって、一方で戦略部分のみならずポスターやPOPをつくることまでして、どんどん自分のスキルセットが拡大していく実感を得ていたタイミングでの話でした。
英語があまり得意ではないということで、これまで唯一、正直に言えばあえて見ないようにしてきた海外経験という新しい武器がいきなり目の前に提示された感覚でした。YCPは、“このメンバーのキャリアを拡げるにはどうすれば良いか?”という目線でアサインメントを考えるという話を入社前に聞いていましたが、“本当に来るのか”といった驚きはありました。
シンガポールで仕事をすることは、絶対に面白いだろうなとは思うのですが、きっと相応の苦労も伴う。しかも、ただ飛び込んでチャレンジしてこいといった単純な話ではなく、YCPの海外オフィスでは自社事業であれば海外×経営、クライアント事業であれば海外×ハンズオンでのコンサルティングが求められることになります。でも、YCPに入ってからの私は、それこそ初めて経験することや刺激的な体験を重ねていたので、毎日が面白くて仕方がなかった。その状態を意思決定の軸にすると、必然的に“面白そう”という直感が優先されます。だから即答で引き受けていました。
一方で、「TOEIC900点は超えろ」という宿題も課され、着任するまでの一年ほどの期間で、日本でできる勉強は相当に積み重ねました。とはいえ、実際に赴任してみるとビジネスで求められる英語は別物でしたし、シンガポール特有の英語アクセントに慣れるにも大変でした。当初、苦労は絶えなかったのですが、仕事で英語を使い続けた結果、いつのまにか困らないくらいの英語力は身についていました。
石﨑貴紘
YCP Management Southeast Asia Pte.Ltd.
Director
早稲田大学法学部卒業後、プライスウォーターハウスクーパース株式会社に入社。事業再生サービス部門でバイオメーカー、音響機器メーカーなどを対象に、ハンズオンによる再生プロジェクトや事業再生計画策定に従事。その後、転職を果たしたICMGでは一般社団法人Japan Innovation Networkのアクセラレーターとして、大手AV機器メーカーや大手飲料メーカーなどに対し企業変革、および新規事業創出支援を行う。2015年、YCP Holdingsに参画。2017年にシンガポールへ。
――現地では、どのような業務に携わっているのですか。
シンガポールにおける私のミッションは自社事業、クライアント事業を含めて幅広いですが、例えば自社事業ではベビー向けスキンケアブランド『ALOBABY(アロベビー)』の海外展開、クライアント事業で言えば日本の調味料メーカーのシンガポール進出をハンズオンで支援をさせていただくといったような仕事を行っています。
YCPのスタンスとしては、海外進出を日本から後押しするだけでなく、それこそ、お客様の会社の海外事務所のリージョナルマネージャーのような立場でお付き合いをさせていただいています。
例えば、調味料メーカーの支援であれば、まずシンガポールの食卓にはどのような料理が並び、どのようなメーカーのどのような調味料が使われているのかといった市場調査から入って戦略を構築したうえで、販売する商品を決めて、商標登録して、小売店に掛け合って販路を開拓し、実際に現地で販売ができる状態にまで整えます。これらをYCPの知見を元に高い精度、かつスピード感を持って進めていくことがYCPの価値であると考えています。
シンガポールオフィスには日本人のTOPと私、現地採用の日本人とシンガポール人のディレクター、さらに数名の若手シンガポール人メンバーがいます。シンガポール人に向けたサービスや商品を売るときには、当然のことながらシンガポール人メンバーの現地人としての感覚が頼りになります。
日本でコンサルティングやマーケティングを実施する際に駆使してきた感覚とはまったく違います。例えば、シンガポールの食卓にどのような料理が並んでいるかリサーチできたとしても、そんなわずかな情報で戦えるわけがありません。シンガポールでは競合のシンガポール人が本気で考えてマーケティングをしているのですから、生半可な知識を持った日本人が乗り込んでいったところで成功できるほど世の中甘くはないということに、すぐに気が付きました。
だったら最初から、“わかるわけがない”と素直に認め、自分自身の手で成果をあげるのではなく、シンガポール人のメンバーが考えたプランを活用し、商品が売れるようにすると考えを切り替えました。そういった意味で、シンガポール人のメンバーが中心になって動いてもらう必要があるのですが、ただの丸投げではいけない。市場のことはシンガポール人のほうが理解が深いですが、一方で商品のこと、日本の調味料のこと、日本のお客様のことを正しく理解しているのは私ですから、自分の中にある情報やその前提条件をしっかり言語化しなくてはなりません。正確に伝えるためには、なんとなく頭の中にあることを言葉にして、さらにそれを英語化しなくてはいけない。
ここは日本で仕事をしているときより強く意識している部分ですし、そもそも英語力が不足していたので、苦労している部分でもあります。ディスカッションを重ねながら自分でフレームを考えて彼らに適切に動いてもらって、正しい情報を収集して正しいアウトプットを出してもらうという、そのプロセスに穴はないか?そこは押さえたうえで、あとは仲間を100%信じるという、そういったスタンスで仕事を進めていきます。
シンガポール人の仲間からすると、私自身が外国人だからわからないこと、できないことがあると自覚したうえで、唯一できることは頭を使ってPDCAをいかに早く回すこと、それからいかに効率をあげていくかを考えることだと思っております。

自社事業と同じ熱意でハンズオンでのコンサルティングを実施

――その調味料のビジネスは現在、どのようなフェーズを迎えているのですか。
赴任してから半年が経過し、販路の開拓が終了、まさにこれから販売がスタートするという段階に入っています。もちろん、ここでプロジェクトが終了という話ではなく、この先もずっと、お客様と一緒に事業を育成していきます。
先ほども申し上げたように、私たちは現地で自社事業も展開しているので、自社事業に向かうのと同じ熱意でお客様のビジネスにも取り組んでいます。“こうすれば絶対に売れます”ではなく、“自社だったらどうする?”と、自社事業と同じように考え、同じようなことをやるという姿勢を大切にしています。
“ここから先は私たちの仕事ではない”という線引きは一切しないし、必要なことであれば何だってします。自社事業とお客様の事業は本来、一緒であるべきというか、“自社事業は自分の仕事としてやる、でもお客様の事業は違う”というのは、すごく不誠実な気がするのです。自社事業と同じ熱意で向かうべきでしょう。
ここは苦労するというポイントを知っていますから、自社事業の知見はすべてお伝えします。実際に、現地でやってみなくてはわからないことはたくさんあります。一般的な資料にはよく“銀行口座は一週間で開設できます”とありますが、実際に一ヵ月はかかるし、取締役の住所を提出しなくてはならないということは、どこにも書いてありません。そういった実践的な知見もお客様に提供しています。
しかも、それは単なるデータや文字情報ではなく、手触り感のある知見ですから、それができるのもお客様からご評価いただいているポイントだと思っています。テーブルで資料を見ながら話している感覚ではなく、“一緒にあそこにいきましょうよ”という感覚ですね。私たちを信頼して一緒に前に進んでいける、そんなお客様とパートナーシップを組ませていただければ、お互いにシビれる経験になるのかなと思っています。
シンガポールオフィスでの様子

お客様と“同じ覚悟を持つ”というスタンス

――シンガポール以外の国においても、順調にビジネスは進んでいるようですね。
YCPのアジア展開は以前から順調に進んでいて、香港、上海、タイ、シンガポール、そして現在はベトナムと台湾にオフィス開設を進めている段階です。海外ビジネスで難しいのが、必ずしもどこかの国の成功例を横展開すればよいという話でもないという点にあります。宗教上の違いや、例えばインドネシアのように多くの小さな島が集まっているという地理的条件の違いなどによって大きく方法論が変わるため、“アジア・スタンダード”が確立しづらい。
ただ、一段抽象的に考えれば、現地メンバーと一緒にローカライズして進めていくとか、巨額投資で一気に進めるのではなく、日本企業が一歩一歩進んでいくようなパターンにおいて力を発揮する場合の方法論だとか、そういった共通項はあると思っています。そして何よりも、お客様と同じ覚悟を持って、共にビジネスを進めていくというスタンスは、YCPのアジア戦略のコアコンピタンスになるのではないかと思っています。
――石﨑さん自身がこの半年間で得たものはどういうものでしょう。
シンガポールに来るまで、目を閉じて見ないようにしていた海外経験という蓋を開けてみたら、想像以上に“できること”が増えたように思えます。
私たちのような“ゆとり世代”の人間って、人よりエラくなりたいとかスゴいと思われたいとかそういうものには興味がない代わりに、自分が好きなことが自由にできて、それが本当に世の中の役に立つということに価値を置く傾向があると思っています。でも、ただ自由にやりたいと言うだけではただのわがままで、それができる力を持っていることが求められると思っています。
スキルを磨いて、“できること”が増えていく、その延長線上に、自分にとって心地よい世界があるというか、選択肢を広げていって、そこから面白いものを選んでいきたいという意識があります。
そういった意味で、シンガポールのビジネスを経験することで殻を破ることができて、自分が好きなことが自由に選択できるフィールドが拡がったのかもしれません。今、目の前で、やりたいことの扉がたくさん開いている状態です。
同世代の方々で、仕事がつまらないと感じていたり、スキルだけを磨いて目的を失っていたり、あるいは逆に実現したいことはあるのにスキルを磨く場がなくて結果的に悔しい思いをしている人がいたとしたら、それはものすごくもったいない気がします。YCPには殻を破り、新しい可能性の中に飛び出していくためのフィールドがあると信じています。
(インタビュー・文:伊藤秋廣[エーアイプロダクション]、写真:岡部敏明)