未来の巨大市場の片隅、シンガポールにあるコンクリート造りの倉庫から、中国の電子商取引最大手アリババ集団は打倒アマゾンの機をうかがっている。
蛍光灯に照らされた倉庫では、緑のベストを着た従業員たちがインターネットで注文を受けた果物やチーズなどの生鮮食品を丁寧に梱包している。
壁には過去に客から寄せられた苦情例をまとめた紙が貼られている。熟しすぎのアボカドに、悪臭のするホウレンソウ、傷んだメロン……。
「(サービスは)どんどん改善されている」と、シンガポールに本拠を置くアリババ系列のネット食料品店、レッドマートのビクラム・ルパニ社長は言う。「だが(改善の)プロセスに終わりはない」
 レッドマートの倉庫 (Lauryn Ishak/The New York Times)
アリババと米アマゾン・ドット・コムは、創業の地のネット小売市場ではすでにそれぞれ独占的な地位を築いている。
そして今では、米国でも中国でもない市場において両社の競争が激化しつつある。
どちらもアジア、特に東南アジアとインドへ多額の投資を行っている。中国が世界最大のネット通販市場へと急激な変貌を遂げたのと比肩するような、大きな変化を起こしたいと両社が狙う地域だ。
アマゾンの対インド投資額はこれまでに50億ドル。欧米の映画やテレビ番組も見られるサービス「アマゾン・プライム」の会員を増やすことを狙い、会費を米国(年99ドル)と比べぐっと低く抑える策にも出ている。
一方のアリババは、インドのモバイル決済最大手ペイティーエムと、その子会社で電子商取引を手がけるペイティーエム・モールに約5億ドルを出資している。
アリババが最も大型の投資をしたのは東南アジアで、20億ドル超を投じてシンガポールの電子商取引企業ラザダを買収した。ラザダは創業から5年、6カ国でビジネスを展開しており、昨年レッドマートを買収した。
(Todd Heisler/The New York Times) 
この地域では中産階級が成長を続ける一方で、ネットショッピングの利用も増えており、期待は高まる。
グーグルとシンガポールの政府系ファンド、テマセク・ホールディングスの試算によれば、2025年までに東南アジアにおける電子商取引の売上高は計880億ドルに達すると見られる。2015年の数字の実に10倍以上だ。
同じ時期にインドでの市場規模は6倍に成長し、同程度の規模になるだろうと、コンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニーは予測している。

多様性に富む地域でどう戦うか