今回(11/1〜15)の注目点は、インドネシアで7-9月期の経済成長率(実質GDP成長率)であり、+5.1%と発表され、4-6月期の+5.0%から横ばいだった。また、タイ、マレーシア、フィリピンで金融政策決定会合が実施され、各中銀は政策金利を現状で据え置いた。このほか、シンガポールの小売売上高は季節要因を受けて7ヶ月ぶりのマイナスとなった。(末尾に11/1〜15のマクロ経済指標一覧、前回10/16-31リポート

インドネシア:経済成長は5%で横ばい続く

11月6日、7-9月期の経済成長率は前年同期比+5.1%と発表され、4-6月期の同+5.0%からほぼ横ばいとなった。
これを受けて国家経済開発庁長官は11月15日、2017年補正予算で示された年間+5.2%成長の達成は困難であると発言した。他方、中銀副総裁は10月末に、通年の経済成長率は+5.14〜5.17%程度との見方を示している。
寄与度ベースの内訳でみると、個人消費は+2.7%ptとなり、これまでと同水準が続いた。一方、企業による設備投資などを示す総固定資本形成は+2.3%ptと4-6月期の+1.7%ptから伸びた。
これに関して、別途発表された首都ジャカルタへの1-9月の投資額(実行ベース)は74兆8000億ルピア(約6272億円)と前年同期比+76%と大幅に伸び、活発な投資活動が行われていることが読み取れる。
外需部門は輸出が+3.4%ptと大きな寄与をしたが、輸入も▲2.7%ptとなり純輸出の寄与は+0.7%ptに留まった。政府消費は+0.3%ptとなり、前期の▲1.1%ptからプラスに転じた。
今後は、利下げによる景気刺激効果と、年末にかけて政府予算の執行率上昇がプラスに寄与する可能性に注目である。
また、インドネシア統計局は2017年8月時点のインドネシア人労働者の平均賃金は274万2,621(約2万3,000円)ルピアだったことを明らかにした。インドネシアでは毎年、地方自治体単位で最低賃金が改訂され、すでに一部の自治体で最低賃金が発表されており、年内には全て決定される予定である。
このほか、10月の自動車販売台数は9万4461台と発表され、前年同月比+2.5%となった。伸び悩む乗用車販売を好調な商用車販売が補う格好となった。

タイ:中銀は金利維持、景気は緩やかに回復

タイ中銀は11月8日、定例の金融政策決定会合を開催し、全会一致で政策金利を現状の1.50%で維持した。
同中銀はタイ経済は前回の会合の時期(9月27日)に比べると、財輸出と内需に支えられて経済成長のペースが加速しているとした上で、インフレ率はターゲットの2.5%±1.5%の範囲内で推移しており、現状の政策金利1.5%を維持するのが妥当と判断した。
加えて同中銀は、世界経済の力強い回復に伴って財輸出は成長しており、個人消費は全体として改善が続いているものの、低所得層の消費回復は遅く、また、中小企業が景気回復から十分な恩恵を受けていないとの認識を示した。
こうした中銀の認識を踏まえると、外部環境や大企業は良好だが、消費や中小企業については、本格的な加速がみられていないと言える。これに関して10月の消費者信頼感指数は76.7と3ヶ月の改善が続いたものの、楽観的とされる100を大幅に下回っている状況に変わりはなく、今後も、個人消費の動向を示す各指標には要注目だ。
10月の日経PMIと企業景況感指数は50.6と、9月の52.2よりも低下したが、プミポン前国王の葬儀や、大雨で一部地域が冠水した影響などの一時的な要素が強いとみられる。長期トレンドとして企業サイドの数値は緩やかではあるものの、「改善」を示す50を上回る状況が続き、こじっかりとした改善傾向にある。


マレーシア:中銀、経済好調との認識

マレーシア中銀は11月9日、定例の金融政策決定会合を開催し、政策金利を現状の3.00%で据え置いた。
同中銀は、内需と外需ともに強いパフォーマンスが続き、好調な輸出が賃金上昇などを通じて内需に良好な波及効果を及ぼしているとの認識を示した。また、インフラプロジェクトによって投資が高水準で継続されると見ている。
インフレ率は足元で前年同月比+4%を上回っているものの、2017年通年のターゲットである3.0〜4.0%の範囲内に収まるとして、中銀は政策金利を3.00%のまま維持した。
ペナンでは11月4〜5日に集中豪雨が発生し、死傷者が生じたほか、中小の約3000社が一時的な操業停止に追い込まれた。その後は、概ね再開している模様であり、マクロ経済に与える影響は限定的とみられる。

フィリピン:首都地下鉄計画に日本がODA供与

フィリピン中銀は11月9日、定例の金融政策決定会合を開催し、政策金利を現状の3.00%で維持した。
インフレ率は加速傾向が続いているが、通年ベースでは目標値3%±1%で2017〜18年は推移すると予想し、足元では+6%を超える高成長を維持しており、現状の政策金利3.00%は適切と判断して据え置いた。
11月13日、日比首脳会談で日本政府はフィリピンに対してマニラ首都圏の地下鉄建設計画に対して、2018年初に約1000億円のODA(政府開発援助)を円借款で供与すると発表した。
マニラ首都圏の交通渋滞は東南アジアで最悪とも言われ、経済的にもロスが大きいとみられおり、公共交通機関の改善等が求められていた。本件計画は2025年に開通を目指す予定である。

シンガポール:小売売上高を注視

9月の小売売上高は前年同月比▲0.5%と7ヶ月ぶりのマイナスとなった。
背景には季節要因があり、中元節(鬼節、ハングリー・ゴースト・フェスティバル)では自動車や不動産の購入を控えるという華人系国民の習慣が影響したとみられる。
中元節では家族が集まるシーズンでもあり、食品や日用品の需要増を背景にスーパーマーケットの業績は良好だったが、自動車や通信機器・コンピューターをはじめ軒並みマイナス成長となった。
小売売上高は長期トレンドをみると、足元ではやや弱含んでおり、今後の動向をよく注視すべきであろう。
好調なシンガポール経済を牽引する製造業については10月の日経PMIが54.2、製造業PMIが52.6と良好だった。

次回の注目点

次回のリポートは11月16〜30日を対象とし、タイ、フィリピン、マレーシア、シンガポールでは7-9月期の経済成長率が相次いで発表される予定だ(シンガポールは10月に速報値発表済み、今回は確定値が発表される)。このほか、ベトナムでは月末に集中してインフレ等の主要統計が発表される予定である。
(バナー写真:Tim Chong / EyeEm / Getty Images)