ドイツを本拠とする、ヨーロッパ最大の経営戦略コンサルティング会社、ローランド・ベルガー。その日本法人が、モノ作りに強みを持ったスタートアップ9社との協業を加速させている。最新テクノロジーを有する企業と協業することで、新しいソリューションを提供できるだけでなく、スタートアップのスピード感で大企業の意思決定にイノベーションを起こそうとしているのだ。同社パートナーの中野大亮氏と、提携企業に出向しているシニアコンサルタントの澄川清人氏に、その全貌を聞いた。
コンサル業界に起きている変化
未来構想センター ヘッド パートナー 中野大亮
現在、ローランド・ベルガーは、9社のスタートアップと提携し、協業しています。その根底にあるのは、コンサルティングビジネスは変化しないと衰退するという強い危機感。
この業界を振り返ると、90年代から2000年初頭にかけて、MBA卒業者がコンサルファームに入り、いわゆる戦略立案を当たり前にしてきた歴史があります。たとえば、マーケティングの4Pや、バリューチェーンのフレームワークがそれにあたり、価値を発揮してきました。
しかし、2000年以降、MBA卒業者はクライアント企業にもいますし、EXコンサルと呼ばれる元コンサルタントが事業会社に転職するなど、環境は成熟してきました。そこで、コンサルの価値を刷新していく必要がでてきたのです。
こうした状況下で、あるファームはコンサルタントをクライアントに派遣して長くお付き合いする道を築いたり、またあるファームはシステムソリューションを提供するモデルに変化したりと、それぞれに形を変えてきました。その中で私たちは、製造業にフォーカスした道を歩んできた。
ただ、よりコンサルティングビジネス自体が変化し、さらに価値を高めなければ、産業が衰退してしまう可能性があります。私たちがフォーカスしている日本の製造業も、グローバルで勝つためには、旧来の「作って売る」ビジネスモデルから、脱皮しないといけません。
そこに必要なのは、新しいテクノロジーや新しいビジネスモデルを取り入れて、製造業に新たな価値を付け加えていくこと。
既存のビジネスに新しいテクノロジーを掛け合わせたら何ができるのか、私たち自身が先端技術をスピーディーに提案し、実行する仕組みを持つために、スタートアップ企業との協業を始めたのです。
大企業の意思決定のスピードが変わる
現在、弊社が提携しているのは、日本を代表する「モノ作り企業」にとって、有益なテクノロジーや機能を有している9社の企業。なかでもAR/VRやイノベーションデータなど、先端技術・先端情報を持つ企業と提携したことで、提案の幅が格段に増えたことを実感しています。
これまでは、大企業に対して新規事業を提案するとき、画期的な新規性、意外性はなかなか打ち出せずにいました。
しかし、イノベーションデータを有する企業と提携したことによって、まだ世の中にない潜在的なビジネスモデルや、意外性がありながらも技術的な実現性を有する事業を具体的に提案できるようになったのです。
机上の空論ではなく、実際のモデルを見せることで、大企業の意思決定スピードは格段に上がりましたね。本質的な顧客課題を解決するために、これまでのあり方にメスを入れる、新しいことにチャレンジする機運が高まったと思います。
従来とは異なるものづくり・売り方・アフターサービスの仕方などが変容するようになれば、日本の製造業そのものが新しい姿へと脱皮する契機になるはず。それが我々の新しい価値となり、社会の変革につながると考えています。
個の強みを増やし、価値を高める生き方へ
現在、提携したスタートアップ企業に弊社のコンサルタントが出向しているのですが、これはコンサルタントのキャリアとしても、非常に有益なことです。
コンサルティングとは文化や強みの違う業態に身を置き、自分の武器を増やしたうえで、コンサルティングビジネスができるのはとても強い。違う思考、視点を持てるのは、私からしてもうらやましいです。
これからは、一人ひとりが違う強みを持ち、ネットワークでつながり戦っていく時代です。もちろんそれは、社内だけでなく、外の人とつながっていくことが前提。
瞬時につながり、集まって、何か新しい価値を生み出す構造を、ローランド・ベルガーで作りたい。スタートアップとの提携で見えてきた、新しいコンサルティングビジネスの在り方と、コンサルタントの新しい生き方。長年模索していた問いへの答えが、見つかったのかなと思っています。
自分の可能性を広げるために出向を志願
シニアコンサルタント 澄川清人(エクサウィザーズ ソリューション事業部長 出向)
私は1年間の出向契約で、当社が協業しているエクサウィザーズに出向しています。
きっかけは、自分の可能性を広げたい、強みとなる柱を増やしたいと思ったこと。前職の自動車メーカーで培った、「生産性向上」と「自動車」という2つの柱は持っていましたが、同じような強みを持つ人はごまんといます。
そこにもう一つの柱を持ちたいと考えていたときに聞いたのが、「AI技術を持つ企業に出向できる」という話でした。そこに行けば、自分の価値を高められるのではないかと、社長に出向希望を伝えた結果、2017年3月からの出向が決まったのです。
エクサウィザーズは、元ディー・エヌ・エー会長の春田真氏が率いる「AIの利活用・普及」を目指す企業です。ここでの私のミッションは2つあります。1つは世の中にAIサービスを普及させること。そこで作ったのがAI技術のプラットフォームです。
世の中にあるAI技術のプラットフォームの多くはエンジニア向けのため、経営、企画マーケ、管理職にはなかなか理解できるものではありません。しかし、AI技術を導入したい企画者や、その意思決定をする経営者が理解できなければ、ビジネスで活用されにくい。
そこで、非エンジニアが理解できるAI技術のプラットフォームをつくりました。活用シーン別で技術や事例を探せるため、実際の営業活動でも役立っています。
スタートアップの新規事業で、大手製造業を変える
そして、もう一つのミッションは、教育サービスを立ち上げること。「AIを使って何かしたい」というニーズは多いものの、「実際、何ができるのかよくわからない」という声が非常に多いのが現状です。そこでAIを理解するための教育サービスを立ち上げました。
基礎コースでは、講義形式でAIに関する基礎知識やビジネスに活用した事例をレクチャー。そのうえで、会社にはどんな課題があり、それをAIでどう解決するかを考える、利活用のためのディスカッションの場を設けました。
実際、基礎コースを受講された道路関連の事業を行う企業と、AI利活用のためのディスカッション後に、道路検査にAIを取り入れることが決定。目視で行っていた検査を画像認識のAIに置き換えたことで、工数が大きく削減できたうえに、常時検査が可能となったのです。
そして、応用編では演習を、実践編になるとAIエンジニアとして自ら開発できるようなカリキュラムを用意。まだ始まったばっかりのサービスですが、すでに数社が受講しており、かなり多くのお問い合わせをいただいています。
この他、HRテック領域の開発も進めており、AIを使ったコーチングなど、採用に留まらず、能力開発(研修)・評価・配置まで、人事業務をAIを活用し支援するサービス開発を進めているところです。
やりたいことに挑戦できるから、強みを増やせる
ローランド・ベルガーを離れ、スタートアップに出向したことで、この協業はいかにお互いにとってメリットが大きいかを実感しています。
ローランド・ベルガーは、AIやVRなどさまざまな最新技術に対する知見を得ることで、戦略立案や提案に深みが増す。スタートアップは、ローランド・ベルガーが持つ知見を得ることで、新しい視点から新規事業が生まれ、ビジネスが広がっている。
だからこそ、1年間の出向期間が終わったら、出向先で得た知識や経験は、しっかりとローランド・ベルガーに還元していきたいと考えています。そして、残りの出向期間で、両社に関わる働き方ができる土台を、構築しようと思っています。
こうして私が出向できたのも、ローランド・ベルガーは、やりたいことにチャレンジさせてくれる社風があるから。しかも、今はないプロジェクトでも、「自分はこういうことをやりたい」と声を上げれば、社長が環境を作るほどです。
つい先日も、社長との共同執筆で本を書けることになったのですが、これも、「本を書きたい人は手を挙げて」と言われたときに、すかさず立候補したから。自分次第で、いくらでも自分の武器となる強みを増やせる環境は、本当にありがたいと思っています。
ですから、今はやりたいことがはっきりしていなくても、いろんなことに挑戦したいと思うなら、ぜひ当社に来て欲しい。その挑戦を通して強みを増やし、自分の新たな可能性に出会ってみませんか。
(取材・文:田村朋美、撮影:須田卓馬)