eスポーツと呼ばれるビデオゲームの競技は今や、2000万ドルのフランチャイズ料やトレーニング施設、外部資本が必要な世界だ。

次なる人気プロスポーツと期待

ノア・ウィンストンは多忙な若者だ。大学を中退した23歳で、新設された国際ビデオゲームリーグのチームオーナーになった。ジャンク債の帝王として名を馳せたマイケル・ミルケンや億万長者フィル・アンシュッツのAEGといった出資者から、すでに数千万ドルを調達している。
ウィンストンのチーム「ロサンゼルス・バリアント(Los Angeles Valiant)」は12月、ビデオゲーム大手アクティビジョン・ブリザードが主催する「オーバーウォッチリーグ」の1シーズン目に参戦する。ウィンストンと出資者たちは、アクティビジョンに2000万ドルを支払ってフランチャイズ権を獲得した。
eスポーツと呼ばれるビデオゲームの競技は、次なる人気プロスポーツとして期待されている。
ビデオゲームの競技自体は、1970年代から存在する。当時と今の違いは、若者たちがフットボールやバスケットボールなど伝統的なスポーツをあまり見なくなり、ゲーム機やタブレットに長時間かじりついていることだ。
そのためアクティビジョンのような企業は、自社ゲームのライブイベントや放映を自然な流れととらえ、メディアや金融、スポーツ関連の大手企業に参加を呼び掛けている。カリフォルニア州サンタモニカに本社を置くアクティビジョンは、オーバーウォッチリーグのフランチャイズ権販売で2億4000万ドルを調達している。
このリーグでは、1年余り前に発売された漫画風のシューティングゲーム「オーバーウォッチ」をプレイする。

めまぐるしい変化に脱落者も

中国のインターネット大手テンセントの傘下にあるライアットゲームズも11月、「リーグ・オブ・レジェンド北米チャンピオンシップ」新シーズンのフランチャイズ10チームを発表した。フランチャイズ料は1000万ドルからだ。
マテルの元幹部で、自らのチームがリーグ・オブ・レジェンドに参加する権利を獲得したブルース・スタインは「誰もが3億人のファン層に注目し、ビジネスに生かす方法があるはずだと話している。人々とコンテンツの関わり方が一変すると、われわれは考えている」と述べる。
スタインの会社は、バスケットボールの大選手だったマジック・ジョンソンやウォルト・ディズニー・カンパニーから出資を受けた。
目まぐるしい変化について行くことができない者もいる。
ジェイソン・レイクは10月、14年前に設立した「コンプレクシティー・ゲーミング」の株式の過半数を「ダラス・カウボーイズ」のオーナー、ジェリー・ジョーンズと投資家のジョン・ゴフに売却した。売却価格は未公表だ。
つねにぎりぎり採算が合う状況で運営してきたが、2000万ドルというフランチャイズ料と専用のトレーニング施設のために外部資本が必要になったとレイクは説明する。
月収2500ドルだったプレイヤーたちは、10倍の報酬を提示されて、ほかのチームに引き抜かれたという。「われわれはファームチームに成り下がった」とレイクは話す。

賞金を稼いでいた高校時代

冒頭で紹介したウィンストンは、シカゴ郊外のエバンストンで生まれ育った。父親は経済学の教授で、母親は政治学を教えていた。
ウィンストンは高校生のとき、収入を得るためにオンラインポーカーを始め、「マジック:ザ・ギャザリング」のトレーディングカードを販売するビジネスを立ち上げた。
その後、「Vulcun」というウェブサイトを発見。そこでは、ファンたちがeスポーツチームをつくり、ファンタジースポーツと同じように賞金を稼いでいた。間もなく、ウィンストンの名前はリーダーボードのトップに躍り出た。
賭け事の合法性が問題となってVulcunは閉鎖したが、ウィンストンはその前にロサンゼルスのベンチャーキャピタリスト、クリントン・フォイを紹介された。
2人はeスポーツチーム「Team 8」を買収し、「Immortals」に改名。ライオンズゲートの幹部ピーター・レビン、ロックバンド「リンキン・パーク」と関連したベンチャーキャピタルファンドなど、複数の投資家から資金を調達した。
ウィンストンの父、マイケル・ウィンストンは現在、マサチューセッツ工科大学(MIT)で教えている。息子に大学を辞めさせないために夫妻で説得したが、今では息子の選択は正しかったと感じているそうだ。
「経済学者の立場から言えば、彼は市場テストに合格したということだ」

ビデオゲーム企業がスポンサーに

Immortalsは現在、バルブの「Dota 2」や任天堂の「ニンテンドウオールスター!大乱闘スマッシュブラザーズ」など、4つのゲームを戦うため複数チームを編成している。
今回、リーグ・オブ・レジェンドのフランチャイズ権は獲得できなかった。前シーズンは参戦し、今回も確実視されていたにもかかわらずだ。
ウィンストンはファン向けのビデオ声明で「私はうそをつかない。参戦を逃してしまい、落胆している。失恋にも近い気分だ」と述べた。
ライアットゲームズの幹部クリス・ホッパーは、ファンとのオンラインチャットで、選考基準については明言せず、「本当に難しい」決断だったとだけ語った。
eスポーツの収入源はチケット販売、企業スポンサー、チームのグッズ販売だ。
Immortalsのスポンサーは、ヒューレット・パッカード(HP)、椅子メーカーの「LFゲーミング」、マウスなどの周辺機器を販売するブラッディー・ゲーミングで、いずれもビデオゲームと関連した企業だ。
スタインの「Team Liquid」は、モンスター・ビバレッジをはじめとする12のスポンサーがウェブサイトに掲載されている。

選手たちは共同生活しながら練習

ウィンストンのチームは、マリナ・デル・レイのアパートに20人以上のプロ・プレイヤーを住まわせている。
プレイヤーたちはカルバーシティにあるキャンパスで午前10時から午後6時まで練習する。ガレージ風の「ポッド」がいくつか用意されており、プレイヤーたちはそこに入り、チーム内あるいは他チームのプレイヤーと対戦する。昼食と夕食は支給される。理学療法士とスポーツ心理士も待機している。
1850平方メートル余りの敷地に、eスポーツ初の独立型トレーニング施設がある。以前は、借り上げ住宅がトレーニング施設を兼ねており、ウィンストン自身も9人のプレイヤーと一緒に暮らしていた。「私も18カ月にわたって共同生活を送っていた」
オーバーウォッチリーグでは、アクティビジョンがカリフォルニア州バーバンクの映画館を貸し切り、そこで試合が行われる。
ウィンストンは、データと人の力を借りて、プレイヤーを選抜しているという。オーバーウォッチリーグのプレイヤーは、11人中8人が20歳以下。eスポーツの基準でも若いチームだ。
長老は「ナムロックト」の通称を持つ英国生まれのセブ・バートン(24歳)。感情をむき出しにするタイプで、好調なメンバーを鼓舞してくれるため、チームにとって重要な存在だと、ウィンストンは評価する。
「われわれは大物フリーエージェントと契約し、彼らを試合に送り出して成功を祈るだけのチームではない」とウィンストンは話す。「われわれはeスポーツ界の『ニューヨーク・ヤンキース』ではないし、そのようなチームを目指しているわけでもない」
(取材協力)Eben Novy-Williams
原文はこちら(英語)。
(執筆:Christopher Palmeri記者、翻訳:米井香織/ガリレオ、写真:photovibes/iStock)
©2017 Bloomberg News
This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with IBM.