最高に似合うシャツを選んでくれる「AIスタイリスト」

2017/12/21

「サイズは合うだろうか」を解決

ファッション製品をオンラインで買うことが多くなったが、いつも付きまとう小さな不安が、「サイズは合うだろうか」だ。
いつも着ているおなじみのブランドならばまだ安心だが、「とてもすてきな服だから買いたいけれど、このブランドは初めて。大丈夫かなあ」と思うこともよくある。手にするまで最終的にはぴったり合うかどうかがわからない、というのが、ファッションのオンラインショッピングのボトルネックだ。
ところが、これをAIが解決してくれるとすればどうだろうか。
すでに、そうしたAIを開発しているのが、オリジナル・ステッチというカスタムシャツのオンラインショップだ。
サンフランシスコを拠点にする同社は、昨今流行の、ちょっとおしゃれなカスタムシャツを自分でデザインできるツールを提供している。
生地だけでなく、襟の柄や首回りの裏地、ボタンを選んだりがクリックひとつで可能で、自分でシャツをデザインする楽しさも味わえる。

体の寸法をAIが計測

同社が公開しているのが、「ボディグラム」というしくみだ。このシステムは、AIがシャツの画像から寸法を割り出してしまうというもの。
つまり、自分の体にぴったりで、これと同じ寸法で注文したいという場合に、そのシャツを写真に撮り、オリジナル・ステッチに送れば、着丈、袖丈、首回り、肩幅などの寸法をAIが計測して数字にして送り返してくれるのだ。
注文する際には、その数字を入力する。
私も、試しにシャツの写真を送ってみたところ、「24時間以内に」と表示されていた通り、翌日の同じ時間までに寸法が届いた。
ボディグラムによる、シャツの採寸
シャツの上にレターサイズの紙を置くことになっているのだが、それが他の寸法を割り出す目安になるのだろう。胸回り、腰回り、腕回り、手首回りも含め、フィットするシャツの注文に必要な数字が画像の上にレイヤーされて返送されてきた。
オリジナル・ステッチは縫製を日本で行うことを売りとしていて、優れた技術で仕上げられたシャツが手頃な値段でオンラインショッピングできる。注文したシャツが海を越えた外国で縫われても、AIがフィット感の心配を和らげてくれるというわけだ。

肌や髪の色から似合う色を選別

サイズが合うかどうかと共に、「そもそも似合うのか」も、オンラインで服を買う際に頭をよぎるもう一つの不安だろう。スクリーン上のモデルなら何でも似合うだろうが、その気になって買ってみたらただの失敗、というのは誰にでも経験がある。
実は、そんな不安もAIが解決しようとしている。
現在はまだベータ版だが、オリジナル・ステッチが開発したのは、そのユーザーの肌のトーンや髪の長さなどによって似合うシャツの色を選んでくれるAI、「スタイルボット」である。
これは、iOSのアプリとして提供されているもの。自分の顔や手首の内側の写真を撮影すれば、AIが認識してぴったりな色合いをいくつか並べてくれるのだ。
もちろん、色には個人の趣味があるだろうから、スタイルボットが選んでくれたものが必ずしも好みに合うとは限らないだろう。
だが、おそらくシャツの専門家であるオリジナル・ステッチのアルゴリズムによって、これまでの多くの経験値やセンスを基にした「こんな顔色のこんな雰囲気の人には、この色がいい」というお薦めを目にするのも悪いものではないはずだ。
一緒に買い物に行った友人が、「こっちの色の方がいいんじゃないの?」などと言ってくれるのに、時には納得することもあるだろうし、意外なものを指さされてファッションの新境地が開ける可能性も無きにしもあらず、だ。

人間のよきコンパニオンとして

それにしても、こんなところにもAIが使えるのかと感心する。
実は、寸法を採ってくれるボディグラムも、シャツの置き方や画像の見え方によっては最良のフィットサイズを表示してくれないこともあるようだ。
だが、ちょっと結果が見えなくて不安だけれども、どうしようもないといったところに、AIが解決策を持ち込んでくれるのだ。
AIが職を奪う、AIが人類を滅ぼすといった大掛かりな議論は別として、こうしたちょっとしたAI がこれから無数に出てくるのだろう。
AI開発者にとって成功の鍵となるのは、ちょっとだけ届かないところに代わりに手を伸ばしてくれる、人間のコンパニオンのようなAI観があるかどうかだろう。
*本連載は毎週木曜日に掲載予定です。
(文:瀧口範子、バナー写真:vtmila/iStock)