(Bloomberg) -- 中国の台州銀行で行員研修を担うのは元軍人だ。人民解放軍で少なくとも5年の経験がなければ行員を教えることができない。UBSグループは中国の銀行237行の財務諸表を分析し、収益性と資産の質で、ほぼ無名のこの台州銀に勝る銀行はないと結論付けている。

台州銀はドイツのコンサルティング会社IPCが提案した貸し出しモデルを採用。中国東部の沿海地域にある浙江省の数千に及ぶ業種の中小企業が主な顧客だ。UBSで銀行分析を行った香港在勤アナリスト、ジェーソン・ベッドフォード氏は、台州銀がほぼ全ての測定基準で「突出していた」と言う。

上海から400キロ南の台州にフランクフルトのIPCからマイクロファイナンスの専門家イェルン・ヘルムス氏がやって来たのは2005年。台州銀にIPC式のリスクプロファイリング制度を根付かせたのが、同行が初めて採用した外国人である同氏だ。

ヘルムス氏(44)は「小企業の評価は難しく、小さな企業は高リスクだとの見方には同意できない」と述べる。台州銀が取り入れたのは「返済能力を測る体系的なアプローチ」だという。同氏はほぼ10年間、同行で働き、14年に副頭取のポストを退任。今は上海を拠点に台州銀のアドバイザーを務める。

大手行は小規模企業への融資に消極的で、本土内の世界的な銀行が関心を持つのは海外取引をしている企業であり富裕層だ。中国政府は銀行各行に融資を得るのが難しい企業への貸し出しを促し、規制から外れるシャドーバンキング(影の銀行)に貸し手も借り手も流れないよう取り組んでいる。

自動車メーカーの吉利汽車などが株主となっている台州銀の平均融資額は約5万ドル(約565万円)。それでいて昨年の株主資本利益率(ROE)は29%に上る。競合行は一般的に13%で、世界最大の銀行、中国工商銀行は15%だ。

IPC式の融資業務は人海戦術だ。台州銀の収益に対する費用の割合は36%と、業界平均の28%より高い。全行員1万人のうち、約4000人が顧客担当だ。黄軍民頭取(51)は「小さな企業を本当に理解していることがわれわれの強みだ。より良いサービスが提供できる」と話す。大きくなり過ぎた顧客企業には別の大手行に融資を頼むよう求めるのだという。

顧客担当者は一度に最大300ほどの借り手を抱え、顧客訪問を繰り返す。各支店は午前7時半に開店し、夏季の閉店時間は午後7時半だ。ライバル行の就業時間は通常、午前9時から午後5時までだ。顧客担当と窓口係は最大3カ月かけて仕事を学ぶ。新兵訓練のブートキャンプと大学が半々に入り混じったような行員研修は、欧米の銀行では聞いたことがない。

信用力を調べるため矢継ぎ早の質問を浴びせることがIPC式だ。ヘルムス氏によれば、多くの小企業には信頼できる記録がなく、借り手側の「うそや誇張、誤解」を探るのだという。「100%正確でなくていいが、判断に近づくため」の情報を得る必要があると同氏は指摘する。

融資するかどうかを決めるのが、借り手本人ではなく親族やその企業の社員からの話ということもある。借り手側に根掘り葉掘り尋ねる必要はあるものの、大半の中小企業は債務を返済するのだそうだ。借り手は「逃げやしない。リスクの低い商売だ」と語る。

原題:Drop And Gimme 20: Best Bank in China Uses Army Tactics to Excel(抜粋)

--取材協力: Mengchen Lu

: 東京 笠原文彦 fkasahara@bloomberg.net.

翻訳記事に関するエディターへの問い合わせ先 角田正美 mkakuta@bloomberg.net, 大久保義人 yokubo1@bloomberg.net.

記事に関する記者への問い合わせ先: 上海 Angus Whitley awhitley1@bloomberg.net, 香港 Alfred Liu aliu226@bloomberg.net, ロンドン Jun Luo jluo6@bloomberg.net.

記事についてのエディターへの問い合わせ先: Marcus Wright mwright115@bloomberg.net, Sheridan Prasso

©2017 Bloomberg L.P.