落合陽一、濱口秀司、も語る。東京モーターショーは「BEYOND」できたのか

2018/1/23
「BEYOND THE MOTOR」を掲げた東京モーターショー2017(2017年10月27日~11月5日)が閉幕して数カ月が過ぎた。改めて今回の東京モーターショーを、主催者テーマ展示「TOKYO CONNECTED LAB 2017」を中心に振り返る。

クルマの展示だけに頼らない

現在の東京モーターショーは、フラッグシップモデルやコンセプトカーを集めたクルマ好きのための展示会の要素が強い。自動車産業は超巨大なので、クルマ好きだけを満足させる作りでも、しばらくは数多くの入場者を集め、開催されるたびに話題となるだろう。
しかし、少子高齢化が進み、市場がシュリンクする日本のモーターショーはプレゼンスが低下していく。この悪循環が続けば、クルマ好きからも見放されてしまうだろう。
そうならないためにも、クルマの展示だけに頼らない東京モーターショーが必要になるはずだ。
東京モーターショー2017(2017年10月27日~11月5日)では、主催者テーマ展示の「TOKYO CONNECTED LAB 2017」にその萌芽が見られた。
これは、クルマが社会とつながることで、どのような新しい価値が生まれ、都市や暮らしが変わっていくのかを、分かりやすく体感できる参加型プログラムだ。
「THE FUTURE〜東京とモビリティの未来を描こう〜」「THE MAZE〜都市迷宮を突破せよ〜」「THE MEET UP〜モビリティの未来を語ろう〜」からなる3つのアトラクションで構成されており、自動車を取り巻く未来を垣間見ることができた。
(撮影:的野弘路)

ドーム型インタラクティブ展示「THE FUTURE」

「THE FUTURE〜東京とモビリティの未来を描こう〜」は、事前にスマートフォンでアンケートに答える。
SOCIAL GOOD:各種技術革新がもたらす、個人でなく社会全体へのベネフィットがある未来。
UNIVERSAL:テクノロジーの進化により、モビリティが現在よりも多くの人々に開かれ、誰でもモビリティにアクセスできる未来。
MOVE:自動運転の普及により移動そのものが効率化、活発化している未来。
DRIVE:社会が変わろうともモビリティを運転する喜びを、ドライバーにもたらせる未来。
PRIVATE:自動運転により、モビリティの運転行為から解放され、モビリティ内でよりプライベートな時間を楽しめる未来。
SHARE:一つのモビリティが多くの人々に使われることで、自動車の所有の概念が変わった未来。
以上6つから、自分がどういったモビリティの未来を望んでいるのかを知ることができる。
アンケートに答えた後は、ドーム型映像空間に入室。6つの未来からなる都市が360度映像で空間に映し出される。プロジェクションマッピングのような映像は目新しく、未来感を感じさせる作りだ。

新しいファン層出現の予感

会期終了後、THE FUTURE入場者数約7万人の内、アンケートに回答した1万8508人の結果を一般社団法人 日本自動車工業会が集計したところ、興味深い結果が出た。6つの未来のうち、「DRIVE」が39.3%、「SHARE」27.4%でほかの4つに大きく差をつけて1位、2位となった。年代別でもこの傾向に大きな差はなかった。
アンケート結果の提供:一般社団法人 日本自動車工業会
今回提示した6つの未来で、「DRIVE」と「SHARE」の2つが、他に大きく差をつけて1位、2位となった。この結果から、「走る楽しみだけでなく、モビリティの使い方にも興味関心を持っている」ことが見えてくる。ある種、自分が楽しいか、自分が便利か、をとことん追求しているように感じられる。
また、今回初めて東京モーターショーに来た人の結果では、「DRIVE」が35.3%なのに対し、「SHARE」が29.1%とその差は大きくない。男女で比較すると、「DRIVE」は男性44.0%に対し、女性30.4%、「SHARE」は男性25.2%に対し女性28.0%と、傾向が逆転している。
以上から、モーターショーに来ている人たちは、いわゆるモーターファンが依然として多く、結果も、DRIVEを志向する人が一番多かったと言える。一方で、モーターショーに初めて来た人はSHAREといったモビリティの新しい使い方に期待を寄せていることが分かる。

モビリティのサービスデザインが重要に

また、今までのモーターショーファンも、新しいモーターショーファンも、どちらもUNIVERSALを志向している人が一定数存在していた。
このことから、モビリティが交通弱者を助けるなど、社会に役立つべきである、という意識は全体を通底していることもうかがえる。モビリティのサービスデザインが今後ますます重要になると言えそうだ。
運転の新しい楽しみを追求する一方で、モビリティの新たな役割を期待し、模索している人々の様子が感じられる結果となった。
没入的な体験というと、ヘッドマウントディスプレーを用いたVRやARをイメージしがちだ。しかし、今回のTHE FUTUREのように、大きなドームで大人数が同時に没入的に体感できるというのも、来場者に新鮮に映ったに違いない。
右は直径30メートルのドームの中で大人数が同時に没入体験ができた「THE FUTURE」(撮影:的野弘路)

VR30台同時接続「THE MAZE」

「THE MAZE〜都市迷宮を突破せよ〜」では、コネクティッドカーが実現することで、どういった社会が実現するかをゲームで疑似体験。
最大30人が同じバーチャル空間で試乗体験できるネットワーク型VRシステムを使い、自動運転、車車・路車間通信などを経験するのだが、楽しみながらクルマがもたらす未来の社会を感じることができた。
30人が体験するだけでなく、来場者ともコネクトするように設計されていた。
VR体験といえば、楽しいのはゴーグルをつけている人だけで周囲の人は置いてきぼりにされがちだ。
しかし、今回のTHE MAZEでは、会場内のモニターにプレーヤーの視点などをリアルタイムに映し出し、ナビゲーターがガイドすることで、ゴーグルをつけていない人も楽しめた。
PlayStation VRのブルーライトが何層にも重なっているインパクトを、会場のどの方向から来ても感じられるように、レイアウト・デザイン・照明などがデザインされていた。
当日、会場で2時間先まで予約できるというシステムだったが、このデザインの効果もあり、新しい予約受け付けが始まった枠は瞬時に埋まるほどの人気ぶりだった。
コネクティッドカーはクルマやバイクなどのプロダクトだけではなく、「つながる」ことで街やライフスタイルを変えていく。しかし、本質的な意義は、人をサポートできることにある。「つながる」ことでモビリティそのものや街が、お互いに活性化するためのテクノロジーとして、今後は期待したい。

NewsPicks共催トークイベント「THE MEET UP」

最も興味深かったのは、「THE MEET UP〜モビリティの未来を語ろう〜」だ。
ここでは、さまざまな分野のトップランナーやトレンドリーダーが、「MOTOR×サイエンス」「MOTOR×エンターテインメント」「MOTOR×ライフスタイル」「MOTOR×都市」などをテーマに、自動車業界に期待することや次世代モビリティによって実現する未来の社会について語り合う講演を無料公開。NewsPicksアプリを通じて無料Live配信も行った。
開催を18時以降にすることで、会社帰りの社会人も参加しやすい配慮もうれしい(トークセッションの1日目のみ17時開催)。
この取り組みを知ったとき、フランクフルト・モーターショーで、メルセデス・ベンツとSXSW社が協力して開催した、「me Convention」が頭をよぎった。こういった取り組みは、東京モーターショーの新しい形を模索するひとつの方策だろう。
今回は、モビリティ系スタートアップのピッチコンテストも開催された。既存の考えに縛られない新しい技術やサービスを知ることができ、普段から感度が高いイノベーター層ならばかなり興味深いコンテストだったと思う。
また、参加したスタートアップにとっても、トヨタやホンダ、日産、三菱ふそうといった自動車メーカーの担当者やイノベーター、ベンチャーサポート企業などからなる審査員にプレゼンするので、またとないアピールチャンスだっただろう。
こういったスタートアップが、ピッチイベントだけでなく、企業として数多く出展するようになれば、クルマ好き以外の層も取り込むことができるのではないだろうか。
ちなみに、ピッチコンテストで優勝したのは、遠隔でエンジンを停止することができる独自のIoT技術を活用したFinTechサービスを提供しているスタートアップ「Global Mobility Service」だ。
2017年の東京モーターショーのテーマは、『BEYOND THE MOTOR』だった。今ある自動車や自動車社会を超えて、その先にある世界を見据えるといったところだろう。
このテーマ通り、「TOKYO CONNECTED LAB 2017」などに、これからのモーターショーが進むべき方向性の一端が見られたような気がする。
ワールドプレミアやフラッグシップカーなどの展示も重要ではあるが、クルマが創り出す社会や人々の暮らしという視点でさまざまな取り組みができれば、規模にとらわれることのない、「東京」ならではの強みを持った意味のあるモーターショーにできるのではないだろうか。
THE MEET UPでも出演した、筑波大学学長補佐の落合陽一氏、ビジネスデザイナーの濱口秀司氏からも東京モーターショーに対してのコメントを寄せてもらった。
(執筆:笹林司、久川桃子 撮影:笹林司、飯本貴子、的野弘路)